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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
萌芽(出会い編)
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「で、ある程度話が進んだからここからは気を抜いて用事を進めていいのかな?」


さっきの舌戦の熱が冷めないのだろうか、ギアは饒舌だった。


「構わない、だって信じないといけないみたいなんだもの…」


不服そうなニュアンスを含ませながらもトリシアの口調はさっきと比べ物にならないくらい明るかった。しかし、瞳は暗く淀んで濁ったまま。


「まだ悲しそうだね?」

「少なくとも、初対面の人と遺産の相続の話をする気分ではないわ」

「愛する人との別れを理解したくないんだね…見ればわかるよ」

「っ…何が分かるっていうのよ!」

「そして、理解も同情も優しさも欲しくないわけか…ずいぶんと欲張りなお嬢さんだ」


その通りなのかもしれない、人から与えられるものを全てはねのける私は欲張りなのかもしれない。


「だったらせめて、事務的に物事進めていこうよ。君に与えられる物理的な物はそれくらいのものなんだからさ」


かれはさばさばと言い切り、うつむいたままのトリシアの指先に触れた、じんわりあたたかいのが分かった。


トリシアは感情の一切を押し殺した7日間から、ようやく解放された。

それは悔しいが、強引に怒りの感情を引き出したギアの力が大きかった。

どかっと彼が床にあぐらをかく。

長居をする気満々だ。


「ドラゴニスタの存在は認めてくれたんだよね。ついでにドラゴンの存在も。っていうかそういうことにしといてくんないかな、私が困るから」


口調は滑らかで、手慣れた様子で肩から下げていた大きな鞄から朱い蝋で封をされた手紙と用紙を6枚ほど取り出す。

その他にほこりが舞いそうな手紙の束を乱雑に振った。


「ほら見て、これ全部催促の手紙なんだよ。神経細いよね、もっと度量が大きくなきゃいけないと思うんだけど」


蝋で封をされた手紙は紐でくくられていてけっこうな厚みをもっていた。

ギアは手紙以外の6枚の紙をペンを添えてトリシアに渡した。


「手紙は読まなくてもいいのかしら、私宛なんでしょ?」


彼はうんざりした顔で手紙の束をぞんざいにばさばさと振る。

「どうせ中身は一緒だよ、重要そうなのだけ渡すから先にその書類にサインしてて」


追い払うように手を振って、ペーパーナイフを取り出し封をされた手紙をなんの了承もなく手際良く開けていく。

その作業をこなしながらサインすべき書類を指さし

右から「ドラゴニスタ所属の同意書」「ドラゴニスタとの契約書」「ドラゴニスタの誓約書」「ドラゴニスタの義務の相続手続き」「給与に関する書類」「死亡同意書」と説明した。

どの書類もみっちりと小さな文字で白い紙が埋め尽くされている。


「この書類と同じくらいの字数で手紙が23通来てるけど、全部読む?」


読む気が失せる。


しかしこの時、事務的で事実だけを始終退屈そうに話す彼の…ギアの口調に心が少しずつ軽くなっていくのを否定しきれなくなっていた。心が軽くなって、余裕が出てくるのだ。


読む気が失せる。

よっぽど顔に思っていることが出てたのか、伯父がクスリと笑って大まかに内容を要約する。


「所属の同意書はドラゴニスタに入会する事、

 契約書は生涯をドラゴニスタと共にある事を契約する事、

 誓約書はドラゴニスタおよびドラゴンにまつわる事の一切を公にしてはならないことを誓う事、

 義務と相続手続きはローヴァとリタのしてきたこと―つまり直接の保護と飼育―を引き継ぐ事、

 給与に関する物はドラゴニスタが生涯の生活を保障し給与を配当する事、

 死亡同意書は…万が一の事態があっても同意のもとに承諾する事、という事だが…」


死亡同意書、という穏やかではない言葉の響きに伯父の顔には深くしわが刻まれている。


書き渋るトリシアを見て、

ギアがいかにもたった今気付いたという風に書類を一枚追加する。


「死亡届」と説明した。

しかし名義がトリシアではなく「ゲンローヴァ・T・シェイド」となっている。



「…父さんの死亡届ってどういう事」

思わずきつく問い詰める口調になる。


「ギア、これは入会後の書類だろ」

ギアは気にする事なくペーパーナイフで手紙を開封し目を通し、手紙を仕分けている。


「トリシア、君はローヴァの棺の中身を見たのかな?」

きつくきつくまぶたを閉じて彼女は首を横に振る。…思い出したくない…今は、父の葬儀なんて。


とっておきの秘密を話すいたずらっ子のようにギアの声は弾んでいる。

それが分かる自分がなんだか憎い。


「あれは建前上の葬儀、とでも言っておこうか。ローヴァの遺体はドラゴニスタとの契約で公の場に出すことを禁じられているんだ。もう彼の遺体そのものがドラゴニスタもしくはドラゴンの存在を証明しかねないからね」


「…つまり、あの棺は別物だって言いたいの?」

ギアは作業に夢中になっているふりをして答えない。

それが答えか。


目がギラギラと光る。顕著な表情の変化から歯を食いしばる音まで聞こえそうだ。

棺にさえ触らせてもらえなかった葬儀を思い出すと、彼が言っていることが入会を誘う嘘だとしても見過ごすことはできなかった。

父さんの…私の…たった一人の父さんの葬儀を…偽っただなんて。

絶対に赦さない、絶対に認めない、見送った棺が偽物…空だったなんて…。

虚無感に再び胸を支配されそうになる、それでも歯を食いしばってペンをとった。

知らなくてはならない。

ドラゴンなんてどうでもいい、お父さんの死だけは絶対に偽りのままにはさせたりしない。


床に転がったペンを手に取り片っぱしからサインをしていった。

「死亡同意書」真っ先に迷わずペンを走らせる姿を見て彼はクククっと声をこらえて笑う。

全ての書類を受け取ると、ギアは改まった声で


「では、全ての書類を受け取りました。正式に受理されますと、また書類をお届けにきます」


「どうせ、居座る魂胆なんだろう?」

伯父が口をはさむと「そうなるけどね」とくだけた口調に戻った。

「実はドラゴニスタ本部には書類は受け取ったって報告昨日してたんだよね、だからここで魔法を行使しようが秘密をみだりにひけらかそうが、今書類を貰っちゃえばあとでばれたって始末書書けばいいからどうってことないんだよ」


彼は身勝手と言っていいほど天真爛漫だった。


「それよりこれで何の隠しだてもなく喋れるんだから、じっくりおしゃべりしない?紅茶でも飲みながらさ」



夜更けに書斎の電灯が瞬く。

分け入ってようやく触れた秘密はどうやら入り口にすぎないらしいことを私は十分に肌で感じていた。

全てを知った気にはならないでくれ、彼の言葉はそんな挑発にも聞こえ、私は知らず知らずのうちに彼の瞳に見入っていた。


ドラゴンが出てこない

ドラゴンの話を書いてるのになんで出てこないんだろう←

まあでも、後々の計画ではちゃんと舞台は整ってるから、いいかな

……いいのかな(笑)

 

スローテンポとか言いながらほぼ毎日更新してるのはどういうことだろう

アイディアが出てくると書きとめてなきゃ忘れちゃうんだよね

だから、夜中とか手が離せないときに思いついちゃうと

あとで忘れちゃたりしててんやわんや

 

そんな裏事情を考慮しつつ不定期に更新します

今回も読んでいただきありがとうござました

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