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ねるねるねるね~お釜師匠と子狸少女の魔女修行~  作者: 帰初心
2章 勇者ないじめっ子にはドーピングで勝負です
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第3話 ルカの家の事情

「なあに、それ。宿屋に変な動物を連れ込んで。ルカ、捨ててらっしゃい」

「そうだな。勇者にそんなみすぼらしい動物は似合わない。

 どうせ飼うなら血統書付きのボルゾイを買ってやるから、そんなもの捨ててきなさい」

「・・・・・・」

「もう、愛想がないんだから」


 私の意識がゆっくりと浮上すると、大人の男女の声が耳に入ってくる。

 バタリとドアの閉まる音。

 私は布らしきの山の上に横たえられた。


 くるるるる・・・・・・と腹の虫が合唱を始める。

 お腹が空いて死にそうだ。


「みゅう・・・・・・」


 私の腹の虫に気が付いた人物は、慌ててドアを再度開け閉めし、ミルク入りのお皿を目の前に置いてくれた。

 目の前の皿だけが鮮明に写る。


「みゅ!」


 思わず本能でミルクに首を突っ込んだ。必死に小さな狸舌で飲む。

 お腹が限界まで空くと、ミルクの甘みが甘露に感じます。

 スジャータスジャータ、ごちそうさまです。


 一気にミルクを飲みきると、けふっと一息。

 液体物を食べると胃袋は固形物を求めてまいります。


「みゅーん」


 次はハンバーグください。

 できればおじちゃんが焼いたやつがいいです。


 と、私の頭上で食事を見ていた人物にリクエストをしようとして、固まった。


 ルカだった。


「お前可愛いよな」


 ルカは青い目で私を見下ろして、今までに見たことがない柔らかい顔で笑った。










 しっぽを思い切り立てて硬直した私に、ルカは近寄り、そっと頭を撫でようとする。

 私はさっと一歩下がる。


 もう一歩近づいて、頭に手のひらを乗せようとするルカ。さっと逃げる私。

 繰り返すこと数回。


「野生だから仕方ないのかなあ」


 ルカがため息をついて諦めた頃には、私はここが宿屋の家族向けの一室であることに気が付いた。


 確かルカの家族は、村の家を整理して王都に引っ越したと聞いている。

 ならば、村に来る際には村長の家か、宿屋に泊まるしかない。 

 昨夜会わなかったのは、村長の家に泊まっていたからだろう。

 ずっと村長の家に居れば良かったのに!






 ルカが諦めて 部屋の隅で毛を立てる私を眺めていると、宿の下から階段を上る音がした。

 ドアの向こうでは、「息子が汚い動物を連れて」「早く追い出してくださいな。これから出かけるのにドレスに毛が付いちゃう」

 といった会話が聞こえてくる。


 しばらくしてドアを開けたのは、おばちゃんだった。

 私の姿を見て目を丸くする。


「おやまあ、シンシア?」

「おばちゃん、あたしここ」


 おばちゃんのスカートを引っ張って、妹が存在を主張する。

 妹と私を見比べるおばちゃんに、私は思わずダッシュを掛けた。


 おばちゃーん!

 私のジャンプは健在で、見事におばちゃんの豊満な胸に抱きついた。


「みゅーんみゅーんみゅーん」

「おやおやまあまあ」


 子狸の正体に気が付いたらしいおばちゃんは私を優しく抱き直し、うらやましそうに見ているルカに笑いかける。

 ふん、おばちゃんのおっきな胸は私たちのものだもんね。


「ルカ君、この子はうちの子でね。今日はなかなか帰ってこなくて心配していたんだよ。探してくれてありがとうね」

「そうよー、なにも考えずにとびだしちゃったのよー」

「そうなのか・・・・・・残念。連れて帰りたかったな」


 ルカはおばちゃんの胸に抱かれる私を見て、残念そうに言う。

 あんたになんかついて行かないよーだ。


 しかし、おばちゃんは笑いながらとんでもないことを、提案したのだ。


「この子は可愛いだろう?」

「うん!」

「せっかく夏至祭りの間はここに泊まるんだろ? 

 おばちゃんたちはこの時期忙しいからさ。代わりにシンシアとこの子の世話をしてやってね」

「いいの?」

「みゅ!?」

「ああ、この子のためにもなるしね」

「ありがとう!」

「みゅみゅみゅみゅ!」


 良くないよ!

 なんでそんなこと言うのおばちゃん!


 私の抗議も虚しく、おばちゃんはその流れで大人の男女とも話をつけてしまった。






 手足を綺麗に洗って、おばちゃんと一緒に食堂に降りてきた私を、駐在さんと神父さんが椅子に座って待っていた。


「いきなり飛び出すからびっくりしましたよ。もうちょっと変化過程を観察させて欲しかったです」

「早速行き倒れたそうじゃないか」


 心配そうで、でもちょっとずれてる神父さんと、にやにや笑う駐在さん。

 全く事実なので否定できない・・・・・・。


 最後に降りてきたルカが、2人を見てびっくりする。


「あれ、カイルさんは国軍に戻ったんじゃなかったの?

 それにポールさんは研究所の人じゃ?」


 確かルカが引っ越したのは前の神父の時だから、神父が交代した経緯や、お釜師匠の存在は知らないんだっけ。


 というかメガネの神父さん、ポールっていうんだ。知らなかった。


「よう、ルカ」


 駐在さんが立ち上がってルカにつかつかと近寄ると、いきなり片手でヘッドロックを掛けた。


「痛ててててててて、何すんだよカイルさん!」

「王都に戻る予定が狂ってな。この際だ、今お前をシメておこう」

「なんでそうなるんだよ!っててててて」


 ぎりぎりぎりと痛そうな音がする。


「フランとシンシアに謝罪はできたのか?」

「!・・・・・・まあ、その」

「目が泳いでいる」

「痛たたたたたたた!勘弁してよ!」


 私に謝罪?

 どういうこと?

 私の耳がぴんと立つ。


 おばちゃんの横にいる妹は訳知った顔で、「ちゅーざいさんが、代わりにやっつけてくれるならもういいよ~」と言っている。

 ようやく強烈な痛みから解放されたルカは涙目だ。


「もう、勇者候補の俺に遠慮なくヘッドロックをかますなんて、隊長とカイルさんくらいだよ」

「俺の握力で割れない頭を持っているのはお前くらいだからな。技をかけるにはちょうどいい」


 やり返す様子もなく、自分の頭をさすりながらも、むしろ少し嬉しそうだ。

 なにルカ、マゾなの?




「ルカ」


 階段から降りてきた大人の男女が声を掛けると、ルカは途端に無表情になった。


 村では見ないような華やかなドレス女性を着た女性は、素顔は美しいであろう顔を厚い化粧でドギツく飾りたて、銀の扇子を仰いでいる。

 男性も女性よりは地味だが、黒いタキシードをギラギラする金の鎖で飾り、革靴がテラテラと反射するほど黒光りしている。


「ルカ、また着替えてくれないかったのね。もういいわ、村長の家に出かけるわよ」

「そうだ、ルカ。村長の家にはお前に会いたい近隣のお偉いさんがたくさん来ているんだ。次からはちゃんと勇者と分かる格好をしなさい」

「・・・・・・」

「全く、国軍はダメね。子供をちゃんと躾ないんだから」


 ・・・・・・なんだろう。すごくやな雰囲気だ。


 ルカはおばちゃんの腕の中の私をチラリと見ると、そのまま俯いて派手な男女に付いて外に出て行った。




 3人が馬車に乗って去る音がして、おばちゃんはため息をついた。

 駐在さんもイライラと腕を組む。


「あの2人も、昔はちょっと見栄っ張りなだけの、真面目な馬具屋さんだったのにねえ。

 ルカ坊が気の毒でならないよ」

「・・・・・・ったく、軍は託児所でもしつけ教室でもないんだぞ。

 そもそも家庭教育の放棄をしているのは誰なんだ」

「どういうことなんですか? 

 私は研究所時代に研修でルカ君を受け持ったことがあるだけで、家庭環境はよく知らないのです」


 神父さんの質問に、おばちゃんと駐在さんは顔を見合わせる。

 私も妹も気になって仕方がない。


 だけどその前に、みんなに言わなきゃいけないことがある。


「みゅう~~~~~~~~」


 お腹空いたー。




◇◇◇◇




 みゅふもぐみゅふもぐ。


 おばちゃんが私を膝に乗せて、空豆ポタージュを浸した米粉パンを食べさせながら、説明を始めた。

 妹もうらやましそうに見ていたので、おばちゃんは妹を反対の膝に乗せる。


 宿屋の食堂は夕方から仕込みが本格的になるので、テーブルに全員分のお茶だけを用意している。


「ルカは昔から周りの子供たちの中でも力が強くて、元気なガキ大将だったね」


 分かります。

 ひどい目にあったもん。


「でも去年、ルカ坊は5年に1回の国の勇者適正検査に合格してしまって。

 すぐに国からお金がたくさん下賜されて。ルカ坊の両親は変わっちまったんだよ。

 チェストンさん、あれってどういう制度だったかね」

「この国は長らくトホク魔国との戦争とは無縁でいられたが、休戦しているだけでべつに終戦したわけじゃない。

 常備軍として必ず勇者を発見し国軍に所属させておく必要があるんだ」


 この100年の休戦のために作られた、勇者保護育成制度。


 勇者の因子を持つものを、とある方法で早期発見し、国軍で教育訓練を施す。

 そのうち無事に勇者に覚醒できたものは、更に20年の契約で国軍の特殊部隊に所属させる。

 覚醒の可能性と20年という服属期間を考えれば、早いうちに候補を発見して教育した方がいい。


 もちろん、家族から大切な子供を預かり、国の重大時に参加させることになるので、発見された当時から莫大な契約金が払われることになる。





 おばちゃんは莫大な、というところで苦い顔をした。


「あの2人は金と勇者の親というステータスに、すっかり目が眩んじまっったのさ」


 王都で華やかな生活を知ってしまったルカの親は、勇者候補の親ということでちやほやされながら暮らす生活から抜けられなくなった。

 当初軍でやっていけるのだろうかと息子を心配していたはずが、いつの間にか息子「で」いかにおいしい思いをするかを考えるようになってしまったのだ。


 今回村に帰ってきたのは、部隊の隊長さんがルカの村の行事を知り、友達に会いたいだろうと気をきかせて休暇をくれたからだそうだ。

 両親は王都から出たくないとごねたらしい。


 しかし、ルカが必死に縋ったのと、隊長さんに「村の連中に勝ち組になった自分たちを見せつければ良い」とアドバイスをされて気が変わり、なんとかグリーンペアー村に来れたとか。


 しょーもないなー、ルカの父ちゃんと母ちゃん。


「ルカかわいそー」

「そうですね、しかし私たちは彼に優しくできても、家族の問題に立ち入ることはできません。

 せめてルカ君が少しでも夏至祭りで、良い思い出を作ってもらいたいものです」

「おい、神父。お前今とても神父らしいことを言ってないか」

「失礼な。私は心は研究者ですが、今の仕事も大切ですよ。給料の査定に関わりますし」

「・・・・・・別の意味で安心したわ」


 そして駐在さんが、米粉パンを食べ終え満足した私のぽんぽこお腹を見ながら言う。


「分かったか子狸。そういうことだ」

「みゅ!?」

「食べるのに夢中で聞いてなかったのか?」

「みゅみゅう!」


 そんなことはないですよ!

 あいつもそれなりに大変だってことは分かりましたよ!


 でもね。

 それは、それ。これは、これ。


 あいつのやったことに変わりはないんだから、ぎゃふんとさせたい気持ちも変わってないですよ!

 元に戻ったらすぐに、ワンパンヌガーの金平糖の外身を剥して使ってやりますからね。


 妹の通訳に、駐在さんはこめかみを揉んだ。

 神父さんはあははは、流石だねフランちゃんと笑う。






「ところで、フランはいついつものフランに戻るんだい?」


 頭上のおばちゃんが、疑問を呈する。


 そうでした。

 これから私は食堂のお手伝いがあるのですよ。

 お釜師匠はなんて言っていたの?


「3日後だ」

「みゅ?」


「3日間の夏至祭り最終日、その昼までは戻らないそうだ」

「み!?」


 冗談じゃない!

 それじゃあ、忙しい時期におばちゃんたちのお手伝いが出来ないじゃない!


「あの釜はとりあえずお前がルカと約束した[決闘]の時までには戻るだろうと言っているからな。良かったな」

「みゅー!」


 良くないです!

 私はこれから仕事なんです!

 ねえ、おばちゃん。私の手伝い、必要だよね!

 みゅうみゅう良いながらおばちゃんに胸に前足を掛けて必死に訴えると、おばちゃんは笑いながら、優しく私の耳を撫でた。


「気にしなくていいんだよ。本来ならもっとあんたには遊んでいてもらいたかったんだ。もう準備だけお手伝いしてもらえば十分さ」


 3日間、楽しんできな。

 そういってくれるのは嬉しいけれど、おばちゃんのお手伝いは私の自信の拠り所なんだよ。


「あたしもちょっとはてつだうから。だいじょーぶだよ、お姉ちゃん」

「うっかりシンシアの方が役に立ったりな」

「み゛ゅ~」


 その可能性を否定できない姉がここに居ますー!

 やっぱり少しは、何かを手伝わせてー!





 そして、結局。

 約1名の厳重な抗議により、私は祭り限定で宿屋のマスコットとして君臨することになったのだ。


 客の子供の1人が私を指さす。


「わあ変な生き物~」

「み゛ゅ~~~~」


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