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作者: 永山 楓


「一度でいいから、空をみてみたいな」

上をみながら友人が呟く

その声は、なにかに憧れているようだった。

「なに言ってんだよ。今、空をみているじゃないか」

友人と同じように上をみながら俺は答えた

「いや、そうじゃないんだ」

友人は言う

「確かに、今、僕たちがみているのも空だ。けど、違うんだ

「昔、聞いたことがある。空の上には、もうひとつ空があるって

「それがみたいんだ」

上をみる友人の顔は見えない


ふーん。

返事をする。 空の上に空がある? よくわからなかった

眼前に拡がる水色は、どこまでも高く、遠く、澄んでいる


  ――この終わりのないような空の果て――


そんなものがあるかもしれないだなんて、考えたこともなかった。

でも、そう考えてみると、いつもの空なのに、どこか違ってみえて。

いつものように下から揺れ、昇ってくる泡さえも輝いてみえた。


「俺も、みてみたい」

自然と口からこぼれる

言った後、自分でも驚いた。今までこんな話に興味なんてなかったのに。

隣をみる

「じゃあ、いつか二人でみにいこう」

友人は、ちょっと意外だという顔をしたあと、微笑んだ

「あぁ」

ぶっきらぼうに返事をし、そっぽを向く

  俺たちは、しばらく空を眺めていた




そんな出来事から、月日は流れ

ふと、上をみる

あの日から、俺はときどき空を見上げるようになった。

今日も、いつもと同じ空のはずなのに、なぜだか気になって仕方がない

心がざわついた

それは隣にいる友人も同じなようで

ただ、なにかを待つようにじっと空をみつめている


「……きた」

友人の言葉につられ、上をみた

「……?」

気のせいだろうか

空がいつもと違う

もう一度、見上げる

やはり、いつもと違う


  空が、近づいてきている


その表現が一番しっくりきた

いつもはあんなに遠い空が、段々と近づいてきている

一体何が起こっているのかと、辺りを見回すが、俺と友人以外誰一人とおらず、何か大変なことが起こっているはずなのに、いつもと変わらず静まり返っている

それが逆に俺の不安を煽っていた

そうしている内に空の境界線はもう目の前に迫っていて

思わず硬く目を閉じてしまう

頭上からなにかが通り過ぎ、下に降りていく感覚

それと共につめたいものが頬をなでた

恐る恐る目を開く


俺の中の時が、止まった

そんな錯覚さえおきる



はてしなく続く境界線に茜色の光か映る

光の色は少しずつ緋色へと変わり、とうとう沈んでしまった

その代わりに青白い光が浮かび、小さな輝きが辺りをうめつくす

暗闇に拡がる小さな輝きは視界一杯に散らばり、キラキラとまたたいている




「……綺麗」

友人の言葉に頷く

それしか言葉が出てこなかった

下をみると、俺たちが「空」だと言っていたものが胸元で揺れている

俺が動く度に、波紋は拡がる

星が、揺れた



どれだけの間、眺めていたのだろうか

いつの間にか、辺りは白く染まっていた

空の上にある空は、幻想的で

いつまでもこのまま眺めていたいと思った

しかし、時間は有限なようで

段々と、水位が上がってくる

俺たちは海の中へと戻っていった


またいつか、もう一度


その言葉を胸に抱いて

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