開始 2時間前
(本番二時間前でーす)
(衣装合わせ入りまーす)
(ヒナさん控室にー)
シュルツ「……」
シュルツ「……」
シュルツ「……」
シュルツ「あ、うん」
シュルツ「なんだかわからないけれど、こんなところにいるよ」
シュルツ「まあ、あのクレイジーサイコビッチに任せていればいいんだけど」
シュルツ「きょうは一足先に、よろしくお願いします」
シュルツ「クリスマスイブだね」
シュルツ「正直ボクは、社会人になってから仕事以外のクリスマスを送ったことがないけどね」
シュルツ「っていうかあれでしょ?」
シュルツ「クリスマスだからなんだっていうの?」
シュルツ「365日のうちのただの1日でしょ?」
シュルツ「ボクちょっと知らないな、そういう感覚」
シュルツ「記念日とか、あんまり気にしないからさ」
シュルツ「町並みが浮かれて、ネオンでキラッキラだけど、あーすごい電気使っているなー、ぐらいの印象しかないっていうか」
シュルツ「まあ綺麗なんだけどね」
シュルツ「メリークリスマース!(笑)」
シュルツ「みたいなノリは、あんまり好きじゃないかな」
シュルツ「うん」
シュルツ「だから、なんで」
シュルツ「ボクがきょうここにいるのか、わからないっていうか……」
シュルツ「いや、仕事だからなんだけど……」
シュルツ「仕事ならしょうがないよな……」
シュルツ「仕事はすべてに勝るって、社畜の兎さんも言っていたしな……」
シュルツ「ああ、でもね、年末のムードは好きだよ」
シュルツ「ゲーム会社の決算みたいなものだからね」
シュルツ「特に12月のゲームラッシュは、見応えがあるよね」
シュルツ「オモチャ屋さんが一番儲かる時期だから、助かってます」
シュルツ「乙女ゲーの売上も、そしてクリスマスシーズンが特に大きいしね」
シュルツ「そんなうちが開発したソフト『乙女は辛いデス』が、もうすぐ発売になります」
シュルツ「いや、別に宣伝じゃないんですよ、じゃないんだけどね?」
シュルツ「これがすごくよくできていてね、ついついご紹介したくなっちゃってっていうか、情報の共有? 的な?」
シュルツ「ボクひとりが抱え込むにはもったいないっていうか? はいそれではちょっと簡単にご説明させてもらうねー」
シュルツ「このゲームはなんと『恋をしたら死ぬ』というその目新しい設定がウリ」
シュルツ「ドキドキメーターが一定値を越えると本当に死んじゃうっていう、乙女ゲー至上ほぼ類を見ない作品になっておりまして」
シュルツ「『眠り姫は王子様のキスで昇天!』がキャッチコピーです」
シュルツ「といってもね、死ぬっていっても残虐な表現があるわけじゃないし、その後のアフターストーリーの葬式だってとってもハートフル(ボッコ)だよ」
シュルツ「出てくるイケメンの男の子たちに求愛されて、そりゃもうてんてこ舞いの毎日」
シュルツ「恋にアルバイトに、勉強にスポーツに、なんだってできちゃうオープンワールド設計」
シュルツ「リアルこの上ない末期の学園生活を貴女に!」
シュルツ「今は最終調整の段階に入ってまして、マスターアップまであと少し!」
シュルツ「最高の悲しみと、最高の感動をお届けするために」
シュルツ「日夜がんばっているボクたちなのでした」
シュルツ「ま、発売日はまだ未定なんだけどね」
シュルツ「……っていうか、まあ、ね」
シュルツ「生きてここを脱出できたら、ね」
シュルツ「ボク、もっとたくさんゲームをするんだ」
シュルツ「そうでもなかったクリスマスだって好きになるよ」
シュルツ「にんじんだって残さないで食べるから」
シュルツ「この世界から脱出したい」
シュルツ「出してほしい」
シュルツ「いきたい」
シュルツ「いきたい」
シュルツより一言:大切なものはいつだってそばにあったのに、ボクたちはそれに気づかないんだ。