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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
159/225

たいへんよくできました 180日目

誘拐、という名目のもと日本に滞在をはじめて約半年が経った。

買い物くらいは頼めるんじゃない?と褒めてもらえるくらいには日本語をしゃべれるようにはなった。

けれどまだまだ、親密な仲を築けるような日本語ではないので英会話に甘えさせてもらっている。

窓の外には地面が完全に埋もれて見えなくなってしまうくらい雪が積もっている。

砂糖みたいにふわふわなのは新しい雪で、その下は氷になってしまっている。それがほんのちょっとだけ残念だ。


ささやかだけれどシュトの1歳の誕生日を祝った。

お正月前の忙しい時期と重なってシュト自身も忘れてしまっていたのはちょっぴり悲しかったけど……そういう私も人のことを言えないんだよね。


「トリシアって年はいくつなんだい?」

「この春、3月のはじめで20歳になるよ」


何気ない会話だったのでするっと口を滑らせた。

手元には砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶を置いて、珠姫の作ってくれたお茶菓子に手を伸ばしていた。

そういう本当に何とも思わないような、いっそ聞き流されてもおかしくないような会話の一部だったのに、彼らは驚いて動きを止めていた。



「…20歳?」


「うん、そうだけど」


まじまじと頭のてっぺんから足の先っちょまで見て確認をとるように基彦が聞いた。そして頷いた。


「どうしてそんなめでたいことを黙ってるんだい姫さん!」

「別にめでたくもなんともないでしょう」


実際彼女にとってはそれほどめでたいことではなかった。自分の住んでいる地方だと18歳で大人と変わらない扱いを受ける。


「おい珠姫!お前、振袖は箪笥にあったよな!?」


浮足立った基彦が声を張り上げて珠姫に聞くと、既に心得ている様子で小さく頷いた。足早に部屋から出て行ったのは振袖を探しに和室へ行くためだったのだろう。

暉臣は台所に酒がないのを確認してすぐに酒屋に電話をかけた。

基彦も嬉しそうに部屋を出て行った。


たった一言でどうしたことか。いったいなんなんだ。


「ねえ、なんであんなに慌ただしくなったの?私何かまずいこと言った?」


澄幸もすましているが、いつもより嬉しそうな顔で椅子の上でくつろいでいる。


「20歳っていうのは日本ではとても大事な年なんだ。成人、と言って子どもではなくなったことをお祝いする。お酒もたばこも博打も打てるようになる。トリシアは女の子だから振袖も着なくちゃね」

「あの、私そんな大層なことしてもらうような筋では…」

「何言ってるんだい。珠姫も基彦も暉臣もあんなに嬉しそうに動き回っている姿は久しぶりに見た。君のおかげなんだから、大人しく祝われておきなさい」


困り果ててしまったのでシュトに救いを求めるが、目を輝かせて見上げている目とかちあった。

ああ、たぶんもうどうあがいても相手の思うように転がっちゃうなあ、諦め半分でため息をついて「祝ってもらっておく…」と返事をしておいた。

そのあと頬を上気させた珠姫に和室へ連れていかれていろいろな着物、主に華やかで袖が長いものをあてがわれて着付けまでされたのだが、想像以上に重いしかさばるし胸がキュッと締めあげられて苦しいし、最終的には刺繍の入った襟のついた着物のようなもの(襦袢)も着なければいけないと知って本当に大人しく黙って祝われておくべきか頭を悩ませた。



話し合いに話し合いを重ねた結果、最終的にお祝いは3月の誕生日にすることに決まった。





澄幸に日本神話について読み聞かせてもらって、もう3ヶ月になろうとしている。

澄幸は見た目が好青年の若者に見えても年月を膨大に重ねている分、ボケたおじいちゃんみたいに抜けたところがある。

同じ話を2度、3度、聞く事も少なくは無かった。

そうして話をふんふんとこたつに足を突っ込んで窓の外に降り積もる雪を見ながら漏らした。

真っ暗な静かな夜の、広い部屋の中で私とシュトと澄幸の3人きりだった。


「スミユキ、古事記も日本書紀も風土記も特別『龍』に特化した記述があるわけじゃないのね」

「ああ、そうだよ。神々の日本を創る様子や男神や女神のことを記してる」

「でね、なんでこれを読めって言われたのかなって、なんで宿題になったのかなって、考えたの」


へえ、と澄幸の反応はそっけない。

私はちょっぴり大発見だと思って舞い上がってたのに。


「…日本の人って、日本の信仰って曖昧なのね。他の宗教だったら絶対的に信仰する対象があるのに、日本神話に出てくる神様はたくさんいるのに誰もないがしろにされないし、ジンジャ?っていうところに奉られてるんでしょう?」


澄幸は依然として素っ気ないままだ。


「スミユキは、龍のことを考えさせるんじゃなくて、八百万の神について、日本の信仰の在り方について考えさせたかったんじゃないの?」


沈黙が続いた。

雪が降り積もるような静かな時間。


「見当違いだったら、早めに言ってよね、勘違いしちゃうから」


ふいっと顔を背けて、若干不貞腐れて窓の外に視線を外した瞬間頬に固いものがぺったんと押された。

何事かと思って澄幸を振り返る。

手には大きくはない正四角形の木判が収まっていた。


開いていたノートにも同じようにぺったんと判を押した。

桜の花が二つ重なった線の中にひらがなが。


『たいへんよくできました。』


澄幸が口角をニッと上げて目を細めた。


「たいへんよくできました。トリシア、僕が意地の悪い宿題を出したのにきちんと正解を出してくれて嬉しいよ。しかも思ってたよりもずっとはやくに」


間抜けな顔で澄幸の言葉を聞いて呆けていたのはどのくらいだったのだろう。


「嘘?」

「嘘なもんか、僕が手作りしたんだぞこれ」


木判をほらっと突き出すと確かに手彫りなのが分かった。


「それから、君の顔、だいぶ間抜けに仕上がってるから今のうちにみんなに見せてきて甘やかされてきなさい」

角隣りの彼が立ち上がって思いの外大きな手でくしゃっと頭を撫でて立ち去った。

ずっと黙っていたシュトがトリシアの膝の上に頭をのせて笑った。


「トリシア、おめでと~~」


ほっぺたに桜の花が二枚重なった『たいへんよくできました。』の判子が滲まないようにシュトがふーっと何度も息を吹きかけて、もう一度笑った。

それから澄幸に言われたとおりにみんなに顔を見せてまわった後で鏡を見てから


「しまった!」と恥ずかしさのあまりにしばし身悶えした。

でも、それも悪くないような気が、何気なくした。


さてさて


今回は正解の話ですが、トリシアの戦いというか本番というか

それはこの続きの話です

正解のある問題だけで解決できる事って少ないですからね^^

トリシアが凛々しく立ち向かってくれるんだろうな


では次回は金曜日に更新の予定です

今回も読んでくださってありがとうございます!

次話も乞うご期待☆

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