23 【『全力』の愛の告白】
ヒナさん「さ、あと二通ですねえ」
シュルツ「終わりがいよいよ近づいているねえ」
ヒナさん「ところでシュルツさん、年末年始はなにがご予定とかあります?」
シュルツ「……年末、年始?」
ヒナさん「ええ、もし来年にまたこの24時間企画をするとしたら、皆さまがおやすみの元日か大晦日辺りにやるのがいいのかなあ、って」
シュルツ「……」
ヒナさん「ほら、初詣の列に並びながら、わたしたちがレポートする形とか」
シュルツ「……」
ヒナさん「お外にロケなんかいくのも楽しそうですよね。おみくじなんて引いちゃったりして、えへへ」
シュルツ「……」
ヒナさん「あれ、どうしちゃったんですか? シュルツさん」
シュルツ「……あのさ」
ヒナさん「はい?」
シュルツ「ボクたちに新年は来ないよ」
ヒナさん「……」
シュルツ「ゲームをクリアしない限り、ボクたちはずっとあのままだよ」
ヒナさん「……」
シュルツ「現実を見ろよ」
ヒナさん「……あの」
シュルツ「な」
ヒナさん「はい」
シュルツ「がんばれ」
ヒナさん「……がんばります」
シュルツ「お便り読もうか」
ヒナさん「はい」
シュルツ「どうぞ」
ヒナさん「はい。お名前【御主人様】さんからのお便りです」
シュルツ「はいはい」
ヒナさん「えー、【【お便りの内容? お名前見ればわかるでしょう! ヒナさんに御主人様って呼ばれたかっただけだよ! 内容なんか一切考えてないよ! むしろ頭から全部吹っ飛んだよ! ヒナさん最高ォォォオオオ!!】」
シュルツ「なにこれ、自演?」
ヒナさん「やってないですよ!?」
シュルツ「いや、ごめん、ついつい」
ヒナさん「まったくもう……。【さすがにこれだけじゃ困るよね。なのでクリスマスを一人で過ごす寂しい男達に、クリスマスプレゼントを頂ければと思います。】」
シュルツ「なんというチャレンジャーな」
ヒナさん「【ズバリ!『全身全霊』『全盛期』のヒナさんによる『全力』の愛の告白ゥゥウウ! さあ!あなたの理想の男性が目の前にいるつもりで、先の条件で愛を告げてください! どれだけ長文になろうと、私は一向にかまわんッ! 今晩だけはリミッター all break! 最高のクリスマスを見せてくれ!】」
シュルツ「あ、ごめんボクちょっと用事思い出したわ」
ヒナさん「【あと結婚してください。全人類が、いや全生命体があなたの恋人だろうと構いません。そんな、みんなに好かれるあなたが好きです。そんな世界中の存在を愛せる貴女が好きです。でも最低500人は貴方との子供が欲しいです。貴女を愛しております。返答、お待ちしております】】」
ヒナさん「……」
ヒナさん「……」
ヒナさん「……」
ヒナさん「……」
ヒナさん「……」(ジュルリ)
ヒナさん「……ハッ」
ヒナさん「あれ?」
ヒナさん「シュルツさん?」
ヒナさん「どこに……? え、用事を思い出して?」
ヒナさん「そっかぁ……」
ヒナさん「じゃあとりあえず、今回はわたしひとりでお答えさせていただきます」
ヒナさん「えと、まずその」
ヒナさん「ありがとうございます」
ヒナさん「熱烈なラブレターをいただいて、しばらく意識が飛んでおりました」
ヒナさん「ちょっとカローンさんとお話して、戻していただきました。危ないところでした」
ヒナさん「それであの、とりあえず子どもが500人っていうのは、わたしひとりで産むのは無理かと……」
ヒナさん「ギネスでは全員がそろって誕生して、生存している最大多胎の記録が、七つ子だそうです」
ヒナさん「これは、17才のわたしが今から71年連続で七つ子を産み続けなければ、間に合わないペースなんです。ちょっと難しいです、ごめんなさい」
ヒナさん「なので、実際は10人ぐらい産んで、残りは490人ぐらい養子をもらうのが現実的なラインかと思います」
ヒナさん「でも、子どもがたくさんいるっていいですよね。わたし、素敵だと思います。がんばります」
ヒナさん「それで、あの」
ヒナさん「あ、呼んでいただきたいそうなので、【御主人様】さん」
ヒナさん「愛の告白……」
ヒナさん「はい、あの、わかりました」
ヒナさん「藤井ヒナ、やってみます」
ヒナさん「あ、ただ、『全盛期』というのがちょっぴりわからないので」
ヒナさん「んー、そうですね……」
ヒナさん「じゃあ、『小学3年生』の頃のわたしがそのまま成長したら、って感じでいきます」
ヒナさん「ちょっと気持ちを整えるので、お待ちください」
ヒナさん「すー」
ヒナさん「はー……」
ヒナさん「すー」
ヒナさん「はー……」
ヒナさん「……」
ヒナさん「……ふぅー……」
ヒナさん「んし」
ヒナさん「じゃあ、いきますね」
あなたは一枚の手紙によって、彼女の部屋へと呼び出された。
緊張しながらノックすると、中から「どうぞ」という少女の声がする。
扉を開く。
そこは彼女の部屋。
「夜分遅くに、すみません……わざわざ、来ていただいて」
藤井ヒナは住み込みのメイドだ。
交通事故で両親を失った彼女を、あなたの家のものが雇ったのだ。
幼い頃から知っている間柄だが。
彼女は妹のような存在だと、あなたは思っていた。
けれど、その衣装はなんだろう。
彼女はキャミソールのような紅白の服を着ている。
「あ、えっと、この格好ですか?
はい、きょうはクリスマスですから、サンタさんの格好を……。
あの、似合って、ます?」
あなたがうなずくと、彼女は可憐な笑みを覗かせた。
「わ、嬉しい、な……。
御主人様にそう言ってもらえると」
はにかみながら頬を赤らめるヒナ。
後ろ手に扉を閉めると、その部屋は密室となった。
今まで足を踏み入れたことは一度もなかった、ヒナの私室。
こざっぱりとしたものの少ない部屋だが。
そこには、ヒナの香りが溢れていた。
まるで彼女に抱きしめられているようで、少し緊張した。
「……あの、どうしても、御主人様に伝えたいことが、あって」
少女は髪を耳にかけながら、上気した顔であなたを見つめる。
その瞳は、潤んでいた。
「ずっとずっと前から、胸に秘めていた、本当の気持ちです。
きょうこの日、聖夜の夜に、あなたに伝えたくて」
あなたは息を呑む。
彼女はあなたの目を真っ直ぐに見つめて。
「わたし、ずっと前から、御主人様のことが――好き、です」
そう、告白した。
かーっと、顔がほてってゆく。
ヒナは少し恥ずかしそうに体を揺らす。
「……愛して、いるんです」
物静かな彼女が、白い喉を震わせながらつぶやいたその言葉。
意味を取り違えることは、難しい。
「もう、いいんです。
言っちゃうと、わたしと御主人様の関係は、今まで通りにはいられません。
でもわたし、もう、想いが溢れて、がまんできないんです。
これ以上は、息ができなくなっちゃうんです。
愛しています。あなただけを、この世界中の誰よりも、御主人様だけを愛しています。
ねえ、御主人様、こんなにも愛しているんです。
わたし、贅沢です。
あなたのそばにいられれば、それだけでよかったはずなのに。
でも、わたし、御主人様の愛を欲しがってしまっちゃったんです」
ヒナはゆっくりと、あなたの元へとやってきて。
その細い指が、あなたの胸に触れる。
「ねえ、わたし、悪い子ですか?
御主人様、わたし、あなただけがいれば、それでいいんです。
だから、御主人様、わたしの愛を、受け止めて。
……ううん、いいんです。
今は、まだ、想いに答えてくださらなくても。
これからゆっくりと、育んでください」
胸から首、そうして頬を昇り。
やがてヒナの指は、あなたの唇を撫でる。
「御主人様、あなたはわたしのすべてです。
だから、わたしも――あなたのすべてになりますから」
その瞳に見つめられたあなたの体は動かない。
ヒナは、あなたを離そうとはしない。
「ずっと、ずっとふたりで、生きていきましょう。
ねえ、御主人様、わたし、あなたのためならなんだってできますから。
お金だって、少しはあるんです。
ふたりで誰も知らない土地へいって、ふたりだけで生きていきましょう。
御主人様は、なにも心配しなくても、いいんですよ。
わたしがすべて、尽くして差し上げますから。
ごはんだって、お仕事だって、気になさらないでください。
あなたはそばにいてくれるそれだけで、いいんです。
わたしのために、あなたがいてくれれば、
そして、いつか、愛してくだされば、それで。
……御主人様、ああ、御主人様、お慕い申し上げています。
愛しているんです。世界なんてもう、あなただけでいいから。
だから、ねえ、御主人様、一緒に、来てください。
わたしとあなた、それさえあれば、他のなんだって、ね?
さあ、これから、ずっと、ずっと、ずうっと……」
ヒナがあなたの手を引いた。
あなたはヒナの体に吸い込まれるようにして、抱かれ。
そのふわりとした香りと柔らかい感触に。
――窒息してしまいそうになって。
あなたは、知る。
そうか、これが『愛される』という、ことなの、だと。
「ねえ、御主人様……。
今夜の、わたしへのプレゼントは、あなたなんです……。
ずっと、ずっと……。
永遠に、あなたと、わたし、それが、この世界の、すべて、ですから」
ゆっくりと、あなたのまぶたは……。
まるで、永遠の安息を手に入れたように、閉じて、ゆき……。
彼女のその声だけが、あなたの心を、りぃんと鳴らした。
「御主人様……愛しています」
ヒナさんより一言:ふたりは幸せなキスをして終了です。めでたしめでたし(ニッコリ)