3話_VSザン(完)
「そうか……」
モニターを見終わったフリックは黒と白のヒョウ柄のバンダナを締めなおす。
フリックが目指す先は、このFSBを優勝したその先にあった。
賞金も欲しいが、ここで得る評価で、魔気を使ってでしか入れない異次元の隙間にある最奥のステージへの挑戦を円滑にさせる為だ。
第二回戦が全て終わると、闘技場へと向かっていった。
『準決勝ーーーー! まずは準決勝第一試合フリック対ザン! 赤コーナー、フリック!!』
「「うわあああぁぁぁ!」」
シーカイージの紹介で闘技場に入る為の扉を開くと、肉体記憶が光球に閉じ込められ、そこから霧吹き魔気で構成された肉体が形成されていく。
異次元の隙間も同じ構造。魔装結界を作った人間は魔気依存症であったが、そのエリアに入ったことがあるからこそ作れたのだろう。
『青コーナー、ザンんんんん!』
「「わああああぁぁぁ!」」
厳つい顔に、黒の服。青いズボン。太いが、脂肪は少ない体。
ザンが出てくると、こちらにも似たくらいの歓声が上がる。
二人は睨み合う。
『さて、例によってコメントを貰いましょうー! フリック、いかがですかー?』
フリックの前にサークルマイクが出てくると、そこに顔を近づける。
『よぉ、ザン。今日は残念だが、負けて帰りなよ』
好戦的な態度と取った観客が盛り上がり歓声を上げていく。
『挑発的だーーー! 対するザン、いかがですかーー?!』
『わりぃが、帰る訳にはいかねぇ。負けるのはフリック、お前だろ?』
静かな闘気がザンから出ているようだった。既にオーラが漏れていた。
観客は前回の準優勝者であるエルエフを倒したザンに期待を込めた歓声を送った。
『では、両者スピリットセット!』
フリックは緑のオーラを出せば、両手にオーラで出来た短剣の柄を握る。
ザンは厳つい顔をしたまま、茶色のオーラを際立たせていく。右手に形どらせたスピリットウェポンは棍棒だった。先端方に行くに従って、太くなっていた。
『ファイト!』
早速フリックは足にオーラを多めに流し、短剣を構えて、颯爽と駆ける。
ザンに斬りかかろうとすると、棍棒を横斜めにスイングしてくる。それを前方上に跳躍して、避けた。
と、ザンの左手の平がフリックを向き、茶色のオーラが瞬間的に集まり、扇状に放たれた。
『ソウルバンだーー!』
良いタイミングで打ち込まれたソウルバンに、シーカイージが興奮する。
フリックは短剣を持ってた指を少し開き、指先にリトルバブルボールを作り出して放った。
ソウルバンはバブルフローと衝突して、弾けたバブルフローにソウルバンが破裂する。
「ここまでは読めてんだよ甘ちゃん」
左手を即座に引っ込めたザンが、フリックがいる方とは反対側の棍棒の先の方を持つと、棍棒にソウルブーストをかけた。
ソウルバンは攻撃的なオーラが含まれているが、ソウルブーストには噴出力にオーラが含められている。
棍棒に与えられた噴出力で、凄い速さで棍棒がフリックに向かって打ち出された。
「……っ!?」
左の短剣で逆手で持ちながら受け止めて、右の短剣を落とした直後にソウルブーストをザンに向かって打ち込む。
受け止めた短剣が砕けて散り、左腕に棍棒が打ち込まれながらも、後ろへと吹っ飛んでいく。
「くっっ!」
「逃げたつもりか? バカ」
ザンは足元にオーラを強めに流して、地面を爪先で蹴り込むと、前に勢い良く跳んだ。
「ザン、足元に注意しな」
「あ?」
と、横から短剣が飛んできていた。
咄嗟のことに避けきれず、左足首に刺さる。
「がぁっっ!」
何故?
ザンは呻きながら、頭の中でに疑問符だけが飛び交う。
フリックは、さっき落とした短剣の柄の後ろに付いていくように、バブルフローも同時に出していた。
弾けた勢いは、ソウルブースト程では無いが足首を突き刺せる程だ。
『す、凄い! オーラで機動力を増したザンの動きを読んでスピリットウェポンでの攻撃ぃーー!』
実況のシーカイージも驚くほどの攻撃でもあった。
吹っ飛んだフリックは背中を強かに打ちつつも、そのまま後転を行って地面を蹴って跳躍する。
砕け散った短剣は既に左手には無く、短刀を出して、動きの止まったザンに投げる。同時にザンの左足首に刺さった短剣は霧散して消えた。足首からはオーラが漏れていく。
「ざけんなぁ!」
ザンが体中からショックウェーブを放つ。
距離は短いものの、ドーム状に広がった衝撃波が投げつけられた短刀を弾き飛ばす。
そのまま屈んで、棍棒を持ってない方の左手でソウルブーストを地面後方に放ち、自らの体をフリックの方に飛んでいく。
フリックは着地すると、両手に短剣を持ち構える。
さっき受けた左腕には痺れが残っていたが、飛び込んできたザンの傷ついた左足首の方へスライディングで滑りぬけざまに短剣を交差して足を狙った。
「ケガを狙われるのは分かってるよ、甘ちゃん」
飛び込んできていたザンは棍棒に再びソウルブーストをかけて振り回してきた。
「ちっ」
瞬間に短剣を両方共消す。
ソウルブーストを放って、ザンから放れる。
棍棒はフリックのいなくなった地面を叩き抜け、激しい打撃音が響く。
そのまま左手で相手が逃げた方向へソウルバン。
扇状のオーラが襲うと、フリックに届く手前で破裂した。
「追い打ちが甘かったのは俺か」
ザンが勝てたと思った瞬間だったが、バブルボールで相殺されたのだと理解した。
と、足元で何かが弾けた。右足に小さい穴が開けられていくのが視界に入った。
リトルバブルボールだ。
「甘かったのはザンだったね」
ザンが驚いている間に、フリックは一気に間合いを詰めて、短剣を両手に持って構え直していた。
右で下から斜めに袈裟切り。
左で脇腹を狙うものの、棍棒で防がれる。が棍棒は指から放ったリトルバブルフローで弾かせた。
一緒に左の短剣も弾かれる勢いで、右で横から脇腹を斬り、回転。
左で下から斜めに袈裟切りを放った。
「くそっ、舐めんじゃねぇ!」
苦し紛れに振り回される棍棒。
屈んで避けながら、右の短剣は消し、右手を地面に着けば、ソウルブーストで跳ぶ。
左の短剣で首元を斬ろうとするも、ついにザンのソウルバンで左手を吹き飛ばされた。
右手を地面に付いたときに、既にザンの足元に放っていたリトルバブルフローは弾ける。
刺した左足首を確実に捉えて、左足が衝撃で吹き飛んだ。
ザンが姿勢を崩すと、右手に出した短剣が切り口に重ねるように、心臓部を抉り斬った。
それがトドメとなって、ザンの体全体にヒビが入っていく。
「フリック、やるな」
「ザンも、ね」
言葉を交わした後、形を維持出来なくなったザンは茶色い光の玉となって、闘技場より強制排出された。
『勝者、フリックーーー!! 熱い戦いでしたっ! 一歩間違えればフリックが負けてたっ! しかし、勝ったのはフリック! 決勝進出ですっ!』
シーカイージの実況の後に、観客が大きく歓声を上げる。
左手を失ったまま、緑のオーラを消すと、ザザっと魔気の砂嵐でオーラでフリックを姿形を取る前の、左手があった時の元の怪我のない状態に戻った。
左腕を上げて歓声に応えるようにして、闘技場の舞台から出ていく。
(いやぁ、ショックウェーブを打ってきたのは驚いたなぁ)
フリックは、ちょっとだけ危ないと思っていた。
控え室に戻るための通路で、ザンが仁王立ちで待ち構えていた。
仁王立ちの似合う男だ。そうフリックは感想を抱く。
「なかなかやるじゃねぇか。俺は今後もスピリットバトルはやっていく。だけど異次元の隙間で七階層まで行ったら、ギルドを立ち上げて新たなスピリットバトルの大会を作る。グランドバトルスピリットだ。略してGBSだ。どうだ?」
「応援はするけど。今年優勝して、来年のFSB出たら結果がどうなっても、異次元の隙間攻略に専念するよ」
ドヤ顔のザンに、フリックは苦笑いして答えた。
残念そうな顔をしたザンは肩を竦めて「そうか、優勝しろよ」と言って去っていった。
次は決勝戦だ。
決勝相手はカルディア。第一回FSBでも、準決勝で戦ったことのある相手だ。剣と盾のスピリットウェポンの、元騎士のスピリットバトラーだ。
始まった決勝戦。
結論から言うと、ザン程強くなかったものの、決勝の相手だけあって強かったが勝利した。
スピリットバトルにおいての盾は、重さと耐久力を調節しなければ使い物にならない。それを上回るフリックの速さと切断力で盾を壊し、カルディアを倒したのだ。
二度目の優勝を果たしたフリックは、諸手を上げて喜ぶ。
「よしっ!」
『フリック、二連覇達成ーーー! 優勝したフリックには賞金と身代わりの指輪が与えられます! 二連覇達成の感想を聞かせてくれぇぇ!』
フリックの前に現れたサークルマイクに、顔を近づける。
『俺は来年で最後にする。他のバトラー達は、レベルを上げて掛かってこいよ!』
歓声は更に上がっていく。
そして、フリックは翌年も優勝することになるが、それはまた別の話。
第二回のFSBは盛り上がりを見せたまま終わったのだった。
スピードとスピンに優れたフリックの戦い方は、皆が憧れるものとなった。
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