リハーサル
ヒナさん「あーあー」
シュルツ「……」
ヒナさん「まいくてす、まいくてすー」
シュルツ「……」
ヒナさん「うん、大丈夫そうですね。ちゃんと聞こえますね」
シュルツ「……」
ヒナさん「これなら三日後の本番、いけそうです」
シュルツ「……」
ヒナさん「今からちゃんと体調管理に気を遣って、クリスマス当日を迎えられるようにしなきゃ、ですね」
シュルツ「……」
ヒナさん「こんなわたしが読者様の、ちょっとした不安や、心細さ、寂しさを少しでも軽減できれば嬉しいのですけれど……でも、精一杯、できるかぎりは頑張りますから。クリスマスはこわくないんだよ、楽しいんだよ、一緒に楽しもうね? って。わたしが読者様のサンタになってあげたいな、なんて言うのは、ちょっぴりおこがましいかもしれませんけれど、でもその気持ちだけは本物ですから」
シュルツ「……」
ヒナさん「なので、音声さん、照明さん、カメラさん、美術さん、ディレクターさん、プロデューサーさん、放送作家さん、皆様、この『読者様参加企画』の番組成功のために、どうかよろしくお願いします」(ペコリ
シュルツ「……」
ヒナさん「あ、え? カメラチェックですか? なにか喋ったほうがいいんですか?」
シュルツ「……」
ヒナさん「えーと、じゃあそうですね……」
シュルツ「……」
ヒナさん「あ、そうそう。そういえば、クリスマスといえば、わたしのママ……その、母の誕生日なんですよ」
シュルツ「……」
ヒナさん「その上、父と母の結婚記念日でもあるんです。なので、わたしにとっては昔からとても思い出深い日なんですね」
シュルツ「……」
ヒナさん「その日は従兄弟のお兄ちゃんとかと一緒に、毎年盛大にパーティーをするんですけれど。その、昔そこでテディベアのぬいぐるみを貰ったことがあったんです。父から」
シュルツ「……」
ヒナさん「すごくうれしくて、いっつも肌身離さずにいたらですね。なんだかそのうち声が聞こえるような気がしてきたんですよ」
シュルツ「……」
ヒナさん「するとそのうち、ぬいぐるみさんがなんだかしゃべりだしたような気がしたんです!」
シュルツ「……」
ヒナさん「あー、笑っちゃだめですよー。そのときのわたしは、ホントだって思ったんですからー。もー、続けますよー」
シュルツ「……」
ヒナさん「そのぬいぐるみさん、呼びかけてくるんです。ヒナちゃん、ヒナちゃん、って。遠くから、近くから、ささやくような声がしてくるんです。太かったり、高かったり……男の人の声かと思えば、しゃがれた老婆のような声だったり……」
シュルツ「……」
ヒナさん「ヒナチャン、ヒナチャン、って、繰り返し、繰り返し、何度も、頭の中で声が響くんです。わたしをまるで、手招きしているようなんですよ。オイデヨ、オイデヨ、ヒナチャン、オイデヨ、って何度も何度も……」
シュルツ「……」
ヒナさん「はっ、として夜、目覚めたときにはですね。いつもベッドを見守ってくれる位置にいたはずのテディちゃんが、その、ちょっとだけこちらに近づいてきているんですよ。夜ごとにですね、一歩、また一歩と近づいてきて……えへへ、不思議な話ですよねー」
シュルツ「……」
ヒナさん「次第にそんな毎日が続いて、ですね。なんだか手元を見ると、テディちゃんがわたしの髪の毛を握りしめていたりして。あのときはわたしもびっくりしましたねー。誰のいたずらだろう? って。あ、でもまだちっちゃかったから、テディちゃんが生きているって思っていたのかなあ」
シュルツ「……」
ヒナさん「たぶん、テディちゃん、寂しくてわたしと一緒に遊びたかったんだと思います。え、それからですか? 別に大したことはありませんよ。その話をしてたら従兄弟のお兄ちゃんが血相を変えて、知り合いの寺生まれのTさんって方のところにテディちゃんを持っていったんですけど、それだけです。そのあとはなんにもありません。おとなしくなっちゃいました、テディちゃん」
シュルツ「……」
ヒナさん「えへへ、ちょっぴり残念ですよね。あのままテディちゃんが生きていたら、もっともっといろんな遊びができたのになあ、って」
シュルツ「……」
ヒナさん「そんな心あたたまる、クリスマスのエピソードでしたー」(パチパチパチ
シュルツ「ホラーだよ!!!!!!」
シュルツより一言:いや、ていうか……ボクはなぜここにいるんだ……? 昨日からの記憶が無い……。なんで、クリスマス? 番組? アシスタント? 時空がねじ曲げられた……? if世界……? 虚数空間……? パラレルワールド……? どういうことなの……?