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悪人   作者: 千切りポテト
5/8

ホノ村への帰還


456年7月18日


昨日起きたことなど忘れてしまうほど清々しい光が草木のほんの少しの間をすり抜けた。

その光は落ち葉の上に横になっている俺の右目に当たり、強制的に覚醒することになった。


うっすらとしか見えていなかったが少しだけ崩れている草木で鎌倉のように作られた秘密基地を抜け出した。

そのまま行こうとしたのかあくびをしながら秘密基地を放置し、出発しようとしていた。

そのときハッと気付いたのか急いで秘密基地周辺に戻り、急いで秘密基地を解体し、草木をまるで元に戻ったように片づけた。

普段ならここで「よし!」とでも掛け声をかけていたのだが今はそんな気にもなれず、一言もしゃべらないで山を下りていく決意を心の中で決めたところだった。

数時間ほど世話になった頂上に背を向けて山のふもとにあるホノ村へ向けて足を進め始めた。



だが、ホノ村に戻るといってもどうすればいい?


俺は何がしたいのだ?


もどって父さんに会いたかったのか?


たぶん俺は父さんにあって昨日の一連の流れを話したら、

「怖かっただろう」「もう、大丈夫だ」

などと慰めてもらえるのなどと思っていたのだろう。

いや、絶対に許してくれるはずがない。

自分の友人・・・というより、ホノ村で数少ない年の低い人間を間接的にではないが殺してしまうことになってしまったこと。

もちろんモアには家族がいる。モアが物心つくときから一緒に畑仕事の手伝いなどのいろいろな仕事を学んでいったらしい。そしてしっかり母親の体から生まれてきた親子だ。俺とも仲が良く、ほぼ毎日午後になるとモアの家に遊びに行っていた。

これは父さんからも言われたことなのだが、モアの母親からは、


「あなたたちは本当に子供っぽいわね」


と、笑いながら言っていた。

子供っぽいのか?友人と仲良く過ごすことが子供っぽいのか?

その言葉の意味は今もよくわかっていない。


あのときの後悔はまだある。


あのときに俺は切りつけられたモアを助ければよかったんだ。

たとえ俺の存在が兵士にばれたとしても、その兵士を殺してしまえば何も問題なかったじゃないか!

俺は別にあのとき死んでもいいとまで思った。

父さんやモア、それに村民のみんな。今まで俺に尽くしてくれた人には申し訳ないがこれが俺なりの恩返し。そう思っていた矢先にモアが兵士に止められたのだった。

もちろん逃げてしまいたいというのが一番の本音だが、自分の力であの状況を何とかしたいという気持ちもあったということだ。


切りつけられたモアがくれたチャンスだ!と勝手に解釈をして逃げ出したこと。

村の人たち以上にモアの親はなにもできない自分に悲しみ苦しむだろう。

目の前でモアが切りつけられる現場を見ていたのになにもできなかったこと。

これから先、俺が生きていくことの大きなトラウマ。心の大きな傷として刻まれるだろう。


できることなら時間を戻したい。


だが、もうできない。もう過ぎて、終わってしまった事実なのだから。


ただただ明るい山道を俺は遅すぎず、速すぎもしない速さで駆けて行った。



山のふもとにある小さな村が見えてきたのは正確な時間は分からないが、上空を見上げると太陽が真上にあったので、おそらく昼前後だろう。

いつしか友人の切りつけられる姿を見た大木の裏に隠れた。ここからだと小さいホノ村なら広く見渡せることができるのでついここにきてしまう。


のぞいてみると外には人影はなかった。

みんな中にいるのか?

そう思い大木からからのぞき見るのをやめて村へ侵入していった。


「しかし、本当にいないな・・・」


本当に人の気配がしない。いつもなら辺りの家から、ちょっとした話声が聞こえてくるものなのだが…


「戻ってみるか」


誰も聞いていないであろう独り言を発し、5年間世話になった我が家へ行ってみることにした。


俺の家は村の西端にある。近くには家がないので、畑をほかの家より広げられる。

だから主に自分の家にくる仕事は畑仕事関連になる。

俺は西端の自分の家の畑を進んでいき、柵を乗り越え家の玄関前までやってきてこっそりドアに耳をつけて中から音がするか確認してみた。

すると、中からガサゴソと音がした。

何だ・・・いるじゃないか・・・なにか探し物でもしているのか?

活気よくドアを開けることなどできはしないのでしずかに開けることにした。


「た、ただいま」


どこか弱弱しく自身のない声が家の中にひびいた。

「家へ帰ったら、まず、ただいま。」誰もが言われたことのあることであろう。

当たり前のことをしているだけなのに緊張感が走る。

俺は当たり前のことをしているだけ…俺は当たり前のことをしているだけ…俺は当たり前のことをし・・・

何度も脳内でそうリピートをし続けた。

家の中を見渡してみると先ほど聞こえたガサゴソという音は気のせいかと思ってしまうほどきれいに片づけられていた。

そうしているうちに俺の帰還に気がついた父さんが近づいてきた。

その顔は特別怒っているわけでもなく、笑顔でもない。真顔だ。どこか重い表情でこちらにあるいてきているのだ。

当然そこから逃げられるはずもないので俺は慌てるほかなかった。

すると・・


「お!お帰り!シェン!どこ行っていたんだよ!」


と、威勢のいい声が聞こえてきた。


「え・・・えっと・・・・と、父さん?」


困惑するはずだ。自分が想像していた答えとまったく別の答えが返ってきたのだから。


「検査っつったってよぉ!そんな何日も隠れてろなんて言うことじゃねぇんだぞ!?村のみんな心配してっから、明日、帰ってきたって報告しような!」


「え・・・報告・・・?」


「なんだ?報告いやか?せっかくみんなに会えるのに・・・」


この際、まだ24時間も経っていない、というツッコミは控えておこう。


「え・・・い、いや・・・・いやって・・ことは無いんだけど・・・・」


「なら、今日は寝ろ。疲れてんだろ?詳しいことはまたこんど聞くからさ!」


「う、うんわかった・・・」


とりあえず納得した。いや、納得するしかなかったが正しいか・・・


1日ぶりの自分の部屋に入っていき、1日ぶりの自分の布団に寝転がる。

あぁ、やっぱり落ち葉ではなくふわふわな布団に限る・・・

様々な疑問を残して俺は落ち葉でなくふわふわな布団に囲まれながら眠りについた。


456年7月19日

昨日起きたことなど忘れてしまうほど清々しい光が窓で反射し、部屋の中に侵入してきた。

その光は自分の部屋の布団の上で横になっている俺の右目に当たり、強制的に覚醒することになった。


そこからは何でもない日常が始まった。

体内時計8時頃に目覚め、太陽が空の真上に上がると畑仕事終了となる。

そして午後になると釣りへ出かける。


そう、まったく何でもないんだ・・・・



まったく、変わらないんだ・・・


はい、お久しぶりです。2週間ぶりですね・・・

投稿ペース速めるように努力中とかいったのに、この裏切りの2週間・・・

リアルでいろいろと忙しかったのもあり、書き始めたのは2日前でした。

本当にすみませんでした。


次回 6話「王都へ」

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