表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

6.『○肉○食』空白を埋めろと聞かれたら、きっと手が疼いて『焼肉定食』を選んでしまうに違いない

7.『○肉○食(ヒント:弱いものは強いものに食べられる自然の掟)』


「よし! 『腐肉悪食』っと。これで完璧デスね」

「せめて『焼肉定食』と間違えろ!」


 休憩しながらクイズ雑誌を片手に、問題を解いているフィスを横目で見ていた僕は、その解答に突っ込まざるをえなかった。

 なんつー嫌な字を空白部分にチョイスをしているんだコイツは。

 ちなみに他にも、『ドラえもんの秘密道具で人や物を小さくする光線を出す道具と言えば?』という問題部分を『原子分解光線銃』と答えている。地味に漢字だけど正解と同じ字数なのがむかつく。

 いやいや、ドラえもんにそんな秘密道具なんか無いから。小さくってか、それ木っ端微塵だから!

 その他に、こいつは何を書いているのだろう。

 気になったので書き込みのある部分の問題を読んでみる。


5.『空を自由に飛びたいな。はい、○○○○○○』

フィスの解答『ヘリコプター』

 後半はあってるけど、ついでに字数もあってるけども、言葉の響きとかも近いものがあるけどそうじゃない、そうじゃないだろ!


19.『地球破壊爆弾、これを使ってドラえもんは○○○を退治しようとした』

フィスの解答『ニート』

 ある意味齧ったり、食いつぶしたり、夜中に元気に活動したりとまるでとネズミみたいなもんだけどさ。


20.『クジラの仲間。バンドウ○○○などの種類がいる』

フィスの解答『エイジ』

 違え! 坂東さんは人間、人間だから!


36.『ザ・ドラえもんズにでてくるアイテム、親友テレカに描かれているメンバー七人を左側から順に答えろ』

フィスの解答『ドラリーニョ、ドラメッドⅢ世、エル・マタドーラ、ドラえもん、ドラ・ザ・キッド、王ドラ、ドラニコフ』


 さっきから出ドラえもんに関する出題率が多過ぎるだろ!

 あと、最後の問題がやたらとマニアックな件について。

 気になって答えを見てみたらフィスの解答で合ってたよ。なんでそんなこと知ってんの?

 雑誌の下からキラッと光るものがあって気になり、そこに目をやると本物が。

 持ってたのかよ!

「フフーン。坊っちゃん、先ほどからフィスを後ろから覗きこんでは大忙しデスね」

 フィスは顔を振り向かずにそう言ったが、口の端が吊り上がっているのが見えて、どんな表情をしているのか僕にはアリアリと分かる。

 それは――愉悦。

 あいつ、僕が反応する事を分かっていて、あんな解答を最初から全部書いていたのか。

 そうだとしたのなら、僕はフィスを見つけた時点からあいつの術中に嵌って弄られていたことになる。

「どうデス、坊ちゃんも一緒にクイズを解きませんか?」

 フィスが振り向いて、いつも通りのニヨニヨとしたフェイスで持っていたクイズ雑誌を差し出す。

 この顔は企んでいる顔だ。

 フィスがこの顔をしている時は、大体関わるとろくでもないことが起こるので誘いにならないことが肝心。

 無視だ、無視。

 回れ左してフィスから遠ざかろうとしたその時。

「逃げるんデスか坊ちゃんは。千年院家男児ノ家訓其ノ一には何てありましたデスか?」

 千年院家男児ノ家訓――それは千年院家の男児を男児足らしめる為に代々受け継がれてきた鉄の掟。この掟を破るような軟弱者には男の部分など不要とされ、ちょん切られてしまう厳しい罰が待っている。

 以前に破りかけた際、フィスからいきなり「ミッドナイト●リス」と叫んだ後、女体化されて貧血寸での状態にされた。あの時は女体化と貧血から回復までに一週間を要して、それまで酷い有様で過ごしていたのを覚えている。

 千年院家男児ノ家訓其ノ一。それは、『男児足るもの嫌なことから逃げ出すべからず。男児ならばどの様な艱難辛苦もむしろ自ら進んで当たれよ』

『嫌なことは逃げずに、どんな難しくて辛い事で逆に自分から向かって行け』ということである。

 ご先祖さま。たとえどんな艱難辛苦――たとえどんな人外相手にも、立ち向かえと仰られた貴方様を恨みます。

「さあさあ。受けるデスか、受けないんデスか? とっとと選ばないなら、おてぃんてぃんをブツ切るデスよ」

「受けます、謹んで受けさせて頂きます」

 おてぃんてぃんをブツ切りは勘弁して!

「んあー!? なんデス、その態度は? 口の利き方気ぃつけろや! デス」

「受けさせてください!」

 メイド相手に主人が額が床が付くまで頭を下げる主従関係が、世界にはどれほどあるのだろうか? 少なくとも、今この場をおいて僕は他に知らない。

「いいでしょう。では、受けさせてあげるデス。

 クエスチョンワン、テンニースがゲマインシャフト(共同体)の対の概念として用いた用語。ドイツ語で『社会』という意味の言葉といえば?」

「ゲゼルシャフト――て、問題の傾向がさっきと違うぞ!」

 突然、今まで見てきた問題と難易度と方向性の全く違う問題が出てきたが、なんなく答えることができた。

 ちなみに答えた後のツッコミにフィスは問題個所を指示した。出題範囲が広いな、さっきまでドラえもんばかりを出題していた雑誌とはとても思えない。

「流石坊ちゃん。社会学の勉強はバッチリみたいデスね」

「千年院家の人間として、家の人間達から無理矢理憶えさせられたからな」

 尚、その無理矢理筆頭格はフィスだ――というとりも、フィス独りだけが無理矢理だったと言うべきか。

「その坊っちゃんの腐り落ちそうな脳みそに、詰め込むには惜しいばかりの知識をちょんぼりとだけ詰め込ませた身としては、先生大変に嬉しいデス」

 言葉の端々から溢れんばかりの僕に対する棘々しさと毒々しさと歪んだ感情を感じる。愛など無い。

「それじゃ、どんどんいきますデスよー」

 かくして、フィスによる僕独りのクイズ大会が始まった。

 クイズは時に引っ掛け、時に意地悪に僕を欺き苦しめてゆく。

 だけど次第に、答えた後の疲労感よりも、正解を出した後の達成感が凌駕していくようになる。

 そして、答えられなかったクイズの答えを一つ聞く毎に、僕は一つ新しい知識を獲得していく。

 僕はフィスに乗せられてクイズを解かされているうちに、すっかりクイズの魅力に嵌ってしまっていたのだった。

「最終問題。喜劇王の異名で知られる――」

 フッ。そんなの余裕。言い終える前に答えてやる。

「チャールズ・チャップリン」

 決まった。

「――デスが……」

 恥ずかしい。やけに簡単な問題だと思った引っ掛けだったか。

 なんであんなミスリードをしてしまったんだ。馬鹿。

 お手付きは二回までしかできない。これであと一回だけ。

「彼の作品で人間が社会の歯車として組み込まれる資本主義社会を風刺に描いた作品は? 」

 よし言い切ったな、今度こそ。

「モダンタイムス」

「――なのデスが……」

 またかよ。引っ掛けなら引っ掛けで、一旦間を置くんじゃないよ。これは酷い。

「チャップリンがアドルフ・ヒトラーを痛烈に批判・風刺し、彼自身の作った映画の中で最も興業収入を上げた反ナチズムの作品といえば?  」

 もう騙されない。言い切ったけどきっと引っ掛けに違いない。あせるな、この答えは知っているから一拍置いて終わりだったら答……。

「はい、時間切れ。答えは『独裁者』でした」

 早っ! シンキングタイムなんて、ほぼ無かった。

「少しくらい、考える時間をくれよ」

「こーんな簡単な問題に時間かける方がどうかしているんです。こんなの坊ちゃん程度の教養があれば即答レベルデスよ。坊ちゃんは知っているはずのことも知らないアホですか」

「バーカ、バーカ」とフィスが囃し立てる。

 どこの誰が答えるのを牽制して即答し辛くしたんだっけかな?

 この気分を例えるなら、ボクシングで相手の出すフェイント全部に律儀に引っ掛かってしまい、結局一度も打ち込めないまま試合終了してしまった気分だ。

「あーあ、坊ちゃんを弄るのはやっぱり楽しいデス。それに、今日は坊ちゃんにする勉強は知識問題を中心に教えることができましたデス」たんだ。人を唆したり、弄ったりなんかしているけど、フィスはフィスなりに僕のこと考えて行動してくれているな。

 付き合い方が不器用ってもんじゃないけど、これが彼女なりの思いやり。

 よし、頭の中の知識が消えない今のうちに今日覚えたことを復習しよう。

 スモールライトといっすんぼうしとガリバートンネルの違いとか、ドラえもんの尻尾の機能とか、大長編ドラえもんのタイトルの年代順とか……あれ?

 そうしてドラえもんの無駄知識がこんなに?

 他に出てくるのも、アニメやドラマ、流行語大賞など、勉学には仕えそうにもないサブカルチャー知識ばかり。

 あ、そういえば。今日のクイズで結構な量の知識が頭に入った気がする。

 全部フィスの考えあってのことだっ

 やっと思い出したも真面そうなのも、よくよく思い返せば「そうだったけ?」と首を捻るものばかり。

「出題ソースを日本版ウィキペディアにした甲斐があったデス。どうでよさげなサブカルチャーの情報量と、いまひとつの信用の置けなさにかけては他の追随を許さないデス」

 そして今日もまた、僕は騙された。 

焼肉定食に1票

それにしても、ロボット学校七不思議は怖かったなあ。あの頃はホラー全盛期だった気がする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ