塵が積もっても風で吹き飛ぶ
死屍累々、と言うのだろうか。最終的に戦意喪失気味だったとはいえこちらに剣や槍やらを向けた衆がそこかしこに転げる様は、中々どうして壮観ではある。
自分が無能であると知り、ならばどうすれば主人公になれるか考えた時、考え付いた答えは只ひたすらにスキルを身に付ける事であった。無論仮に相手の10倍スキルを習得した所で、直接ぶつかれば砕けるのはこちらであるが。
故に全ての一撃に渾身の力を込めて、剣を消耗品としてでも打ち合うスタイルを考案した。最初は木の棒を集め、岩を砕けるまでひたすらに打ち込み続ける。本来の主人公が何を得物とするかはわからないが、とりあえずスタンダードな武器の使い方は片端から習得していく。
そもそも、剣という武器は前世では儀礼的な意味合いの強いサブウェポンであり、戦いで使う武器は槍や斧のような長物であったと聞いたことがあった。見世物や船上、決闘などではまともに使われていたかもしれないが、詰まる所強い装備では無いのだろう。
であるならば、何故私が今剣を使っているのか。答えは簡単で、最も効率よくスキルを重ねて打ち込むのに適した武器であり、かつ長物のように複数持つ事が難しくなかったからである。
どうやらチュートリアルとも言えようこの学園の同級生ではどうやら打ち合いにすらならなかったようだが、とはいえ所詮は訓練も受けていない子供にただ勝ったところで果たして喜べるものか。
属性相手に打ち勝つ。常識とやらで考えれば偉業であり異常なのだろう。途中から審判としても動かずにぽかんと惚けている担任を見ても曲芸などよりは余程肝を抜く事が出来た様子ではある。
では、逆に学生程度を一蹴出来る実力者が存在しないかと問えば、私は今生の兄の存在を思い返すを得ない。
この世界の属性はどうやら8種類あり、基本的な4つの属性、火、水、風、土に加えて上位属性と呼ばれる光と闇、魔物が持つ邪と聖人認定される聖属性である。
基本的な属性に優劣はなく個人の練度次第でどうとでもなるが、上位属性と呼ばれる光と闇であれば話は変わる。単純な話、優に3倍は強い。伊達に上位と呼ばれてはいない。
であるならば、それら上位属性を更に重ねたらどうなるか。可能かどうかなどは知らないが、両者を持つ人間の存在を私は知っている訳で。であるならば、どうして慢心など出来ようか。
インフレバトル漫画などを見れば建物を吹き飛ばす、街を、山を、しまいには星どころか宇宙規模で消滅させるような作品など溢れている訳で、この世界において最終的にどこまでの敵が出るかなどは仮定するより他はない。
しかし、高々物を斬る事が出来る程度で喜んでいては、きっと主人公なんて肩書きは手に入らないだろう。故に、まだ足りないと。強迫観念にも似た強さへの渇望が、胸の奥を焦がすのだった。