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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
萌芽(出会い編)
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来訪者

「何をしに来た、この娘には関係ない、お前にも用は無いといったはずだ」


突然現れた、というか侵入してきた若い男に向かって伯父がはっきりと言い放つ。

伯父とその男は知り合いなのだろうか。

ひどく若い男が伯父の前に立つとその美貌は一層際立って見える。

私をかばうように伯父が部屋の入口に立ちふさがると、男がうんざりしたようにため息を吐いた。


男は細身の体にインバネスコートを羽織っている。

大きな鞄とはきつぶした革靴も明るい茶色で統一されていてなんだか妙にひと時代前のオールドファッションだが…これは彼の趣味なのだろうか。だとしたら彼のファッションセンスの欠落は時代遅れどころの話ではない。


「あのな、ディブお前さんには関係なくても、上のお偉いさん方は黙っちゃいないんだ。それは分かってるんだろう?」


上?偉い人?誰の事だろう。取り残された私には二人がなんの話をしているのか分からない。

苦悶の息を漏らす伯父を私はただ見つめることしかできない。


彼は伯父の肩越しに私を見つめ、目が合い、再び伯父に視線を戻す。


「言われた通り7日、待ったよ。でもこの様子だとローヴァもリタもお前さん方も何にも言ってないのだろう?」


父と母の名前に伯父の顔に苦々しくしわが深まる。

彼は得意げに胸を張り、自身の正当性を主張した。

伯父の強気は大きく揺らいでいるのが背後の私にもわかる。


失敬、と彼は喜色満面に伯父を押しのけ私の足元に優雅に膝ついた。

時代錯誤な動作に、いぶかしげな眼差しを向ける私に彼は微笑む。

自然と視線が合い互いに見つめ合う。

彼は気にしていないようだが、間近で見ると整った顔だった。意識すると見つめられた方はたまったものではない。頬が上気するのを否が応でも自覚する。



沈黙が痛い。



目を逸らそうとした、が失敗した。

一瞬にして男が両手で私の頬を包み込んだのだ。

上向かされ、頬を両手ではさまれ、無理やり視線をつなぎ合わされる。


「や…っ!」


なにすんのいきなり!

声を上げ抵抗しようとするも力が入らない。寝不足と食事をしていない事がたたった。

昨日までの自分のをはじめて恨めしく思った。

逃げそびれて頬が熱くなる。


「ギア!」

伯父が殴り倒すんじゃないかと思うような勢いで肩に手をかけ、力任せに引き離した。

手が頬から離れる。

息が苦しいと思うと無意識に呼吸を止めていたことに気付いた。

男は伯父に見向きもせずに私に歩み寄り、再び、しかし今度は限りなくそっと頬を両手で包む。


「自己紹介が遅れた。非礼を許してほしい。私はグルギア・デュマン・エドガー」

紳士的なあいさつだが、彼の指先は私の顔をなぞって遊んでいるのか真面目なのか全く見当がつかない。


「君はトリシア・F・ルルーだね」

ふにふにと頬を押したりつまんだりしながら嬉しそうに声を上げる。


「おいディブ!この娘は本当にリタにそっくりだ。目も鼻も唇も、すぐに顔が赤くなるところも」


ただ、と両頬を包んでいた片方の手に髪の毛を絡める。


「髪の色はローヴァに似たんだね。二人の子どもに間違いない。ところで君はいくつになる?」


「17だ」



私が答える前に伯父が強く言う。間違っている。


ギアが両目を眇め、しばらくして、薄く笑う。

「くだらない嘘をつくものだな」

「嘘をつくならば、この娘に聞こう」彼は私の目を見つめる。


「…18よ」


やっぱりな、ギアは納得したのか、満足したのか頬から手を離した。


「協定年齢に達している。血縁関係も確認したし第一後継者はディブ、君じゃなくこの娘だ」


認めなければ自分で傷口を広げることになるぞ、と彼はたっぷりと脅しを含ませた。

伯父は力なくうなだれ私の腰掛けるベットに腰かけた


「トリシア、お前ローヴァとリタが何の仕事をしていたか知っているか」

弱々しい声で伯父はそんなことから話を切り出した。


「牧場で雇ってもらえてたんじゃ、ないの?」

父は牧場に通っていた。

山の上に牧場がある。もともとは母の家の土地だったが母が死んだ折に父が相続したので「家の」と言っても差支えないだろう。

そして勤務中に牧場の端にある森の斜面に足を滑らして……父が牧場で働いていなければ何だというのだ。

私に職を偽っていた?そんなことに何の意味があるというの。


伯父は口を開こうとしない、何度も口を開いたがすぐにつぐむ。

何を言おうとしているのか分からない、でも気になってしまう。

その沈黙がトリシアにも耐えきれなくなってきたころギアの方がついに辛抱がきかなくなったのか声を上げた。


「ディブ、お前が話さないならおれが言ってやるぞ!」

「待ってくれ!」


伯父の制止も聞かずギアは口火を切った。伯父の肩を突き放しトリシアの目の前に立つ。



「我々はドラゴニスタに所属するものである。君の両親も同様である。ドラゴニスタとはドラゴンに属するものを保護する団体であり、組織だ」


ひといきにそこまで宣言した彼はどこか清々しげで誇らしげにさえ見える。

「はあ…?」


馬鹿な、と私は失笑まじりに見上げる。

ドラゴンだの龍だのと架空の生き物を保護する組織だのと言われても詐欺か怪しい宗教カルトの勧誘にしか聞こえない。この男、イカれているのか?

その組織がなんだっていうの?

っていうか…ドラゴンって言った?誇らしげにドラゴンって?いい年の大人が馬鹿じゃないの?


ギアはなおも続ける。


「君の両親…ローヴァとリタは準1等飼育士、つまり直接ドラゴンを保護、飼育する地位役職にあり、死亡した場合順当にいけばその子どもに後継される」


意味が分かるか、とギアは問うた。


分かるわけがない。



「君にはドラゴニスタに所属し、ドラゴンを保護、飼育する義務があるんだよ」

会心の笑みで男はそう言い、私の頬を撫でた。


薄気味が悪かった。

ややこしい事になってるけど順を追って話を進めます。

分かりにくいけどお付き合い願えるとうれしいです。

 

しかし、まだまだ肝心のドラゴンは出てきませんね。


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