09 【助けてください】
ヒナさん「はー、スタジオは暖かくていいですねえ」
シュルツ「あー」
ヒナさん「お外でこんな格好していたら、寒いですもんねえ」
シュルツ「うーあー」
ヒナさん「わたし結構寒がりなんですよね。手触ってみます? 冷たいですよー?」
シュルツ「うし」
ヒナさん「え、う、牛? ふ、太ってはいない、と思い、ます、よ?」
シュルツ「乗り越えた」
ヒナさん「あう?」
シュルツ「なんか、眠くなくなった!」
ヒナさん「お、おお」(パチパチパチ……)
シュルツ「テンションあがってきたわー」
ヒナさん「いいですねー」
シュルツ「今のボクなら大体のお便りになら対応できる気がする!」
ヒナさん「や、やりましたね」(グッ)
シュルツ「そうさ、我こそはネオシュルツ」
ヒナさん「えっ」
シュルツ「すべての記憶、すべてのそんざい、すべての次元を消し、そして、ボクも消えよう……永遠に!!」
ヒナさん「……」
シュルツ「……フフフ」
ヒナさん「……消えちゃだめ、ですよ?」(じー)
シュルツ「あまり長くは持たなさそうだ。早く読んでください」
ヒナさん「は、はい」
シュルツ「へっへっへ」
ヒナさん「……お名前【arb】さんからです」(アセアセ)
シュルツ「かかってこいやー」(シュッ、シュッ)
ヒナさん「お便り【社会人になりたてなのですが】」
シュルツ「おう、後輩かー。ゆっくりしてけやー」
ヒナさん「【勤めている会社の経営が借金でガタガタになり、旅行に行く2日前に購入して2年目になる車が交通事故によりローンを残して廃車になりました。】」
シュルツ「……お、おう、そうかー」
ヒナさん「【その後旅行で出雲にお参りにいっておみくじを引いたところ、厄災あり気をつければ大丈夫と書いてありました。】」
シュルツ「……おー」
ヒナさん「【何を気をつければいいのでしょうか? 助けてください。】」
シュルツ「……」
ヒナさん「さ、シュルツさん」
シュルツ「うん」
ヒナさん「助けてあげてください」
シュルツ「……うん」
ヒナさん「さささ」
シュルツ「……まーね! あのね!」
ヒナさん「あ、吹っ切れた音が」
シュルツ「世の中ね、どこから不幸が来るかなんてわからないわけよ。当たり前のように生きていると思ったら、ある日突然奈落に落ちることだってあるわけよ」
ヒナさん「あれ、なんだか妙に説得力がありますね?」
シュルツ「結局ね、頼れるのって最後には『健康』と『お金』なんですよ」
ヒナさん「おおー……」
シュルツ「やる気も勇気も愛も技術も必要じゃないよ。まあ『人脈』は多少はね? でもそれくらい」
ヒナさん「すごい」
シュルツ「『健康』か『お金』のどちらかがあれば、9割の危機なんて乗り越えられるよ。備えるっていうのは、ボクはそういうものだと思うな」
ヒナさん「シュルツさんはっちゃけてますね……!」
シュルツ「それでもまだ、気をつけることがあるとしたら、あとは『人事を尽くして天命を待つ』しかないんだよ」
ヒナさん「ふむふむ……」
シュルツ「今できることを精一杯して、あとはとにかく日々を過ごす。健康に気を遣いながら、お金を貯める。これ以外にボクたちができることなんて、たかが知れているさ。え、なんかめっちゃ真面目に答えているよ? これでいいの?」
ヒナさん「いいと思います!」(グッ)
シュルツ「あ、そう……まあ、ほら、あれだ。人間、所詮は自分の面倒は自分で見るしかないからね。会社だって潰れるし、車だって廃車になるし、おみくじだって厄災あるし、乙女ゲーにだって閉じ込められるよ。前途は多難、道のりは険しく、困難だらけ。それでもボクたちは生きていくしかないんだ……この長い人生という名の坂を……」
ヒナさん「しゅ、シュルツさん?」
シュルツ「うん……」
ヒナさん「あの」
シュルツ「なんか」
ヒナさん「はい」
シュルツ「凹んできた」(ズーン)
ヒナさん「はい……」
シュルツ「つらたん」
ヒナさん「シュルツさん」
シュルツ「うん」
ヒナさん「わたしがそばにいますから」
シュルツ「うん」
ヒナさん「いっしょに、がんばりましょう、ね?」(ニコッ)
シュルツ「ああもう寝ようかな」
ヒナさん「乗り越えたんじゃ!?」
シュルツより一言:現実から目を背けることだって立派な生き方だとボクは思うね。それが人の心のセーフティなんだから、さ。