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ねるねるねるね~お釜師匠と子狸少女の魔女修行~  作者: 帰初心
1章 師匠は台所に棲息していた
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第5話 ゴーレムさくらんぼ味

「フランちゃんシンシアちゃーん! おれたちの事情も聞いてって早っ。もういねえ!」

「あんたら本当にじゃんけんも弱ければ間も悪いね!」


 風を切って走る後ろから、ふさいだ耳を通して何かが聞こえるけれど、全てが遠い。

 

 おばちゃんとあの人たちとは仲が良さそうだった。

 みんな繋がっていたのかもしれない。

 行く人の顔が仮面に見える。


  やっぱり。

  やっぱり。

  やっはり。


 人は裏切るんだ。

 他人は、怖いんだ!


 お山の月が、脳裏に浮かぶ。




「フラン!?」


 正面から歩いてきた駐在さんの横を通り抜け、大通りを飛び出た。

 ひっぱる妹の両足が浮いてしまっているけど、気になんてしない。




 後はあの丘を越えて小屋に、という所で教会から出てきた人に激突した。

 勢いで妹は空中に浮き、狸に戻ってコロコロ転がった。


「あいたたた。君たち大丈夫かい?」


 起きあがった人は、神父のカラーを巻いた黒い服装をしていた。

 亜麻色の髪と緑の目で、確かメガネをしていたと思う。


 思うというのは、その時私は神父の黒い服を見ただけで恐慌状態に陥っていたからだ。

 じり、と距離を開け、目を回す小狸の妹を慌てて回収すると、一直線に小屋へと走り去った。


 小屋の中に入ると、背中で戸口を締め、錠を掛けた。

 妹を抱き込んで、ずるずると地面に座る。

 尻尾が背中に当たる。

 どうやらショックで薬の効果が早く切れ、戻ってしまったらしい。


「あら、どうしたのあんたたち。もっとゆっくりしてくればよかったじゃない」


 お釜師匠の優しい低い声に、今まで我慢していた涙が決壊した。

 ぼろぼろと目から涙の塊が落ちていく。


「う、うえ、うえ。うええええええ」

「に~~~~~」





 お釜師匠は何も言わず、私たちが泣き止むまで放っておいてくれた。

 途中、家の近くでおばちゃんの声がしたが、へたりこんだ狸の耳は何も拾おうとはしない。

 赤い西日が消え、夜の帳が下りて来た。

 小屋の戸口を開けると、外にはざるが置いてあり、青菜と卵とパンが入っていた。おばちゃんだ・・・・・・。

 

 師匠が卵を自分に割り入れなさいと言うからやってみたら、一瞬でプリンになった。

 お皿に入れるとなぜか甘い。

 勢いよくプリンを食べる妹の、赤く腫れた瞼をずっと見ていた。




 夜中ベッドの中で見直した、【おいしいお菓子の作り方】。

 魔法の項目は師匠は全く教えてくれないから意味が分からないけど、魔法薬の項目は多少理解できる。


 古語で書いてある魔法薬の項目を見ると、変化、強化。

 ここまではお釜師匠と何度も作ったからよく分かった。

 残りは回復、催淫、召還、破壊・・・・・・後半は薬としてどうなんだろう。

 魔法薬1つとっても、魔女の世界は奥が深そうだ。


「お釜師匠が言う古来の魔女じゃなくて、おばあちゃんみたいな魔女で良かったんだけどな・・・・・・」


 何でも知っていて、頼りになって、知的な女性。

 村人みんなに頼られお願いされ・・・て・・・・・・。


 さっきの赤褐色の髪色の男性が思い浮かんだ。

 さあ、と血の気が下がる。


「だめだめ! 頼られるんじゃなくて、畏れられるのよ!」

「おねちゃあ~?」


 隣の妹を起こしてしまった。

 お腹をぽんぽん優しくたたいて寝かしつけ、また本に向かう。


 (だったら、魔女の技術の中でもより攻撃的なものを積極的に取り入れればいいじゃない。

  お釜師匠は体力トレーニングばかり指導するけど、自習で必要項目を覚えておくのは悪くないわ)


 パラパラとページをめくる。どれも最後には<魔法のお釜>が必要にはなる。

 師匠が許してくれるか分からない。

 けれど。


「これだ。これなら誰もが私たちを怖がるわ。大人がいなくても薪割りとか便利になるし」


 ゴーレムの作り方が書いてあった。







【おいしいお菓子の作り方】


■ゴーレム

 □基本材料:小麦粉 麦芽 タイソウ 

 □作成方法:魔族の国沿岸に生息するという深海マリフナの魚粉を混ぜる。魔法のお釜でよく練ってから、ゴーレムの骨格を乗せて床に30分放置すると完成。




 気になるのはゴーレムの種類に、シロップ味、さくらんぼ味、蒲焼き味とあることだ。

 蒲焼き味は気になるけど・・・・・・やっぱさくらんぼ味かな。

 さくらんぼ味にするには、桜の樹皮が必要らしい。


 次の日に朝の修行を終えてから、資材室を漁った。


 おばあちゃんの資材ストックにマリフナはあったけれど、桜の皮は見あたらない。

 資材室をごそごそ探していると、小さな衣装箱が出てきた。

 空けてみると、自分と妹がこちらに来た時の衣装が入っている。


 自分の着物は山吹色、妹の物は紅梅色。

 お里の山と月が思い出された。


 涙がぐっと出るけど我慢。

 当時たすき掛けしていた小さな茶色いポーチは、木の皮で出来ていた。

 確かこれは・・・・・・。


「あった! 桜の皮だ」


 これでゴーレムが作れる!



◇◇◇◇




 お釜師匠に材料を持って行く。

 師匠は一通りの材料を確認して、私をじっと見た(ような気がする)


「・・・・・・そう、ゴーレムを作りたいのね。理由を聞かせてもらえないかしら」


 静かな師匠の声に、私は決意を込めて答えた。


「私たちは子供だから、大人の人がやるような仕事には力が足りないの。だから、補助するゴーレムが欲しいの」

「あなたたちは特訓で大分力が付いたと思うけど? そこの大匙も軽く振れるようになったでしょ」

「違うよ。でも立派で大きなゴーレムが欲しいの」


 私の言い訳を聞き、師匠の声色に皮肉が混じる。


「村で連れ歩いて威嚇でもするの? それははったりって、言わないかしら」

「違うもん!」

「反発するほど図星というけども、あんた分かりやす過ぎね」

「違うもん! 屋根の補修とか、高いところの荷物を取ってもらうとか、薪割りだって必要だもん!」

「———いいわよ」

「ふえ?」


 師匠はどしっとした鋼の体から、低い美声でこう告げた。


「私を使えば、魔法は簡単に成立するわ。ただし、半端な気持ちで使えばどうなるか――――」


 一回、実感してみなさい。

 言い終わった瞬間、竈に火が点った。





 

 

【おいしいお菓子の作り方】に書いてある内容は、師匠は全部知っているという。

 そもそも本は知り合いが書いたものらしい。

 

「ほら、もっと力を入れて練りなさい」

 

 釜の中の材料は今までにないほどの強烈な抵抗を示し、両腕が悲鳴を挙げる。

 歯を食いしばって腕に力を籠める。


  ねるねる ねる ねる

 

「最後にマリフナと桜の皮を入れて。もっと抵抗が強くなるから踏ん張りなさい」

「おかまししょー、これおもいよう」

「辛いなら思いついたフランを恨むことね」

「すみません、ね! ええい、材料をこうっと」

 

 片手で支えていた木匙がパキリと折れて、破片が少し入ってしまった。

 やばい、どうしよう。

 焦る自分に師匠は匙を変えなさい、としか言わない。

 

 お釜の中は白から灰色、そしてもう匙が動かないというところで黒に変化した。

 甘くも香しくもない匂いが漂う。

 むしろ、これは焦げ臭い?


「あんたたちはここまでが限界のようね。仕方ないわ。取り出して庭に積み上げなさい」


 師匠は、淡々と指示を出す。

 晴れた庭準備した、木切れで作った2mほどの人型の周りに黒い塊を並べると、次第にブスブスと煙を上げ始めた。 

 しばらくすると煙を上げたまま、小さく1つにまとまってスライムのようになり、人型にまとわりついていく。


「お姉ちゃん。なんかあれきもちわるいよ」

「そ、そうね。何か想像していたのは違うかも」


 スライムらしきものは黒い人型になるが、お腹や肩辺りには足りないようで、ところどころ木切れがのぞき見える。

 形が完成すると3mくらいに巨大化した。

 体中からブスブスとさらに煙を出し、顔の辺りに口のような割れ目が生じる。

 ゆっくりと足を動かし、1歩1歩、こちらに近づいてくる。


 口のような割れ目が、邪悪な笑みのように大きく半円を描く。


 小屋の中から師匠の淡々とした説明が聞こえてきた。

 

「はい、失敗。ちなみに邪念を込めて作ったゴーレムで失敗するとね、足りない動力に作成者の体を食べて加えようとするのよ」

「ふええええええ!? それ早く言ってよ師匠!」

「そうだよおかまししょー!」

「だって聞かれていないもの。聞かれなきゃ教えることなんてできないわ~」


 3mの黒いゴーレムが煙を出しながら、意外な速さで両腕を延ばしてくる。

 歩くことに慣れてきたのか、次第に歩みが早くなってきた。 

 2人で逃げ出しながら、小屋に向かって叫んだ。


「助けてよお釜師匠!」

「えー。私はお釜だし? 歩けないから無理よう。

 せっかく修行しているんだから、自分たちで己の失敗に対処しなさい」

「そんなあ~!」

「おかましよーのケチー!」

「聞こーえなーいわー」


 明らかに、私に聞く耳がないことへのあてこすりだ。


 私たちを狙う煙の黒ゴーレムは、シュッシュと更に加速し始めた。

 

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