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女神中毒 片翼の呪言遣い  作者: テンコ
愛を探す御話
1/2

愛を探す旅の御話 上

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」


 聖女は始め、目の前の出来事が信じられなかった。


 この数年間一緒に過ごし、笑い、戦い、励まし合ってきた仲間達。

 在りのままの彼女を受け入れ、特別扱いせず、そして皆がそれぞれを気遣い合って。


 その仲間たちが今、目の前で、悉く――


 ■


 例えば、騎士。

 彼は初め、王命として仕方なく同行した。

 その勅命を断れる人物など、この大陸には存在しなかったからだ。そして、皆と一緒に行動し始めた当初は衝突も多かった。

 彼が目指した正義と、この一団の個々人の行いとが噛み合わなかったのであろう。その度に彼は苦々しく思いながら、それでも勅命の為に戦ってきた。もちろん、不満が消えた訳ではない。

 時折力で衝突する事もあったが、それも今では良い思い出として残っている。最後には皆の盾として、皆を守り、励まし、この苦行を終わらせる為に尽力していた。

 彼ほど高潔な人物を、聖女は知らなかった。


 例えば、魔女。

 彼女は初め、好奇心から同行を希望した。

 この世のありとあらゆる魔術を若干15歳で修め、今猶新しい魔術を編み出さんとしている彼女。

 しかし目先の楽しみに囚われてしまったのか、この一団へ強引に動向を決め込んだ。

 もちろん不純な動機であることは彼女も、彼女の周りも承知していた。それでも彼女の操る魔術は強力で、如何なる時も魔物を倒してくれたのだ。

 そして意外にも、気の強い彼女が寂しがり屋なだけであった事も、周りは気が付いていた。

 何時しかこの一団を無事に平和な世界へ戻すと、彼女の目的は置き換わっていたのだろう。彼女が変わった事を指摘しても、顔を赤らめてそっぽを向くのが皆の心に残っていた。


 例えば、狩人。

 彼女は初め、お金になるからと同行を希望した。

 若い頃から叔父に習っていたと言う弓技の数々。それを披露し、幾度も一団の窮地を助けた。

 そして彼女がお金を欲する理由。それは病気の両親の為、まとまった額が必要だったからだ。教会がお布施を希望しているのだと言う。初めにその話を一団が知った時は、特に聖女が愕然していたのだ。

 教会は貧しい人の為にある、と信じていた聖女は裏切られた気持ちだったが、償うように狩人へ接した。

 慣れ合う事を嫌っていた彼女だが、聖女の献身的な訴えに次第に絆された。今では目標の金額も貯まっているにも関わらず、一団と聖女の力となる為に同行をしていた。


 例えば、竜人。

 彼は初め、唯只管に強さを求めていた。

 この世で一番だと証明したいが為に、この大陸一と称される実力の一団へ挑戦したのだ。

 龍の血を受け継ぐ末裔として、その身体能力を駆使して闘った竜人。しかし激闘の末、この一団の彼が勝利した。

 殺せッ!と叫んだ竜人に対して、その力を貸してくれと頼んだ彼。この一団に居れば、強い強者と戦えると説得した。それに瞳を輝かせ、頷いた竜人。

 今では自らの強さのみを求めるにあらず、自らの力を皆の為に使う事を覚えた竜人は、誰よりも皆を信頼していた。

 自身を打ち負かした彼と、その仲間を。


 例えば、人狼。

 彼は初め、ただ喰らう事だけを考えていた。

 普通ならヒトガタと狼を、まるで衣を脱ぐように変われる彼。

 だが狼のまま呪いを掛けられてしまい、貪る事だけを考えさせられた彼は村々を襲う災害に等しかった。

 一団が討伐に向かい、そして彼らと狼との戦いが始まった。激闘の末倒れ込んだ人狼の下に聖女が駆けより、人狼本人が命を散らす寸前に弱まった呪いを何とか解除して、万分の奇跡により人狼は助けられた。

 奪った命は消えない。けれど、償う方法があった。

 それからだろう、理性も知性も狼は取り戻す。しかしそれまでの積み重なった業が、彼をヒトガタにする事を拒否していた。そして狼として聖女に懐き、彼女の行く末を守ろうとした。


 例えば、勇者。

 彼は初め、理想に燃え正義を信じて戦ってきた。

 何時からだろう、勇者が人を信じられなくなったのは。誰もが勇者を褒め称え、敬い、そして利用した。

 絶望の淵に立たされた勇者を救ったのは、多くの人々では無く。近くにいる仲間、これまで共に戦ってきた仲間だった。

 騎士が、貴様はまだまだ行けると励ます。

 魔女が、貴女はこんな物では無いと言う。

 狩人が、お前はこれまでだって、と語る。

 竜人が、お主は勇者なのだろう、と嘯く。

 人狼は、この聖女の為に進め、と吠える。

 聖女は、貴方にこの身を捧ぐ、と慰める。

 皆の声を受け、彼は再び立ち上がった。自らを唯一の剣と信じて。後ろの仲間達を、悉く守るとを誓って。


 例えば、聖女。

 彼女は初め、義務感と使命感で同行を決意した。

 狭い箱庭の世界しか知らなかった彼女は、人々の想いのまま育てられ、それ以外の事を考える事なく成長した。

 誰かの為に、自分以外の人の為に働く彼女は、一団との邂逅で世界を知った。

 それは世界にとっては害悪だったのかもしれない。しかしそれは、1人の聖女を少女として生まれ変わらせたのだ。

 何処かの誰かの為に存在した彼女は、何時しか目の前の仲間の為に必死で付いて行った。彼女しか出来ない事が多いのも理由だろう、その死出の旅を彼女は諦めなかった。

 最後には、この戦いで皆が救われると信じて。


 例えば、

 ■■■■■■■■■■■■■生■■■■■■■■育■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■愛■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■。■■■■■■■■■■の為に■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■しか■■■■■■■■■■■■■■■■■■この■■■■■■■■■■■、■■■■■■■とでも■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■だった■■■■■■■■■■シ■■■■■本■■■■■■■■■■だ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■残り■■■■■■■■■■■■■けを■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■る■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。


 一団は、長き時を経て親しくなり、仲間になった。

 誰もが自分以外の彼ら彼女らを考え、皆の無事を祈り、戦った。


 ■


 一団がその城まで辿り着いたのは、最初の1人が旅を始めてから10年後の今日。

 目に見える程邪気を帯びて、禍々しく渦巻く魔力。それを餌にして成長したかのような、聳え立つ巨大な城。

 ここが最終の目的地であるのは一団の誰もが分かっていて、肌でも実感していた。ともすれば足が竦みそうな程の威圧感を感じる。


「へ、遂に来たんだなオレ達」

「油断するんじゃないわよぉ。唯でさえアンタ弱いんだから」

「うっせ!負けたのは1回だけだっつうの!」

「その1回が重要なんじゃない。アンタ以外誰も負けてないんだからねッ」


 一番大柄で翼を持ち額に角が生えた男と、一番小柄で髪を足元まで伸ばし黒いローブに身を包んでいる女が言い争う。

 だが誰も止めようとはしない。分かっているのだ、彼らがじゃれているだけだと。


 しかしそれも流石に我慢の限界だったのだろう。


「オマエら、ヤメておけ」


 背に大きな弓を背負っていた女が、目にも留まらぬ速さでそれを構え、躊躇せず矢を放った。狙うは争う2人の間の地面。

 狙いは過たずそこに刺さり、2人は動きを止められた。


「ごめん、でもこのおっさんが――」

「すまん、しかしチビジャリが――」


 弓を再び構えた彼女は一言、


「次は、ナイ」

『了解』


 予定調和なのだろう、3人以外は聳え立つ城を仰ぎ見ている。

 国にある城より大きいのではないか。否、確実にこの城の方が大きいであろうし、禍々しい魔力で圧倒される。城壁は何の素材なのだろうか、黒く禍々しく、それでいて生きている脈動すら感じる。生きている、肉の感触が瑞々しい壁。

 聖女が吐き気を催したのは、外壁からすら誘うように魔力が溢れ出いるからだ。


 ……こんな物が人の世に有って良いはずがない。


 皆は意識を一つにし、最終の決戦へと向かう。誰も彼も緊張を忘れていなかった。そう、世界の運命は一団に託されていると言っても、決して過言では無いのだから。


 ■


 最初に気が付いたのは、狼の彼。


「■■■は、何処へ行ったのか?」


 その言葉から少しの間をおいて、他の皆が1人の不在に気が付いた。


「そう言えば、■■■は見ないな」


 高潔なる騎士がとたん思いだし、改めて■■■が不在であることを確認する。


「あれ?■■■ってば前の街で待ってるんじゃなかったっけ?」


 幼少な魔女がそう返した。


「そう、ですっけ……そうです、よね……あれ、でも何か、忘れているような……」


 聖櫃たる聖女が言葉を続けるも、その疑問は続かなかった。

 皆が今の話など忘れたように、奥へ進み出したからだ。


 ――何かが、ズレていく。いや、最初から、歯車は噛みあってなどいなかったのかもしれない。


 ■


 聖女はその日、奪われてしまった。

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