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ねるねるねるね~お釜師匠と子狸少女の魔女修行~  作者: 帰初心
1章 師匠は台所に棲息していた
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第7話 私信じてみる

 夜の帳が降りてきて、暖炉の火が明るく揺れる。


 ダイニングルームには、椅子が4つ。

 1つには腕を組んだ、仏頂面の駐在さん。

 もう1つにはニコニコ笑うメガネの神父。


 残り2つには私と妹がちょこんと座る。

 妹はクマのぬいぐるみを、ずっと抱きしめて離さない。


 私は大人2人とお釜師匠をジト目で睨み、状況の説明を求めた。

 黒の頭巾はもう下ろしている。






 駐在さんは眉間に寄せ、何かを言いあぐねていた。


「何というかだな・・・・・・」

「全てはお釜さんの手の中、という事ですよ」


 神父が苦笑しながら、代わりに説明をする。

 先ほどまでの真剣な謝罪のせいで、私は彼を頭から否定出来なくなっていた。


「1ヶ月前から軍と教会の情報が何者かにハッキングされまして。大分機密情報が流出してしまいました。国をあげて犯人を捜していますが、未だに見つかっていません」


 ということに、表向きはなっています。


 と神父は付け加えた。


「俺の大失態だ。釜にしてやられた」

「ふふふ。カイルちゃんの顔の広さには助かったわあ」


 なんとお釜師匠は以前駐在さんが訪れた際に、黒い影のような使い魔を潜ませていた。


 しかし考え事をして気が付かなかった駐在さんは、駐在所のパソコンを立ち上げ軍のサーバーに繋ぎ、メロン味の魔法薬の情報を一部の上司と知り合いの関係者に送った。

 その隙を使い魔が狙い、パソコンに憑依した。

 使い魔は一気にネットワークを駆け上り、数分で軍のサーバーから情報を取り出してしまったのだ。


 さらには後日、教会の研究所に送られた魔法薬にも使い魔が潜んでおり、研究所ないのパソコンを乗っ取って同様のことをしたらしい。


「おかげで私が活動をしていない間の、世界の情勢を掴むことができたわ。

 科学って面白いわよねえ。昔は魔法しかなかったもの」

「分かりますか、お釜さん。この魅力が」

「ええ。魔法と違ってシンプルで誰にでも使えるというのは、実用性の高い学問ね。

 力のないものにとってこのような理は、あってしかるべきものだわ」

「ふふ、流石です。お釜さんと私は気が合いそうですね。出来ればあのハッキング技術も習いたいものです」

「あなたは魔法修得も出来そうだから、是非教え合いたいわね」


 うふふふふ~と楽しそうな会話をするお釜師匠と神父。

 駐在さんは気持ち悪そうに、2人(1人と1釜?)を眺めた。


「とにかくだ。ハッキングに使われたウイルスが魔力を帯びているという報告がなければ、俺はとっくにウイルスをばらまいた罪で国の重罪人になっていた」

「まさか、魔道具ではっきりとした意思と知恵を持つ物がいるとは、誰も想像していませんでしたからね」



 その後師匠は、駐在さんが上層部から招集された時点で行動を開始した。

 自分の存在に気付いた軍と教会の研究者を通じて、魔道具の自分の存在を表明したのだ。

 さらには、大昔の魔族の貴重な情報を対価に、国に取引を持ちかけたというのだからすごい。




 1つ、自分はあくまで政治的に中立な魔道具であること。


 1つ、目下の目的は2人の魔女の育成であり、それを邪魔しない限り、軍や教会であってもなんらかの協力は惜しまない。


 1つ、魔族の子供2人は立派なカント国民である。平穏な村の生活を保障し、教育が終わっても2人の意志を遵守すること。


 1つ、協力者として軍と教会からはそれぞれ1人ずつ手伝いを出すこと。なお、彼らから魔女に関わるどんな情報が流出しようが、魔法生成物の自分は関知しない。





 す、すごいよ師匠。

 しゃべるだけのお釜じゃないとは思っていたけど、国と駆け引きまでできちゃうなんて。

 師匠はお釜の最先端だ!


「おかまししょーはすごいのね」

「当たり前でしょ。その辺のお釜と一緒にしないでちょうだい」


 私たちの尊敬の視線を一身に集め、鋼の体がふふんと幾分か膨張したように感じる。


「特に最後の1件は、うちの上層部が歓喜してな。

 俺を生け贄に叡智のお釜様から、出来るだけの情報を盗んでこいと指令が降りた」

「そもそも私は研究所からの派遣の上に、所長は化学合成による魔法薬作成が専門ですからね。すぐにOKがでました」


 むしろ狂喜で踊り狂う所長が、すぐに自分と交代したいと言い出したので、黙らせるのに苦労しましたよ。

 神父はお釜師匠と私たちを優しく見回しながら、よろしくお願いいたしますねと微笑んだ。


「ふふ。折角素晴らしい知識をお持ちのお釜さんと、魔族のけんきゅ、いえ、可愛らしい子供がいるというのに。ラボに戻るのは早すぎます」


 !? 今、私たちのこと研究対象って言ったよね!?


 悪い人ではないのかもしれないけど、この人変だ!


 私が目を見開くのを駐在さんは気の毒そうな顔をして見た。

 そして、頭を掻書きながら私たちを見つめる。


「まあ、俺のスタンスは今までと変わらん。お前等は大切な村の子供だ。何かあったら守ってやるし、あの釜野郎に無茶を言われたら俺に言え」


 そういって、私と妹の頭をぽん、と叩いた。

 瞼がさらに開く。


「駐在さんは、私たちの耳としっぽ、気持ち悪くないの?」

「今更何言ってるんだ。お前等のトレードマークなどとうの昔に知っている。

 そもそも村中が知っていことだ。全く気にならんな」


 こっちはむしろお前等のしっぽを愛でたいとのたまう、変態野郎どもをぶちのめす方が忙しいわ。







 私は再度、びっくりした。


「え、村の人も知っているの!?」

「おばちゃんもしってるの?」

「ああもう、村中の連中が知っているし、気持ち悪いなんてそもそも思っていない」

「そうですよ。むしろかわいいって評判なんですから、自信をもってください」


 ますますびっくりする。


「っでも、前の神父たちが私たちを糾弾した時も、悪魔とは言われても耳としっぽのことは言わなかったよ!?」

「そりゃあお前が外見を気にしていることを知っていたからだ。

 村の連中は決して前の神父に外見のことは伝えなかったし、憎まれ役を買った奴らも、それだけは絶対に悪く言えないと泣いていたな」


 みんな知っているって?

 どういうこと?

 憎まれ役って何?


 駐在さんは前の神父からの守るために、わざと嫌われ役を引き受けた連中がいると説明をしてくれた。


 さらに、なぜ村中の人が私たちが人間とは違うと知っているのだと訪ねると、途端に皮肉な表情になった。

 それ、と私のしっぽに指をさす。

 びくっとしっぽが立った。


「おいフラン。『頭隠して尻隠さず』って格言、知ってるか?」


 お前のしっぽはモロばれなんだよ。

 いつも動いているから、あのイカレた神父以外、誰が見たって分かったぞ。

 裾の広がるスカートに隠したつもりで、ぶんぶん振り過ぎだ。


「饒舌すぎて笑えたわ。隠すならもっと上手く隠すんだな」

「うわあああああああああああ」


 両手で顔を隠すが、指の間から火花が出るくらい、真っ赤になった自覚がある。


「あっはっは、バカねー。やっぱりあんたは間抜けだわあ」

「師匠! 気づいていたのなら言ってよー!」

「だってあんた必死にカイルちゃんがくる度にフードを引っ張ってるじゃない? 

 その都度カイルちゃんが呆れた顔で、あんたの忙しないしっぽを見つめているのを見るのが可笑しくって。ほっとくに決まってるじゃない」

「そのカイルちゃんってのはやめろ」

「ぎゃー!」


 もうやめてー!





 周りがわいわいと賑やかす一方で、妹は手の中のクマをいじりながらぽつりと言う。


「じゃあ、おばちゃんとおじちゃんは? おばちゃんはシンシアの耳としっぽが好き?」


 私ははっとした。

 おばちゃんたちは私たちを人間じゃないと知っていて、ずっと子供に欲しいと思ってくれていた。


 それなのに私はおばちゃんに何をしてきた?


 何を言っても逆らって、耳を塞いでばかり。

 恩も義理もなくくれる無償の好意を、考えもせず甘受しては感謝もしない。


「私、なんてことをしてきたんだろう」


 大人たちの声が消える。

 代わりに自分の中で、ざあっと血の気が引く音がした。


 私・・・・・・おばちゃんに嫌われてもしょうがないことをしてきた。

 でも、嫌われたらどうしようと今考えている。


 そんな自分勝手な私は、やっぱり嫌われるんだ!





 ごっつん。

 深く落ち込んで行く思考を、拳骨の痛みが取り戻した。


「痛い!」

「またしょうもないことを考えていただろう。いい加減、勝手に後ろ向きに暴走する癖はどうにかしろ。

 『やっぱり』も『でも』も、今後は禁止な」


 涙目で見上げると、駐在さんが拳を固めている。


「お前の小さな頭に入るか分からんが、もう一つ格言を教えてやろう。

『バカの考え休むに似たり』、だ。聞きたいことがあるなら大人にちゃんと聞け」


 子供が子供だからといって、頭ごなしに否定するようなやつは村にはいない。


「昔はいたが、ちゃんと俺が躾た」

「カイルさんの駐在指導てっけんせいさいはすごいですよ。自分でも見ていて引きますから」


 だから、嫌われたくないなら、ちゃんと女将に当たってこい。

 彼女は決して、お前から逃げない。


 駐在さんの言葉が、胸にじわりと染み込んでいく。






 その時、戸口でコトリと食事のざるが置かれた音がした。

 この音は・・・・・・・・・!

 窓枠から、カンテラの光が垣間見える。


 妹が椅子からうんしょと降りて、私の手をひっぱった。


「お姉ちゃん! おばちゃんだよっ 行こうよっ」

「で、でも私なんて顔したら」

「あら~『でも』は禁止にされたんじゃなかったのかしら」


 どうせあんた狸顔なんだから、笑われてはしても怒られなんてしないわよ。

 お釜師匠のからかうような声。


「私、私・・・・・・」

「お姉ちゃん!」

「早くしないと、行っちまうぞ。同じことを繰り返す気か?」


「・・・・・・!」


 体を衝動が突き動かした。

 椅子を飛び降り、ドアを全身で開けると、小道の向こう。

 カンテラの光で浮かび上がったおばちゃんの後ろ姿。



「おばちゃん・・・・・・!」




 妹と私は、おばちゃんの大きな背中を目掛けて、全力で駆けていったのだ。

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