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8.写真ってデジタルよりもフィルムよりも銀板の方が解像度高いってハイテクになるほど退化していってね?

「坊ちゃん、カメラを持って写真を撮りましょう」

 自室に居ると、フィスが僕に持っていたコンパクトデジカメを渡してそう言った。

「なんで写真を?」

 フィスのとらせる行動はいつも突飛だ。

「写真を撮る――これすなわちげーじつなのデスよ、坊ちゃん。じょーそーきょーいくってやつデス。

 写実的な絵画を鑑賞するのもいいデスが、本当のありのままを捉えるのも大事なのデス」

「もっともらしいことを言っているつもりだろうけど、言ったことの意味を理解してないだろ」

 具体的に指摘するなら、芸術や情操教育の言い方が怪しかった。

「や、嫌デスね坊ちゃん。このふぃフィスが言葉の意味を知らずに使っているとでも? 失礼な」

「思いっ切り、声が震えているけど」

 僕も僕で、怪しいとは思いつつもそれが絶対とは言い切れないのは、このメイドが人をからかうのが好きな小悪魔だから。

 でも、写真撮影か。それには興味があるかもしれない。

「お、坊ちゃん興味ありそうな顔をしてますね」

「そりゃ、フィスを不審がっているだけでだからね。写真を撮るのが嫌な訳じゃない」

「なんやかんやで断らない坊ちゃんなら、そう言うと思っていましたよ。

 ――まっ、断られたら断られたで、坊ちゃんが絶対に泣いて這いつくばりながら『ハイ』と頷かせる為の算段をしてたデスが」

 フィスの手には、ブラックジャックと呼ばれる袋に砂をつめた殴打武器が握られていた。

 やっぱりそうだったのか。断った際にどんな脅しをかけられていたかと想像するとゾッとしない。

 このブラックジャックの特徴は、対象に衝撃を体内へと浸透させ外傷が残りにくいことにある。

 これで何が言いたいのかというと、詰まる所、この武器は拷問に適しているという事だ。

 そんなことはどうして僕が知っているのかは……聞かないで頂けると助かる。とてじゃないけど、あの日の事は思い出したくない。

 さてと、写真を撮るといっても一体どこで取ろうか。手近なものと言えばこの屋敷だけど、見知った風景を写真に納めても面白くない。

 屋敷の敷地内にある、あの林と呼べないだだっ広い場所へ行けば撮るものもあるだろうか。

「坊ちゃん、思案しているところ申し訳ありませんが、すでに被写体をここに連れて来たデスよ。

 ――じゃじゃ~ん、こっこデ~ス」

 フィスが何もない空間に手を広げる。フィスはそこに何かがあるように撫でてみる仕草をしてみせるのだが、僕には全く見えず、そこでパントマイムをしているようにしか見えない。

「ここもなにも、なんにも見えないけど?」

 僕の問いかけにフィスは口の前で人差し指を左右に振った。

「ちっちっち、『ち』が三つデス。それで正解、坊ちゃんの目は節穴じゃないデスよ。

 なにせ、ここに御わすは『見えざるピンクのユニコーン』なのデスから」

 どうして、見えないのにユニコーンと分かるのだろう。そして、見えないのならそれは透明であって、ピンクではないのでは無かろうか。

 色はともかくユニコーンかどうかは、触れてみれば分かるだろうか?

 たしかここらへんで、フィスは撫でていたよな。フィスが撫でる仕草をしていた辺りへと手を伸ばしてみる。

「えいっ(ぺしっ)!」

「痛っ!」

 フィスにしっぺで伸ばした手を叩かれた。おあ、おおおあ、手がぁ、手がジンジンする。

「いけません、こう見えてもユニコーンなんデスから野郎の坊ちゃんが触れでもしたら見えざるピンクユニコーンにの蹴り殺されますよ!」

「こうみえてって見えないよ……てか、何故そんな危険極まりないものを連れて来た」

「それより、危ない坊ちゃんそっちに向かいました」

「うわ、いま足にかすった感触が」

「気を付けて下さい、直でモロに触れたら故意であろうとなかろうとジ・エンドデス」

 見えない上に触れたら殺されるって、難し過ぎる。

「さっさと立っ捕まえてお帰りいただきなさい!」

「ラジャー、デス!」

 敬礼のとってフィスはすぐさま動き、瞬時に見えないものを捕えて大きな何かを抱えこんだ。

 フィスに抑えられながらも、見えざるピンクのユニコーンは暴れているらしく、フィスの周りにあったものが次々と吹っ飛ばされていく。

「とっとと、大人しくする――デス(きゅっ!)よ、っと!」

『ブロロロロォォォォォン!』

 フィスが力いっぱい見えざるピンクのユニコーンのどこかを強く締め上げると、この世に存在するとは思えない悍ましい啼き声が部屋に響いて、その後を静寂が包んだ。

 本物のユニコーンを知らないけど、少なくともユニコーンとは思えない鳴き声だった。フィスの連れて来たのは本当にユニコーンなのか?

 フィスは魔方陣を呼び出し、何も見えないのだがそこに存在するらしい、見えざるピンクのユニコーンをどこかへと送る。

 そもそも見えないのにどうやって写真を撮らせるつもりでいたのだろうか。

 今更出てくる疑問としてはおかしいのだけれど、それ以前にツッコミ所が多すぎて本来の目的に思考が追いつくまでの余裕が無かった。

「けっ、思った以上に使えないタマ無し野郎だったですデス。さてと、次の被写体候補デスけど、フライングスパゲッティモンスターを……」

「今すぐ呼び出すのは止めろ!」

 ろくでもない結末になるのが目に見えている。

「ちぇ~、これも仕方ない。『もしもしー、あー、うん。ウチの坊ちゃんに却下されちゃって。せっかく呼んだのにごめんねー。今度あの店のボロネーゼを奢るデス』」

 携帯電話で誰かと会話するフィス、おそらくフライングスパゲティーモンスターとやらをすでに呼んでいたのだろう。

「まったくフィス、もうこれ以上人外を呼ぶんじゃ……」

「それがもう、来ちゃいましたヨ」

 ――ゾクッ!

(見られてる、今、僕スッゴク後ろから誰かに見られてる)

 背後から寒気と強い視線を感じて僕は振り向こうと……。

「見ちゃ駄目デス、坊ちゃん(ゴキィ!)」

「首がっ!?」

 振り向こうとした首をフィスに強制的に戻され、反動で首に痛みが走った。

 ついでに、フィスに押し倒されて、床とフィスの間で板挟みにあった状態になってしまう。

「絶対に、見ちゃ駄目いけないんです! 見たら死んでしまいますよ」

 いつものふざけた口調と打って変わって真剣な口調で話すフィス。

 こいつが真面目になるとか尋常じゃない事態だ。なら何故呼んだフィスよ!

「あれは――スレンダーマンのエンダー君デス」


※スレンダーマン

 海外の都市伝説に語られる存在で、容姿は痩せぎすで長身の黒いスーツにネクタイ姿、背中には触手が生えているとされている。

 その姿を見たものは、発狂したり忘却したり体中が血を吹いたりするスレンダー症と呼ばれるものを発症して死ぬ。

 テレポート能力を有していて、執拗にターゲットをスニーキングして連れ去ったり憑り殺す話もある。


「――とゆーことで、ガッテンしていただけましたデスか?」

 スレンダーマンの説明を終えたフィスは何故かドヤ顔をしていた。

「ガチでヤバいじゃないか!」

 聞く限りではひたすら顔を合わせないようにする以上、対処方が思い当たらない。

 見たら死ぬって、どうすればいいんだ。というか、何故そんなヤツを呼んだし。

「そうなんデス、ガチでヤバいんデス」

「だったら……」

 どうにかしろ! そう、命令を出そうとした。

「――だから、お帰りいただき願いましょう。ばいば~い」

 フィスが僕の背後へ手を振ると冷たい気配は去って行った。

「帰ってくれるのかよ!」

 あっさりと、さっきまでのシリアスな空気は何処だとばかりに消え去った。元よりコイツに、シリアスなんかするとは思っていなかったけど腑に落ちない。

「さぁてと、余興はこの編までで十分ですね」

 これで、ここまでが余興だとしたら、本番ではどうなってしまうのだろうか。

 もう、想像がつかなくなっているんだけど。

 フィスが暗幕を取り出して広げ、目の前でヒラヒラとさせて裏へ表へ翻してみせる。それを一通り見せ終わると、今度は床にそれを伏せると真ん中をつまんで少し浮かせた感じにする。

「かぁもぉ~ん、本日のメーンディッシ!」

「ちょ、心の準備が」

 フィスがやたらメインデュッシュを格好良く発音し、暗幕を勢いよく持ち上げる。すると、さっきまでソコの位置には無かった筈なのに肌色をしたものが現れた。

「ささやかな春風を生贄に、ヌードモデル『栂藤つつじ』を召喚!」

「あれ、私はなんでこんなトコに?」

 そこに現れたのは、一糸まとわぬ栂藤さんの姿。メイド服の上からじゃ分からなかったけど意外と……、じゃなくて。

「さあ、坊ちゃん。」

「あ、坊ちゃんだ――って、きゃー! 何で、何で何でどうして!? 私は全裸なの!?」

「わー! 栂藤さん!?」

 一度見えてしまったものは仕方ないものの、その直ぐ後は、慌てて掌で目を隠して栂藤さんの見ないように努める。

「ふふふ、ぼっちゃん。手で顔を覆っているつもりでしょうが、そんなお手てじゃ中二病患者のようにしか見えませんよ」

「そんなこといいんだろ、今見えてないんだから!」

「ムフフのフ。そんなこと言っちゃっても、不意に見ちゃったものは網膜に焼き付いて離れてないでしょ」

「そうなんですか、坊ちゃん!?」

 目は見えずとも、声を出した時の息が顔を覆う手にかかってくるので、栂藤さんが僕の目前まで詰め寄っていることは分かる。近い、近いよ!

 ――パシャ。

 不意にシャッター音が聞こえた。

「うーん。こうも押せ押せな構図だと悪くはないけど、芸術としてはやや色気や艶が足りなくてイマイチデス。恥じらいって大事デスね」

「そこ、写真を撮らない。あとアンタにそれだけは言われたくない」

「またまた、そんなこと言っちゃってー。知っているんですよ、フィスがシャッターを切った時、見られるのが好きなあなたのその秘密の花弁がジュクンと濡れたのを」

「そんなことないから! 事実無根の虚偽ばかりを捏造しないで」

「嘘なんかついちゃってまったく、チョメチョメがピーになってナニになってる癖にぃ(いそいそ)」

「何いそいそとアンタは脱ぎだしているのよ、この【検閲の結果、不適切な発言が見受けられましたので削除されました】女ぁ!」

「ヘン、この【検閲の結果、不適切な発言が見受けられましたので削除されました】」

「【検閲の結果、不適切な発言が(ry】」

「【検閲の結果(ry】」

「あわわわ」

 十五歳の健全な少年の耳に入ってくるには、いささか刺激の強い言葉の押収がフィスと栂藤さんとの間で繰り広げられる。

 今すぐにでも両手で耳を塞いで二人の口喧嘩を聞こえないようにしたいけど、悲しいかな今その両手は眼前にあるであろう栂藤さんの裸を見ないために使われている。

 なら瞼を閉じればいいと思うだろう。だがしかし、全力で見ないようにさっきまで瞼を強く閉じていたわけで、その強く瞼を閉じる行為は存外疲れる。瞼が疲れると薄っすらとだけど開いて見えてしまう。

 だから、その疲れた瞼が開かないよう押さえているので手が離せない。

 お願いです栂藤さん、早く羽織って下さい。なんでもいいので。あとフィスもこれ以上煽るのを止めろ。

「しかし、あっちとこっちも見事にピンク色デスねー。そしてペロッ、この味――さては処女デスね」

 早くして……。

「ひゃうん、ちょ、変なとこを舐めないで。だいたいアンタ、私が処女かどうか知ってて……」

 早く……。

「そんなの当ったり前田のクラッカーデス。知ってて弄るのが面白いんでしょうが」

 ……。

 ――ブチッ!

 あっちこっちへ飛び出そうとしていた憤りが一方向へと揃った感覚。そして重く細く長い息が口から零れる。

 あ、この感覚ががキレるってことなんだろうな。

 息を肺から出し切った後、全力で声を出そうと肺を大きく膨らませる。

 今の僕には何を見たって、「怒り」以外の他の感情が出る気がしない。閉じていた目を開き、二人のメイドを睨みながら大きく口を開けた。


「お前ら早く出ていけ、このメイド共が!」


 口論をしていた二人は驚いた様にこちらを振り向き、そして無言で部屋から退出していった。

 栂藤さんが裸のままだったけど、そんなこと知るもんか。

「あー、清々した」

 いつも弄られてばかりの僕だけど、こうしてたまにはガツンとしてやれば、うれうことも無い。

 今度からフィスがまた暴走するようなことがあった時にまたさっきみたいにしてやれば、僕への態度も少しはましになってくれるに違いない。


 ――なんてことはなく、僕のキレていたとこを盗撮していたフィスの手によって、弄られて公開処刑されることをこの時の僕はまだ知らなかった。

 後日、顔が真っ赤になっていたり、声が上ずっていたり裏返っていたり、体の所々が震えていたりと、赤面物必死の自分の姿を、フィスから客観的に見せつけられることとなる。

>書き終えた直後の感想

 写真撮影しろよ! カメラの出番があれっぽっちって……。


 ノって書き終えたはいいものの、全然彼らはカメラ持って撮影してくれてないので、写真撮影回(会じゃない)は、このまま引き(続き)ます。

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