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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
萌芽(出会い編)
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進展

私は頬を撫でる指先を振り払って、彼を憎悪を以て睨みつけた。


…ドラゴニスタに所属しドラゴンを飼育する義務?


よくそんなありもしない事をでっちあげるものだと呆れ返る他ない。よく出来た空想か妄想、小説なら良い筋いってるかもね、と皮肉たぷりに念を込めて。


父と母の名前まで出されては黙ってはいられない。

父は、死んだのだ。

母も、いないのだ。

私一人しか…いないんだって…思い知らされてばっかりで…それでどうして?

どうしてそんなことを言うの。


睡眠と栄養不足の体を奮い立たせ立ち上がった。

本当は立ちくらみとめまいでチカチカするし、頭痛もひどい、吐き気がする。

けれど、そんなことに付け入らせてはいけない。プライドが許さない。


伯父が体を支えようとする腕を押しはらってギアをにらんだ。



「ドラゴンを保護する?ドラゴンを飼育する?冗談には度が過ぎるわよ、お客さんだと思って話を聞いてたらとんでもない事言いだして、挙句に父と母の名前まで持ち出してあなたに恥という概念は無いの?」


ギアは恥じ入る素振りはおろかおもしろがっている風情だ。

トリシアの苛立ちが加熱する。


「ドラゴンが存在する…なんてことこの現代で信じる人間がいると?田舎の娘なら騙せるなんて思わないで。馬鹿にしてんじゃないわよ!全部嘘っぱちだわ!!」


怒りが加速して頭には血が上るがむしろ冷静な思考の後押しをする。




「おもしろい」


怒りによって饒舌に言葉を紡ぐ私を見てギアはますます面白がる。

それが自分にも正確に分かるのがより腹立たしい。


「惜しい、実に惜しい。ますます気に入った。私は君を是が非でもドラゴニスタに引き入れたい」

「まだ言うの?!ドラゴニスタなんて存在の実証もない組織、カルト集団なんかをどう信じろって―---」



言葉をさえぎるようにギアは手を出し制した。


「イルミナティ、フリーメイソン、KKK、薔薇十字団、義和団、白蓮教、マフィア、任侠、暴力団…」


よどみなくギアは組織の名を読みあげる。

いぶかしい目でギアを静かに見つめる。

ひとしきり気が済むまで名前を言いきったのだろう、不敵に私に問う。



「これらの名前は全て組織の名前だ、しかしある共通点がある。君に分かるか?」


答えない私を見て分からないということを前提に続ける。



「秘密結社だよ」


怒りによって饒舌になったトリシアに影響され彼の思考もシンプルに冴えわたる。


「マフィアやフリーメイソン、誰もがその存在を認知しているにもかかわらず、誰がどこで何をしているのかその全貌を知る人間は組織に所属している者しか分からない。公然の秘密、とでもいうのかな。君はマフィアやフリーメイソンなどの組織は認知しているようだけど、彼らも秘密結社だ。ただ我々よりも名前が知れ渡っているだけのね。我々は秘密結社の『秘密』をさらに突き詰めた組織なだけだよ。マフィアもフリーメイソンもその組織に所属しなければ組織について知る権利を得ることができない」


彼は不敵な笑みを浮かべ言った。


「ドラゴニスタも同じだ。部外者に知る権利はない」


ご理解いただけたかな?ギアの言葉には隙がなく言い返すことはおろか、指摘する点も見つけられない。

それよりも、信じることが出来ないという気持ちが心の根底にあるのだが。



知る権利はない、

突き放すように付け加えられた最後の一言には自分は何の力もない子どもも同然だった。

釈然としないまま苦く顔を歪めて顔を逸らす。悔しくて唇を噛んで、でも力なく頷くしかなかった。


「よかった!」

彼の無邪気に喜ぶ顔はさっきの説き伏せる大人びた顔とは真逆の幼子のようで、こんなにも表情や雰囲気がガラリと変わる人物とは初めて出会った。

太刀打ちできない事がはがゆくて悔しい。


「うーん、でもちょっと大人気なかったかなあ」


膝が笑って立っているのがやっとという状態のトリシアの腰に手をまわし膝裏からもう片方の腕をすくい入れ持ち上げる。


「ちょっ!何するの!やめてってば!」


俗に言うお姫様だっこに顔が火照る。


「ギアいいかげんにしろ!」

「おっと」


伯父の乱暴に肩をつかもうとした手をギアが軽々よける。


「この娘が落っこちちゃうだろ、気をつけろよな」


そう言いながら、彼は軽く私の額に口づけを落とす。



「!!!!!!」


声にならない悲鳴が上がる。


が、不意に体の倦怠感が吹き飛んだ。めまいもしない、いったい何をした?

驚きに目を張り、ギアを見上げる。


優しげに笑って「リップサービス」と言い、そっと足を床につかせて立たせた。


「嘘ぉ…」


ほとんど健康状態と変わらなかった。


「ドラゴンって言うのは魔法の塊なんだよ、これでドラゴニスタの証明に足るかな?」


今度は、半ば熱に浮かされたように頷いた。

しかし、今度は伯父が声をあげる。


「ギア、部外者および協定区間外での魔力行使は禁止されているはずだ!どこの魔力を行使した?!」


その言葉にぎょっとしたのはギアでなくトリシアだった。


「なんで伯父さんがそんなこと知ってるの!?」

「簡単だよ、ディブもドラゴニスタだから」


伯父を振りかえる。

「…すまない。もっと早くに私からすべて話すべきだった…せめて…葬列に並んだ時には…っ」

悔しそうに言葉を詰まらせて唇をかむ。伯父にとって、少なくとも伯父としては遺産や相続に関しての話は人を悼んでからでも遅くはないと判断したのだ。


ドラゴニスタの権限に関しても相続と言っても間違いはない。


ギアに全て話すことを黙認し、うなだれる伯父に何も言えなかった。涙が出そうだった。


驚きと困惑、その両天秤が上がったり下がったりしてまともじゃない。この世界のなにもかもが信じられなくて。


「とにかく、もう私ドラゴニスタの話信じるしかないってこと…?」


満面の笑みでうなずくギアをみて、精神的な薬物対処の出来ないめまいに頭を抱える。



私にどうしろって言うのよ。


天井に向かってため息をついたが、こんなに誰かとしゃべったり怒ったりしたのは父さんが死んでからはじめてだとすこし心が軽くなった自分に一番腹が腹立たしかった。




ドラゴニスタという謎の組織やドラゴンの存在を今どきの女の子にどうやったら納得してもらえるのか、という袋小路に追い込まれ

トリシアと脳内シュミレーション、エンドレス押し問答

 

今回はウィキペディアフル活用でした。

意外とトリシアは頑固者だなあと発見した今日この頃。

「この子はこんな子」っていうのを書いていけるようにがんばります!

今回も読んでくださってありがとうございました!

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