それは始まりであり、中途であり、そして
人類が魔王に対抗する為に創り出した機関であり、才ある若者を育成する学び舎でもある中央都市の存在意義とも言える通称『学園』。人類の中でも選りすぐりのエリートのみがその才を磨き、研ぎ澄まし、いずれ来る災厄に備える為の砦。
北から、東から、南から、西から。全ての国から人材を集め教育する為のその都市は、しかし確かに名前の通りに前世の学び舎にも似た、それでいて全く別の代物であった。
都市そのものが『学園』であり、最早一つの国とも呼べる程に巨大化したそこは、しかし一つの教室という空間だけを見れば拍子抜けする程に青春の香りすら漂っている。
同じ国の出身というだけで仲良くなり、同じ属性だからと話が盛り上がる。学生と呼ばれる彼らは正に前世の学生と同じであり、故に作り物めいた世界の物語性にこそ確信が深まる。
だからだろうか。
「最後は私か。名前はジョン、属性は無し、試験を受けずにコネで入学した。こんな無能と同じクラスに入れられた程度の諸君、これからよろしく頼むよ」
がたりと一斉に音が鳴り、敵意と殺意の籠められた視線が集中する。プライドを刺激するように言ってやれば何処までも素直にヘイトが稼げる。
入学して最初の日。オリエンテーションとしてまずは自己紹介、ついでクラス内での模擬戦とも言われればイベントの管理くらいしたくもなるだろう。大方家柄なりが良いプライドの塊が最初の壁として用意されているに違いない。
ならばこそ、最初の一歩として物差しにするには丁度良いだろう。本来が覚醒して勝つのか負けて修行に入るイベントなのかはわからないが、少なくとも一つの指標とならん事を。
物心ついた時から、私は英雄に憧れていた。人類の脅威である魔王を、その眷族である魔人や魔物を倒す英雄譚に心を踊らせ、いつか私もと夢を見た。幸いにも才能はあったのか、それとも生来の気質が属性と合っていたのか。
初めて放った焔の威力に、流石私の娘だと褒められて。努力して、努力して、努力して、同年代でも私程の才能は無いともてはやされた。きっと私も英雄になれるのだと、後から思えば調子に乗っていたのかもしれない。
中央の学園に入れた時は家族が盛大にお祝いしてくれた。お父さんも昔は学園に入るのが夢だったのよなんてお母さんが笑い、娘が叶えてくれたなんてお父さんは泣きながら笑っていた。
だから、許せなかった。ヘラヘラと、家のコネで学園に入ったなどと言い、全員に対して無能だと言い放ったこの男が。模擬戦と言っても、事故が起きてしまっても仕方ないなんて全員が思う程度には。
だから真っ先に声をあげた。属性が無いなどと下らない事を言う奴なら、どうせ誰が相手をしても同じでしょうけど。だからといって、この怒りを他の誰かに任せるなんて論外だった。
「ふむ、まあ良いだろう。私が審判だが、お互いに模擬戦だと言う事を忘れるなよ」
担任だという教師はどこか面白そう言う。お互いになどと、視線は明らかにこちらに向けて言っているのはやはりあいつに思うところがあるのだろう。問題児の矯正とでも考えているのかしら。
構えた剣に焔を纏わせる。相手をみれば、曲芸師でも目指しているのか、腰に一本、背中に籠の様にしていくつもの剣を持っていた。手に持つ剣には何の力も感じない。
馬鹿にして! 馬鹿にして! そんなに消炭になりたいなら、お望みどおり燃やしてやる!
「初め!」
「はぁっ! 『スラッシュ」!」
『剣術』の初歩とも言える只の『スラッシュ』であっても、赤の神から与えられた火の属性を纏えば鋼鉄すらバターの様に溶けて切れる。剣で防いだ所で、腕の一本は剣ごと間違いなく持っていけると確信する程。
だからこそ、目の前で起きた現象が信じられなかった。何かの属性を纏った様に見えない剣はまるで溶けず振り抜かれて、私の剣が半ばから断ち切られていた、ありえない光景。
焔そのものが斬り裂かれて、地面を焦がして消えていく。まぐれ? 奇跡? そんなもので、そんな言葉で片付けれるような一撃ではなかった。そんな程度で負けるような努力を、私はしてこなかった。
ならば、コレはあいつと私の順当な実力差で。本能で理解しても、理性が理解を拒む。身体が動かない。当然だ、既に剣の間合いに居るのだから、既に斬られて死んでいる。いや、斬られてなどいないし死んでもいない。
チャキリと、振り抜いた剣の刃がこちらを向いた。後退りすら出来ず、ペタリと地面に座り込む。口から漏れるのは声にならない悲鳴。意識の端では下着の始末について現実逃避を始めていた。
ゆらりと揺れる視界は、意識を失う兆候だったのだろうか。ゆっくりと倒れていく身体が、まるで抱きとめられるような衝撃を感じた時、何処までも上がる心拍数と裏腹に、目の前が真っ暗になった。
ヴァリアブルバインダーでは無いです。本気で振るうと砕ける武器ならいっぱいあればいいや理論武装。