旅の道連れ
「トリシアぁ、起きて。ねえ起きてったらっ!」
このようなシチュエーションは以前にも体験しているような気がする。
子どもの声、それからざわついた人の声と、放送アナウンス…。
ざわついた声は慣れ親しんだ言葉、しかしアナウンスは…独特のイントネーションと音節、中国語。
そして一気に覚醒して飛び跳ね起きた。
「わっ!」っとシュトが驚いたようにのけぞった。
誰がかけてくれたのだろうか、毛布が掛かっていて今の今までずっと眠っていた事だけが正確に分かった。そして今現在の自分がいる場所、現在地が世界地図規模で展開する。
「トリシア、調子悪いのなおった?だいじょうぶ?」
「大丈夫、もう平気」
心配そうに見上げる眼差しを受け止めて頭を撫でた。
「ローリエ、魔法使ったでしょ。ギアに怒られなかった?」
「えー?私は事前に説明しただろう。ささ、思い出してみ?」
促されるままに記憶をたどると、そのような会話をしたような気もする。
…眠りに落ちる直前に。
「じゃあ、私は9時間たっぷり眠って、今は桂林ってこと?」
揺れもなく周りを見渡すと乗客がカバンを取り出して機内の外に出ている。着陸して空港に着いたのだろう。
「その通り、寝起きも良く頭も冴えてて魔法の副作用もなし。良好、良好」
ローリエは手荷物を取り出してリュックをトリシアに突き出した。
「レイたちとギアは先に出ている。私とシュトは待ってるから作戦通り着替えてくること、以上っ!」
「ええ~っ?ホントにやるの?何か効果があるの?」
「それでなくてもトリシアは目立つんだ。関係者なら髪を見ただけでピンとくるだろう。堪えてくれ」
困ったようにローリエとシュトを交互に見やるが、片方は拝み倒して、もう一方は「何かよく分かんないけど楽しそう」という顔でニコニコ見つめ返してくる。
「…分かった。じゃあどこで着替えたらいいか指示してね…」
しぶしぶ頷いたトリシアの手をシュトが握って引っ張る。
「それじゃあレッツゴ―!」
シュトが嬉しげに座席から飛び降りて、トリシアは手をひかれるまま飛行機を後にした。
雑踏をかき分けて進む一行がふと気付くと、同じ飛行機の搭乗口から出たはずのトリシアがいない事に気づいた。
「あれ?トリシアとシュトはどうした?はぐれたか?」
デミトリが振り向くとやはりそこに姿は無かった。
マーティが挙手する。
「あっ、おれローリエさんから伝言預かってたんだった。ちょっと遅れるってさ」
「あー、おれ見たけどトリシア熟睡してたな。あんまりビビってたからローリエさんに薬盛られたんじゃない?」
あはは、と軽い笑いが起きる。
…ギアはなるべく誰とも目を合わせないように下を向いた。事実には違いない。
「それじゃあ、シンともここで待ち合わせてるし、…待つか」
各々が自分のトランクに腰掛ける。思ったよりも桂林は蒸し暑い。
ゲートをくぐった先には現地ガイドだろうか、黒山の人だかりが出来ていてひとりひとりが白のスケッチブックにホテルの名前や人の名前が書いて我先にと言わんばかりに待ちかまえている。
どうにもここにいるのは居心地が悪い。レイは何の気なしにまわりを見渡すと黒山の人だかりの向こうでシンが手を振っていた。
「シン!」
その名前に全員の視線がレイに集まった。
レイが手を振り返すと座り込んでいた生徒達も立ち上がって手を振った。
ほとんど走るのと変わらない速度でお互い歩み寄る。
「久しぶりだな!お前も無事昇級おめでとう。よく頑張ったな」
「いえ、先生が資料送ってくれたので助かりました」
まず口をついて出るのが「元気だったか」でも「変わりないか」でもなく昇級の祝いの言葉なのが職業病の片鱗だ。相変わらず生徒の面倒見がいい。
「みんなも元気だった?」
「当たり前だろう!」
それを皮切りに全員がシンに近づいてちょっかいを出す。小突かれたり、肩を組んだり、かいぐりされたり。
シンはやや日に焼けて体つきも以前よりたくましくなったような気がする。
彼は例の襲撃事件に加担したとしてドラゴニスタから退塾の処罰が下り実家のある中国に戻っていた。他にもペナルティが色々あったが情状酌量の措置が取られ、軽い罰則ですんだ。
それもこれも、塾生全員で署名をし、ローリエが便宜を図ってくれたおかげだ。
退塾、という事はドラゴンについて学ぶ機会を剥奪されることとほぼ変わらないが、シンは自力で保護飼育士3級を勝ち取った。
「おれ、今は出稼ぎに出たりして働いてるんだ。だから筋肉ついた。すごいだろう?」
「しっかりやってるんだな。安心した」
「トリシ―が招待状くれたからね。足引っ張らないように必死で勉強した」
シンがきょろきょろ見渡して「トリシ―は?」と尋ねる。
はぐれて待ち合わせてるんだ、と言おうとした時元気のいい声がそれを阻んだ。
「みんなお待たせっ!」
全員がに目を疑った。
そして言葉も出ない。
そこに立っていたのは、頬を真っ赤に染めた…少女の面影もない紛れもない少年だったからだ。
「シン!久しぶり、元気だった?」
駆け寄って笑いかけられ、シンは困惑する男性勢を代表して口を開いた。
「と、とトリシ―?だよね、トリシ―は女の子じゃなかったっけ?いや女の子だよね、どうしたのその格好、コスプレ?」
慎ましい胸のふくらみも消え、肩まで伸びた白髪は短く切りそろえられた黒髪に変わった。
カッターシャツにシンプルなカーキのサロペット、頭にはハンチング帽という格好。普通に女の子が着ても違和感のない格好だが、凛とした顔立ちは少年を連想させる。
というか非常に申し訳ないが男の子にしか見えない。
「…男の子に見えたら作戦は成功かな。私…じゃなかった。僕は目立つから、変装してなるべく大人しくするようにお達しが下って…胸は意図的に潰したから、もともとないんだなとか思わないでね?」
口調まで男の子仕様。気合が入っているというか、本格的だ。
しかし最後の部分だけ殺気立った口調で強く強調した。女の沽券に関わる事なので譲れない。皆、気圧されたように無言で了解した。
しかしよりにもよってなぜ男装なのだろうか…。
間髪入れずにトリシアの足元に駆け寄ってきたシュトが抱きつくようにぴったりと身を寄り添わせる。
「シュトのトリシアがお世話になってます。シュトラーフです。旅の道のりどうぞ『シュトのトリシア』をよろしくおねがいします」
「ああ、違う違う。この格好の時はシアンって言うんだ」
「うん分かった。…シュトのシアンをよろしくおねがいします」
言葉も礼儀もしっかりしすぎて逆に怖い。本当に生後6ヶ月なのだろうか。
見据えられた幼い瞳は「手ぇ出したら許さんからな」とでもいうような無言の圧力を感じ、合点がいった。
男装もシュトも明白な男除けである。ローリエの入れ知恵だと言う事は確かめるまでもない。
ギアとレイはこっそりため息をついた。
無防備なトリシアはそれはそれは可愛いのだが、シュトがいる限り指一本まともに触れられないだろう…。
ローリエは満足そうにそれらの現状を眺めて掛け声を上げた。
「それでは一同、ドラゴニスタ総会会場を目指し出発しようではないか!」
男装、っていいですよね
トリシアって私の中ではだいぶ少年のイメージが強いです
男の子には無い男の子らしさ、みたいな、
「時をかける少女」の真琴、みたいなおてんばで芯のある子です
でもまさか、本当に少年に化けるとは思いもよらなかった…(笑)
現在少々体調が思わしくないです
娯楽を楽しめる程度に回復するにはちょっと時間がかかりそうなので
停滞中の更新を大目に見てもらえるとうれしいです
停滞、と言えばうちの録画の平清盛がまだ平治の乱です
後白河上皇の恋の行方が気になる…
はやく消化したい…
牛若丸が神木くんだって聞いてウキウキしてるんだ…
いささか私信の多いあとがきですが
今回も読んでくださってどうもありがとう!
次話も乞うご期待☆




