表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰よりも。

 人は自分の感情を人前で素直に表す事は出来ない。そして今この場所にも。


「おはよー!」

「お、おはよー!」


 いつも通り教室に入っていく。

 何気ない皆が交わす会話。それら一つ一つに思いが込められている。

 あの光るような笑顔を俺は毎日毎日見に来ていた。


「あきらくん、おはよ!」

「桜!おはよ!」


 俺は桜と話す度につい肩に力が入ってしまう。でも今日はいつにも増して力が入る。

 時間が一秒たつごとに胸がだんだん苦しく、もどかしくなってくる。


 そして卒業式が過ぎ教室に戻るとクラスの皆は泣いていた。俺はまた違う感覚でなぜか後悔している。


 その後クラスの皆は互いに仲間へのメッセージを書いていた。『またいつか会おう』『これからも元気でがんばってね』などのメッセージをもらい、いよいよ桜に書いてもらうとき。


「あきらくん!メッセージかこ?」

「そうだね。」


 俺は桜に言わなきゃいけない大切な事があると思った。だがこのメッセージを書くときにはまだ自分に正直になってはいなかった。


 だからこう書いた。


『桜の見せてくれる笑顔は毎日俺を励ましてくれた。これからもその笑顔でファイト!』


 決して『今まで』という言葉は使わなかった。というか使いたくなかった。今日で桜と別れるのがつらかった。

 胸の苦しみが高くなってくる。

 桜のメッセージを見ようとすると、


「まだ、見ちゃだめ。」


 俺はその言葉を受け入れた。


 そして別れのとき。皆今まで過ごしてきた仲間と写真を取り合っている。

 そんな中、桜は先に帰ろうとしていた。友達との写真も断り、すぐに桜のもとへ走っていった。


「桜!」


 その言葉に驚いたかのように桜がこちらを振り返る。風が俺たちの間を通り抜け花びらが舞っている。その花びらはいつもより明るく見えた。

 胸の苦しみが大きくなる。

 桜の顔を見るとたくさんの涙が頬をつたって地面に落ちている。

 

「どうしたの??桜?」

「分からない。分からないよ!なんでこんなに胸が苦しいの?」

「え。」

「なんで、あきらくんも泣いてるの?」


 自分が泣いていると分かったとき何も考えることが出来なくなって頭が真っ白になった。


「なんで、俺は泣いているの?」


 流れ落ちる涙の一滴一滴に意味があるように思えた。

 涙を抑えてあげたいと思い、桜の方に歩み寄り抱きついた。


「え?」

「あ、ごめん!つい、」


 桜はクスッと笑いこういった。


「バカみたい。」


 その笑顔を見て分かった。

 俺は誰よりも桜に元気づけられた。

 俺は誰よりも桜に笑顔をもらった。

 俺は誰よりも桜といたかった。

 俺は誰よりも桜を大切に思った。

 そして、


 『俺は誰よりも桜の事が大好きだ』


 俺は桜にこんな言葉を残してきた。


「元気でな!」


 その言葉を聞いて桜は今までで一番の『涙』と『笑顔』を見せてくれた。


 家に帰ってメッセージを見返していると桜のメッセージが目に入った。そこには、こう書いてあった。


『またね』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ