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ねるねるねるね~お釜師匠と子狸少女の魔女修行~  作者: 帰初心
1章 師匠は台所に棲息していた
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間章 駐在さんの話

駐在さん視点です

<カント国クラウドホース軍所属グリーンペアー村駐在員 カイル・チェストン>



 今日も村で一番心配されている2人の子供の様子を見に行くと、魔女の小屋からは妙に甘い匂いがした。

 まさか毒ガスか!? 

 と焦って戸口を空けると、テーブルの上には山盛りで妙な色のお菓子らしきもの。

 姉妹の下の子が山に手を出そうとして、姉に止められていた。

 何やってんだ。




◇◇◇◇




 この国は、カント国という。

 この世界は東大陸と西大陸に分かれており、カント国は東大陸、別名ヤパンの右下に位置している。

 国の規模としては東大陸の中では2番目になる。


 この大陸には人間と魔族の国があり、カントは人間中心の国になる。

 しかし、すぐ上には、トホク魔国、エゾ共魔国という魔族中心の国があり、その昔は戦争が頻発していた。


 特にトホク魔国の王は代々魔王と言われ、人間の国から選ばれた勇者との戦いが多くの英雄叙事詩として残っており、軍学校の教科書には必ず記載されている。


 そうはいっても人間も魔族も馬鹿じゃあない。

 ここ100年はお互いの努力もあって、休戦状態だ。

 両国の和平派を中心に人材を交換し合って、穏やかな関係を築き上げている。


 面倒なのは、戦争の当事国よりも外野の国の方が過激派が出やすいってことだな。

 南西部ツクシ教国には、隣の大陸から伝播した教会が中心になって国を運営しており、その経典には「魔族=悪魔」とした記載がある。


 本来なら手も出さなかった宗教だが、やつらの狡猾なところは、隣の大陸で発達した「科学」という軍事技術をセットにして布教したことだ。

 科学技術による軍備は、誰の目にも分かりやすく魅力的だった。

 元々大陸には「魔法」という理があったが、それは実に複雑な理論で、ごく一部の素質のある人にしか使えず、大量で均一な軍隊をコントロールすることには向いていなかったのだ。


 結局、カント国は80年前に国教を隣国の宗教に統一することで、技術を手に入れた。

 それに魔族は対抗し、「魔法」を科学技術のように洗練させていった。いたちごっこのように。






 俺の立場は国軍所属の派遣駐在員だ。

 仕事は、いわゆる治安や警備、地方に法の順守を徹底させること。

 小さい村だと1人しか駐在員は派遣されないので、喧嘩の仲裁から裁判官のまね事まで幅広く対応する。


 もう1つ、変わった仕事がある。

 魔女の監視だ。


 魔女とは昔は<世の理を知るもの>と言われていた。

 過去の宗教の中心であり、科学とは毛色の違う「魔法」という不思議な現象を理解し、利用できる。

 もっともほとんどが些細なもので、簡単な風を起こしたり、傷の治りを早くしたりと日常生活をフォローする程度だ。

 製薬については代々知識を重ねているので、役に立つものが多い。


 国が科学技術を手に入れ、国教を定めてからは、魔女はどんどん廃れてきている。

 しかし魔力が科学で解明されない限り、統治者にとっては魔法とは下々が持つコントロールできない力であり、脅威でもある。


 その力の象徴である魔女には、常に監視の目が入る。


 魔女イクコは派手な活動は一切しなかったが、他の魔女よりも出自がはっきりしないこともあり、国軍の警戒度はA~GカテゴリーのCだった。

 カテゴリーC以上は警察ではなく、軍から派遣されたものが入るのが決まりだ。

 国軍ではエリートでもないかぎり最初から中央では働けない。しばらくはどさ周りだ。


 俺は軍に入ると通常の特訓を受け、16歳ですぐにこの村に派遣された。

 8年ほど活動した後、監視対象の魔女は死んだ。

 そして、彼女が死去して灰になるまで見届けることで、俺の仕事は終わったはずだった。


 ただ俺は、正直困っていた。

 彼女が遺した2人の子供の扱いである。




 姉妹の名前はフランとシンシア。

 今10歳と5歳という自意識のはっきりとしたお年頃だ。


 イクコが2人を森から連れてきた時は7歳と2歳だっただろうか。

 姉妹は1枚の布で出来たような奇妙な衣装を着て、小さな耳を頭につけていた。


 村中の村民は、森に捨てられた魔族の捨て子だろうと同情した。

 魔族と人間の確執は長いが、休戦している平和な時代の方がずっと長かったからだ。


 特にこの村は過去多くの和平派の魔族との交流があり、2人を「少し生まれが面倒だけど普通の子供」として受け入れたのだ。


 それに、あまり見かけない黒髪を耳のあたりで切りそろえた少女たちは、大きな同色のたれ目が特徴的な、とても愛らしいものだった。

 養子にと欲しがる家庭は多く、特に長年子供のいなかった宿屋の夫婦は、2人を欲しがった。




 しかし、捨て子たちは虐待にでもあっていたのだろう。

 どちらも大人たちをひどく怖がり、一切近寄ろうとしなかった。

 正体を教えまいと黒と赤の頭巾を深くかぶり、イクコにしか懐かない。

 結局、イクコに名前をもらい、村のはずれで生活を始めた。


 時折様子を見に行っていたから、姉妹の性格はだいたい分かっていた。


 姉のフランは普段の警戒心は強いが、けっこう間抜けだ。

 いつも黒い頭巾で丸耳を死守しているくせに、お菓子を渡すとスカートの下でしっぽが動くのがよく見えた。

 また、妹のシンシアは幼いだけあって、姉の見えないところでは邪魔な赤い頭巾を後ろに投げ出している。


 座り込んでカボチャパンツからしっぽを丸出しにして、泥団子作りをしていることすらあるのだ。

 気がついたフランが急いでごまかしていたが、本当に気が付かれていないと思っているのかね。




 姉妹の人嫌いは年々悪化している。


 魔女の小屋に居着いた当初は、近所の子供が遊びに行くようになり、ほっとしていた。

 だが、あのガキ。

 フランが可愛すぎて、気を引くために女の子に嫌われることを一通りやりやがった。

 おかげで、俺を見ても警戒されるよになり、再び慣れさせるのに苦労した。


 悪ガキは昨年、国のある適正検査に受かってしまったために王都に家族で引っ越したが、そのうち国軍で出会ったら覚えてろよ。




 そして、一向に村に馴染めなかった原因は、先代の教会の神父だ。


 あいつは自分を持ち上げない人間があまねく嫌いだ。

 だから警戒心が強く懐く様子もない魔族の子供など、格好の攻撃対象だった。

 村の集会でも、しつこくあれは悪魔の子に違いないと罵っていた。

 もちろん、悪魔をかばう魔女イクコも同時に攻撃されていた。


 やつは気に入らない相手には、罪をねつ造しなすりつけ、処罰していった。

 刑の執行権は本来司法にあり、村長がその代理を勤めるはずなのだが、やつは権力のある高位貴族を実家に持つため、下手にだれも逆らえない状況だったのだ。


 村長と村人と俺は考えた。

 このままではあの姉妹や村の恩人である魔女が殺されてしまうかもしれない。

 中央に働きかけて、早く神父をどこかへやらなければ。

 時間稼ぎのため、村の中で神父にわざと腰ぎんちゃくをする役を作り、神父の意識が排斥に届く前に先に姉妹をいじめて気をそらすことをした。


 魔女は村の気持ちを分かってくれていていた。

 だが、いじめ役を引き受ける方は大変だ。


「あの子たちの涙目を見る度に、俺に死にそうになる。誰か代わってくれ!!」


 と、村で一番じゃんけんが弱く貧乏くじを引いた若手のケイスたちは、いつも酒場でくだを巻いている。

 もちろん、誰も代わってやろうなんて奇特なやつはいない。

 あの大きな潤みがちなたれ目ににらまれると、結構傷つくんだよな。


 そして、ケイスたちの血の涙の甲斐もあり、俺は中央教会に居る幼なじみに協力を仰ぎ、いかれ神父の異動に成功させた。

 臨時異動理由は「ロリコンの疑いあり」だ。

 なぜか俺まで疑われたが、断じて違う!


 新たに派遣された神父は幼なじみの教会学校の同期で、中立派の穏やかな男であった。


 これでようやく平和になるなと思った矢先の魔女の死。

 まさかあんなに頑健で溌剌とした老女が、あっさりと死ぬとは思っていなかった。

 死因は他殺を疑ったが、心筋梗塞としか分からずじまいだ。





 これまでの経緯で、姉妹は人間不信を悪化させて、小屋から離れようとしない。

 今まであえて悪役を引き受けていた村人たちも、距離を取りかねてどうしたものかと頭を抱えている。


 そんな矢先の小屋から漂う異常に甘い匂い。

 何があったかと飛び込んだら、姉妹は2人は頭巾を珍しく外していた。


 姉のフランはまだまだ幼いが、3年前よりは成長し、愛らしさの中に少女らしさが見て取れる。

 シンシアは幼児特有の頬のもたつきがなくなって、幼年らしい可愛らしい丸さを持っていた。

 2人とも黒髪が伸びて、緩いお下げとツインテールだ。

 子供はあっという間に育つものだな。


 しかし、成長に驚いただけではない。

 お前ら、耳がないぞ。

 いったいどうしたんだ!?


 




(まさか魔法薬の作成に成功するとはな)


 魔女の作る魔法薬は、科学が解けないもっとも最たるものだ。


 薬が作れても、魔法薬が作れるものは殆どいない。

 その効果は様々で、治療薬の上乗せ効果程度のものから、人の外見を変化させたり変化薬、力を何十倍にしてしまう強化薬まで。


 軍としては是非レシビを確保しておきたいものである。

 しかしカント国軍所属の魔女の指導を受けて作成しても、ごく普通の薬と魔族の珍しい生薬を足しただけで成功できたものはいない。


 イクコも一度として作ったことがない。

 彼女の魔法関連の書物には古代文字で書かれているもの多くあり、以前借りて専門家に解読させても、お菓子の作り方のレシピであるとしか分からなかった。


 あの2人が作れたとなると、つまりはイクコが元々知っていて教えたという事だ。

 イクコはC級どころかA級の魔女であったことになる。


「しかし面倒なことになったな。ただでさえ魔女の保護する魔族であるということで窮屈な思いをしているというのに。魔法薬までできるとなれば、それこそ国や教会のやつらが手を出してくるぞ」


 もうA級魔女のイクコはいない。

 これ以上魔女らしい真似事をする前に、国としても早く保護をしなくては。




 どう説得しようかと悩みながら教会に向かう。

 この時俺はその後ろから、気配を消して黒い影が付いてきていることに気が付いていなかった。


 また悩む大人たちの思惑の外で、

 姉妹には立派なお釜の師匠がついて、

 魔女になるためのハードな修行をひいひい始めていることに、それこそ俺は気付いていなかった。


姉妹(主に姉)の想像を超えて世界は動いています。そして村人みんないい人。

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