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恋つらたん短篇集~クリスマス2013年度企画など~  作者: イサギの人
【クリスマス企画】藤井ヒナサンタ【SS】
29/34

23 【『全力』の愛の告白】

ヒナさん「さ、あと二通ですねえ」


シュルツ「終わりがいよいよ近づいているねえ」


ヒナさん「ところでシュルツさん、年末年始はなにがご予定とかあります?」


シュルツ「……年末、年始?」


ヒナさん「ええ、もし来年にまたこの24時間企画をするとしたら、皆さまがおやすみの元日か大晦日辺りにやるのがいいのかなあ、って」


シュルツ「……」


ヒナさん「ほら、初詣の列に並びながら、わたしたちがレポートする形とか」


シュルツ「……」


ヒナさん「お外にロケなんかいくのも楽しそうですよね。おみくじなんて引いちゃったりして、えへへ」


シュルツ「……」


ヒナさん「あれ、どうしちゃったんですか? シュルツさん」


シュルツ「……あのさ」


ヒナさん「はい?」


シュルツ「ボクたちに新年は来ないよ」


ヒナさん「……」


シュルツ「ゲームをクリアしない限り、ボクたちはずっとあのままだよ」


ヒナさん「……」


シュルツ「現実を見ろよ」


ヒナさん「……あの」


シュルツ「な」


ヒナさん「はい」


シュルツ「がんばれ」


ヒナさん「……がんばります」


シュルツ「お便り読もうか」


ヒナさん「はい」


シュルツ「どうぞ」


ヒナさん「はい。お名前【御主人様】さんからのお便りです」


シュルツ「はいはい」


ヒナさん「えー、【【お便りの内容? お名前見ればわかるでしょう! ヒナさんに御主人様って呼ばれたかっただけだよ! 内容なんか一切考えてないよ! むしろ頭から全部吹っ飛んだよ! ヒナさん最高ォォォオオオ!!】」


シュルツ「なにこれ、自演?」


ヒナさん「やってないですよ!?」


シュルツ「いや、ごめん、ついつい」


ヒナさん「まったくもう……。【さすがにこれだけじゃ困るよね。なのでクリスマスを一人で過ごす寂しい男達に、クリスマスプレゼントを頂ければと思います。】」


シュルツ「なんというチャレンジャーな」


ヒナさん「【ズバリ!『全身全霊』『全盛期』のヒナさんによる『全力』の愛の告白ゥゥウウ! さあ!あなたの理想の男性が目の前にいるつもりで、先の条件で愛を告げてください! どれだけ長文になろうと、私は一向にかまわんッ! 今晩だけはリミッター all break! 最高のクリスマスを見せてくれ!】」


シュルツ「あ、ごめんボクちょっと用事思い出したわ」


ヒナさん「【あと結婚してください。全人類が、いや全生命体があなたの恋人だろうと構いません。そんな、みんなに好かれるあなたが好きです。そんな世界中の存在を愛せる貴女が好きです。でも最低500人は貴方との子供が欲しいです。貴女を愛しております。返答、お待ちしております】】」



ヒナさん「……」


ヒナさん「……」


ヒナさん「……」


ヒナさん「……」


ヒナさん「……」(ジュルリ)


ヒナさん「……ハッ」


ヒナさん「あれ?」


ヒナさん「シュルツさん?」


ヒナさん「どこに……? え、用事を思い出して?」


ヒナさん「そっかぁ……」


ヒナさん「じゃあとりあえず、今回はわたしひとりでお答えさせていただきます」


ヒナさん「えと、まずその」


ヒナさん「ありがとうございます」


ヒナさん「熱烈なラブレターをいただいて、しばらく意識が飛んでおりました」


ヒナさん「ちょっとカローンさんとお話して、戻していただきました。危ないところでした」


ヒナさん「それであの、とりあえず子どもが500人っていうのは、わたしひとりで産むのは無理かと……」


ヒナさん「ギネスでは全員がそろって誕生して、生存している最大多胎の記録が、七つ子だそうです」


ヒナさん「これは、17才のわたしが今から71年連続で七つ子を産み続けなければ、間に合わないペースなんです。ちょっと難しいです、ごめんなさい」


ヒナさん「なので、実際は10人ぐらい産んで、残りは490人ぐらい養子をもらうのが現実的なラインかと思います」


ヒナさん「でも、子どもがたくさんいるっていいですよね。わたし、素敵だと思います。がんばります」


ヒナさん「それで、あの」


ヒナさん「あ、呼んでいただきたいそうなので、【御主人様】さん」


ヒナさん「愛の告白……」


ヒナさん「はい、あの、わかりました」


ヒナさん「藤井ヒナ、やってみます」


ヒナさん「あ、ただ、『全盛期』というのがちょっぴりわからないので」


ヒナさん「んー、そうですね……」


ヒナさん「じゃあ、『小学3年生』の頃のわたしがそのまま成長したら、って感じでいきます」


ヒナさん「ちょっと気持ちを整えるので、お待ちください」


ヒナさん「すー」


ヒナさん「はー……」


ヒナさん「すー」


ヒナさん「はー……」


ヒナさん「……」


ヒナさん「……ふぅー……」


ヒナさん「んし」


ヒナさん「じゃあ、いきますね」





 











 あなたは一枚の手紙によって、彼女の部屋へと呼び出された。

 緊張しながらノックすると、中から「どうぞ」という少女の声がする。

 

 扉を開く。

 そこは彼女の部屋。

 

「夜分遅くに、すみません……わざわざ、来ていただいて」

 

 藤井ヒナは住み込みのメイドだ。

 交通事故で両親を失った彼女を、あなたの家のものが雇ったのだ。

 

 幼い頃から知っている間柄だが。

 彼女は妹のような存在だと、あなたは思っていた。


 けれど、その衣装はなんだろう。

 彼女はキャミソールのような紅白の服を着ている。


「あ、えっと、この格好ですか?

 はい、きょうはクリスマスですから、サンタさんの格好を……。

 あの、似合って、ます?」

 

 あなたがうなずくと、彼女は可憐な笑みを覗かせた。


「わ、嬉しい、な……。

 御主人様にそう言ってもらえると」 


 はにかみながら頬を赤らめるヒナ。

 後ろ手に扉を閉めると、その部屋は密室となった。

 

 今まで足を踏み入れたことは一度もなかった、ヒナの私室。

 こざっぱりとしたものの少ない部屋だが。

 そこには、ヒナの香りが溢れていた。

 まるで彼女に抱きしめられているようで、少し緊張した。


「……あの、どうしても、御主人様に伝えたいことが、あって」

 

 少女は髪を耳にかけながら、上気した顔であなたを見つめる。

 その瞳は、潤んでいた。


「ずっとずっと前から、胸に秘めていた、本当の気持ちです。

 きょうこの日、聖夜の夜に、あなたに伝えたくて」

 

 あなたは息を呑む。

 彼女はあなたの目を真っ直ぐに見つめて。


「わたし、ずっと前から、御主人様のことが――好き、です」


 そう、告白した。

 

 かーっと、顔がほてってゆく。

 ヒナは少し恥ずかしそうに体を揺らす。


「……愛して、いるんです」

 

 物静かな彼女が、白い喉を震わせながらつぶやいたその言葉。

 意味を取り違えることは、難しい。


「もう、いいんです。

 言っちゃうと、わたしと御主人様の関係は、今まで通りにはいられません。

 でもわたし、もう、想いが溢れて、がまんできないんです。

 これ以上は、息ができなくなっちゃうんです。

 愛しています。あなただけを、この世界中の誰よりも、御主人様だけを愛しています。

 ねえ、御主人様、こんなにも愛しているんです。

 わたし、贅沢です。

 あなたのそばにいられれば、それだけでよかったはずなのに。

 でも、わたし、御主人様の愛を欲しがってしまっちゃったんです」

 

 ヒナはゆっくりと、あなたの元へとやってきて。

 その細い指が、あなたの胸に触れる。


「ねえ、わたし、悪い子ですか?

 御主人様、わたし、あなただけがいれば、それでいいんです。

 だから、御主人様、わたしの愛を、受け止めて。

 ……ううん、いいんです。

 今は、まだ、想いに答えてくださらなくても。

 これからゆっくりと、育んでください」

 

 胸から首、そうして頬を昇り。

 やがてヒナの指は、あなたの唇を撫でる。


「御主人様、あなたはわたしのすべてです。

 だから、わたしも――あなたのすべてになりますから」


 その瞳に見つめられたあなたの体は動かない。

 ヒナは、あなたを離そうとはしない。


「ずっと、ずっとふたりで、生きていきましょう。

 ねえ、御主人様、わたし、あなたのためならなんだってできますから。

 お金だって、少しはあるんです。

 ふたりで誰も知らない土地へいって、ふたりだけで生きていきましょう。

 御主人様は、なにも心配しなくても、いいんですよ。

 わたしがすべて、尽くして差し上げますから。

 ごはんだって、お仕事だって、気になさらないでください。

 あなたはそばにいてくれるそれだけで、いいんです。

 わたしのために、あなたがいてくれれば、

 そして、いつか、愛してくだされば、それで。

 ……御主人様、ああ、御主人様、お慕い申し上げています。

 愛しているんです。世界なんてもう、あなただけでいいから。

 だから、ねえ、御主人様、一緒に、来てください。

 わたしとあなた、それさえあれば、他のなんだって、ね?

 さあ、これから、ずっと、ずっと、ずうっと……」

 

 ヒナがあなたの手を引いた。

 あなたはヒナの体に吸い込まれるようにして、抱かれ。


 そのふわりとした香りと柔らかい感触に。

 ――窒息してしまいそうになって。


 あなたは、知る。

 そうか、これが『愛される』という、ことなの、だと。



「ねえ、御主人様……。

 今夜の、わたしへのプレゼントは、あなたなんです……。

 ずっと、ずっと……。

 永遠に、あなたと、わたし、それが、この世界の、すべて、ですから」

 

 

 ゆっくりと、あなたのまぶたは……。

 まるで、永遠の安息を手に入れたように、閉じて、ゆき……。



 彼女のその声だけが、あなたの心を、りぃんと鳴らした。

 


「御主人様……愛しています」


 ヒナさんより一言:ふたりは幸せなキスをして終了です。めでたしめでたし(ニッコリ)

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