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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
羽化(誕生編)
51/225

out of sight 前線

無謀に思われたギアのとった行動は、ギアの、正確にはドラゴニスタ対策本部の思惑通りに進んだ。

ここには思っているよりも大勢の人間の思惑が赤外線センサーのように張り巡らされ絡み合っている。ドラゴニスタ側は劣勢だった。オセロで言うならばこちら側の色にひっくり返す一手が必要だった。

さて、その思惑をすべてひっくり返すには?

オセロは、角や端の目を取ると有利だとされるが、そんなことはない。ひとマスしかとれなくとも、有利な一手というのはどこにでも存在するものなのだ。

まあ、自分はオセロやチェスなどのボードゲームには興味もないし才能もないのだけど。

男、ギアは自嘲気味に笑った。

彼は空を旋回している。二対の翼を広げて、姿を隠す事もなく逆に見せつけるように。

こんな風に空を飛ぶのは久方ぶりだった。

飛行機やら衛星の打ち上げやら、そんなものがなかった時代にはもっと気楽に空を飛べたものだ。

弾道ミサイルや各国の領空を守る戦闘機、そんなもののお伺いを立てる面倒なことなどないシンプルな時代が懐かしかった。

何の皮肉か、決め手となる一手は自分自身だった。

策士と言われる自分には想像もつかない一手。上には上がいるものだ。まあ一日の長という事なのだろうけれど。

彼は気ままだった。

目下では乱闘。

追跡者シーカー達が次々に潜伏している人間を、実に手際よく拘束している。人数では劣勢だったにもかかわらず、まだ3時間しかたっていないのに既にこちらの方が優勢である。

動画サイトにアップロードされた自身の姿も消去されているだろう。

対策本部のデスクにはパソコンがところせましと並べられていた。

使い方がいまいち分からないとぼやいていた上司の言葉は不安だがいざとなればしらみつぶしにデータからアカウントからブログもしくはホームページごと抹消するだろう。

あとは、無事にトリシアの所に帰れればいい。

それで何もかもうまくいく。

自分は、自分は何があっても無傷でなくてはならない。そうでなくては、あの心優しい少女の胸を痛めつけてしまうだけなのだから。

あとは、帰還すれば、帰還さえすればよかった…。




午前2時。

マーティは15人の中隊を編成してグラハスの部隊と監視の交代をする予定だった。

約6時間置きに交代し、監視の目を光らせる。

情報部隊は違法無線のキャッチに追われていた。連中は無線の周波数をころころと変えて、かく乱をする。小癪な、苛立ちは募るが、こちらとて何もせず後手後手に回っているのではないのだ。

腕時計を確認し、待機場所を出発した直後に、無線機が叫んだ。

『相手側に情報のリーク有りっ!繰り返す、相手側に情報のリーク有り!!』

こっちじゃねぇのかよ!思わず舌打ちをする。

既に外に展開している。

『暗号が使用されているため、重要な情報の可能性有り。ひと単語ずつ解読次第連絡、なお周波数はブラボー○○に合わせよ』

周波数をころころと変えているのはこちらも同じ。

「グラハス、徹夜明けでキツイがどうやら今日中に決着つけなくちゃなんねえな」

無線越しに笑う声が聞こえた。

周波数を変える。

単語が読み上げられる。たどたどしく片言な言葉の羅列はまるで言葉を覚えたばかりの子どもが読む絵本のようだ。

『ターゲット、P、脱出、否、正確、リーク、正確、信ぴょう性、信頼、明朝、作戦、合図、待機、プラン4、周波数、デルタ…これから文章として組み立てますが、現場での判断に任せます、連絡を待て』

情報のリークからわずか3分での暗号解読。いつもながら見事な手際のよさである。

ターゲットP、とはもっとも頻繁に出てくる単語である。正確には人物の事だが。

P、Princessプリンセス。すなわちトリシアの事だが、案の定彼女の行動はだいぶ前から監視状態にあったようだ。

はらわたが煮えくりかえる。いいとしをした男どもが揃いも揃って少女を常に監視していたというのだ、この事実を出来れば実名で公表して全員を豚箱に放り込んでやりたい。ストーカー行為で確実に6ヶ月以下の懲役に服させてやる。

が、これは秘密結社同士の抗争なのでどれも不可能だろう。

しょっぴけたとしても精々、宗教信者たちの集団ストーカー行為、で実刑判決はもぎ取れない。更に言えば我々も引っ張り込まれてストーカー行為を行っていた宗教信者に仕立て上げられるかもしれないな…などと真剣に考えてる暇など実際はない。

要約すると、ターゲットPが家にいないという情報のリークが有り、卵が孵化した可能性が高いので夜明けとともに作戦を開始する。

…実力行使でトリシアを奪う。あわよくばドラゴンも。

「くっそ、間に合うか?!」

『明朝、夜明けとともに合図があるはずですが、タイムラグが必ず発生します』

「いや、それが当然だ。タイムラグの心配はしなくてもいい。現場おれたちがフォローする。…諦めるな」

それは自分自身に言った言葉かもしれない。

そして部隊の無線の周波数に合わせて発信。

「おれたちの初動に次の展開がかかってる…全員位置につくように。場所は1,5部隊をカバーするようにプラン2で各々の判断に任せる。各自些細なことでも構わないから逐一報告するよう。健闘を祈る」

恐ろしいほどの静寂。

この静けさの中に味方が45、敵がおおよそ130人潜んでいるのだと思うとおぞけがたった。

位置についてそろそろ3時間。

無線も黙ったまま。

夜明けまであと数分。山の向こう木々の隙間から徐々に明るくなっていく。

動くか?!

合図をかけようと無線機に手をかけた瞬間、無線機が叫ぶ。

『全員上をっ!!!』

上ずった、隊員の声。木々ばかり見ていて空に目を向ける者はいなかったが、すぐさま顔を空に向ける。

絶句した。

『1,5部隊?2部隊?応答を!何が起こったのか報告を!』

待機している情報部隊が悲鳴を上げる。

「…状況報告、ドラゴンが上空を旋回中…じきに敵の無線もそっちに上がる。準備を…」

はっとした、全員が目を奪われている…?それは連中も同じはず、なんせきゃつらは喉から手が出るほどドラゴンの物証が欲しいはずだ。

無線機を全員に聞こえるようにセットする。

「作戦開始!繰り返す、作戦開始っ!奴らは気を逸らされてる今がチャンスだ。本部からも増援を!!」

『相変わらず機転が利くなあ』

笑い声がする。

「グラハス、どうせお前も今同じ指示を出そうとしたんだろう?」

無線機の向こうは既に様々な声で埋め尽くされてる。が、グラハスの笑う声がたしかに聞こえた


さて、out of sight今回は戦う最前線の話です

インカムに向かって叫んでるマーティたちの勇姿を見せてあげたかった!

さて、マーティの株は上がりましたか?

ちょっとはいい奴に見えましたか?

そんな人にはお気の毒ですが、彼には今後通常営業でもがんばってもらいます

たぶん、ここでかっこよく書いた分がおじゃんになる勢いで天の邪鬼やらせます


ふっふっふ、私は今回の話が書けただけでだいぶ満足してます

でも話は続きますので引き続きご贔屓ください

では次話も乞うご期待☆

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