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第捌話 リバーシ

 このはの説明によれば、隔世にも玩具の類いは存在し、それを作る職人も多くいると言う。

 しかし、それらは皆隔世で伐採された木々を用いた剣玉や将棋、囲碁といった、助六や鈴からしてみれば昔懐かしいを通り越して古道具の域に達する物ばかりだ。

 もちろん現代でも愛好家は存在するし、それを仕事として生活するプロも多く存在するが、電子ゲームのほうが親しみやすい現代っ子な二人である。


「こういうのはみんな、初めて見るだろ?」


 助六はくたびれた紙箱に入っていた、リバーシの盤を地面に置いた。

 興味津々といった様子の小さな少女たちが、恐る恐る近づいて、のぞき込む。


「ふわぁ、すごい」「初めてー」「ぴかぴかしてる!」


 助六が差し出した玉を受け取り、彼女たちは天にかざした。

 多少経年劣化しているとはいえ、プラスチック特有のつるりとした表面は健在だ。


「じゃあルール、えっと、遊び方教えるな」


 盤の前に腰を降ろし、助六はパチパチと玉を盤上に並べていく。

 その様子を、少女たちは瞳を輝かせて見つめていた。

 助六が顔を上げてみれば、澪やこのはもまた、妹たちの肩越しに様子を見ている。


「こうやって、市松模様みたいに白と黒を並べる。白と白で、黒い玉を挟むと、黒はひっくり返って白になる。わかるか?」

「あい!」


 元気よく手を上げて答える子蜘蛛の少女である。


「白と黒が、こうやって交互に玉を置いていって、全部の升が埋まったときに一番色が多い方が勝ちだ」

「かんたん!」「これなら私でもできるー」「あ、わたしやりたいっ」


 すぐにルールを理解したらしく、彼女たちは我先にと玉をつかむ。

 自然と十人ずつの陣営に分かれて、互いに相談しながら玉を置いていく団体戦になっていた。

 細い八本の足を器用に動かしてボードを囲み、和気藹々と玉を並べている様子は可愛らしい。


「へー、現世にはこんなおもちゃがあるんっすねぇ」


 助六が立ち上がり、砂を払っていると、感心した様子の澪が歩み寄ってきた。

 その視線の先には楽しそうに遊ぶ妹たちの姿があり、どこか緊張がとれたような面持ちである。


「ボードゲーム系はマニアもいるくらいだしな。ほかにも人生ゲームとかチェスとかもあるけど、リバーシが一番わかりやすいだろ」

「ぼーどげーむ? ……うむむ、ちょっと現世の言葉は苦手っすね」


 なれない横文字の羅列に眉を寄せる澪に、助六は苦笑した。


「ボードゲーム以外にもいろいろアナログなおもちゃがいっぱいあったから、これにあきても当分は大丈夫だと思うよ」

「いやー、ほんと。ありがたいっす」


 手を合わせ拝む澪。

 自分の手柄とは言いがたい故に、助六は反応に困った。


「助ちゃん、今度トランプとかも持ってこようよ」

「それもいいな。七並べとか神経衰弱とかならルールも簡単だし」


 いつの間にか側まで来ていた鈴の提案に、助六も首を振って賛同した。

 トランプなら、助六も何セットか自宅のどこかで眠っているはずだった。

 それに、トランプはそれ一つで様々な遊び方ができるのが魅力的だ。


「とらんぷ……というのはどういった玩具でしょうか」


 耳をぴこぴこと震わせて、興味津々といった様子でこのはが会話に加わる。

 彼女も見慣れない現世の玩具に目を奪われているようだった。


「トランプっていうのは、うーんと、札遊びっていったらいいのかな」

「ほぅ。かるたみたいなものでしょうか」

「うーん、ちょっと説明難しいな……」


 横文字は隔世では通じないらしく、助六はトランプの説明に頭を悩ませる。

 そうして、やはり実際に持ってきて見せるのが一番だろうという結論に落ち着いた。


「今度持ってくるから、そのときに説明するよ」

「はい! とっても楽しみです」


 このはは二本の尻尾を振って破顔した。


「私もやってみたいっす!」

「トランプは大人数でも遊べるしな。大歓迎だよ」


 側で聞き耳を立てていた澪も目を輝かせていた。


「それじゃあ、今度来たときは何かお礼を用意しとくっす!」

「いやぁ、そんな。俺たちはお礼されるようなことは……」

「それはダメっすよ~。妹たちの為に玩具を用意してくれたのに、ちゃんとお礼するのは当然っす! それに、お礼してないと母が……」


 何か思い出したくないことを思い出したのか、澪は目を伏せてブルブルと震えだした。

 深く掘り下げない方が良さそうな雰囲気を感じ取り、助六と澪は好奇心を抑える。


「ねーちゃん! ねーちゃんもりばーししよー!」


 ボードを囲んで熱中していた妹たちから、澪に声が掛かる。

 どうやら勝敗が決して、一段落したのだろう。


「どれ。俺もちょっと見てみるか」

「あ、あたしもみるみる~」

「それならわたしも……」


 助六たちはボードを見下ろせる位置に陣取る。

 妹たちに手を引っ張られ、澪もボードに着いた。


「ねーちゃん何色がいいー?」

「うーん、じゃあ姉ちゃん白色な」

「いいよー」


 自然と顔に笑顔を浮かべ、澪は妹たちから玉を受け取る。

 その口調は崩れていた。

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