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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
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誘拐と占いで会った女の子

「なんで3、4年も時間がいるの?」

「色々、話したいから」

「答えになってないんだけど」


「とにかく僕は何と引き換えても君と話がしたかったんだ。実際には一銭も払ってないんだけどね。誘拐には身代金がつきものだけど、僕にとってはトリシアこそが身代金なんだ」

「小難しいことを言って……あなた少し理屈っぽいのよね」


彼は少し逡巡するそぶりを見せて歩調を緩めた。


「僕は占いが得意でね、外すのが珍しいくらいにはよく当たるんだ」


「それで?」


「鱗を首から下げた白髪の女の子と僕が頻繁に話している…そう言う類いのイメージや心象や示唆するような占いの卦が出てきた」

明らかにそれがトリシアだと分かるワードだ。

「…だからって普通、誘拐なんてする?」

恐怖や驚きを通り越して軽薄な笑い声が漏れた。

馬鹿らしい。

「僕だって無視するよ。普通は。でもそれが10年、20年続いていたと言ったらどう思う?頭が狂ったかと思ったさ、でも占いで探れば探るほど君の事が鮮明に見えるようになるんだ」


苦悩を語る様は、その姿を見ている側も痛くなりそうなほど心に何かを訴える。

まるで助けてと言っているようなその苦しげな顔を見てトリシアは思わず頬に手を添えた。考える事もなかった。

「でも、だからって誘拐する?」

苦笑いに彼も苦笑いでこたえた。

「タイミングがここしかなかったんだ。君は他の奴らより捕まえにくかった。占術的な意味でね」


少しの沈黙が気まずかったのかシュトが澄幸のシャツの袖を引っ張った。

「お庭をもういっかい見て回りたい。だめ?」

「いいよ、ええっと…」

名前を言い淀んだ所を見ると耳慣れない名前に戸惑ったらしい、シュトが元気よく言う。

「シュトラーフ、シュト、だよ」




「あの子はずうっとああしてるけど飽きないのかなあ…」

シュトは警戒心を完全に解いて芝生に寝そべって頬杖をついている。

初夏に初めて人間の姿になて見せた時は肩のあたりで切り揃えられていた髪がちぐはぐに伸びているので1度切り揃えてあげないとなあ、と誘拐中とは思えないことを考えながら答える。


「シュトにとっては生れて初めての夏なの。だから夢中になっても仕方ないと思うなあ…」

「ああ、じゃあちょっと慌ただしい時に連れてきてしまったんだね」


雑木林に風が抜けるたびにこずえがして、蝉が鳴いている。

自分の山では聞いたのことのない切なげな声が鼓膜を震わせるのにトリシアも聞き入っていた。

澄幸は申し訳なさそうに肩を落とす。

穏やかな横顔は年齢をあやふやにさせる。若くも見えるし年老いても見える。



「あなたは何歳か聞いても失礼じゃない?」

「おおよそ…8千歳くらい、龍はドラゴンより歴史が浅いから僕くらいの歳が最年長なんじゃないかな」


そう聞いて、やはり他人ではないのだと確信する。

そして澄幸の言葉の選び方は決してドラゴンと龍を混合しない。


「何で私があなたの占いに出てきたのかな」


それが不思議で仕方がなかった。

澄幸があんまり長い間黙っていたからトリシアの質問はてっきり聞き流されたと思っていた。

シュトが寝そべっていた場所と違う所へ歩いていき、また寝そべる。

本当にあれで飽きないのだろうかとトリシアが声をかけに行く前、澄幸が引きとめるように口を開いた。




「君は、とても悩んでいたね。僕の話を聞くという場面が多かったけど、僕が何かを君に授けなければいけない感じはしてた。肝心の何かがなんなのか僕にもまだ分からないけど、会わなくちゃと強く思わされたんだ」


シュトは並みの生き物というより自然の一部と化したように静止しその傍に小鳥が群れてさえずっている。

「その…何かが私になければ駄目だと判断して…?」

「そうだね、そいう言い方が正しいと思う。だから3、4年という数字は君と僕がきちんと話しあって『何か』を見つけるのに必要な数字だとしたら妥当じゃなかいかな」

どこか遠い目は、彼にしか見えていない景色が彼の中にあるのだろうか。


シュトはいつの間にか小鳥をじゃれあうように身をよじらせて花壇の向こうでくすぐったそうに笑っている。

先程、澄幸の案内で庭を一周したのだが、この西洋風の花壇とレンガを敷いた道は徐々にそれらの要素を薄めるように「洋」から「和」の庭に変わる。

敷かれたレンガが飛び石に変わり青い芝はみずみずしい苔に変わる。

はこびる草は園芸品種ではなく自然に生きづいた物に変わり、主役は枝ふりを考えられた松や、薄く広く奔放に刺繍のような細い枝に丸い葉をひろげた木々とその木陰に縁取られた池に変わる。


「特別な人しか普段は招かないんだよ」

と言いながら歩く彼の顔からは心からこの庭を愛でているのをうかがい知れた。

庭はある流れとでも呼ぶべきものに統べられながらも「洋」の庭とは明らかに違う秩序を感じさせた。


「私ならいいの?」

「無条件にという訳じゃないけど。君と歩きながら話すのも悪くない気がしただけ」

「いつもは一人でいることの方が多いんだ?」


彼はこくんと頷いた。


その背中は寂しいようには見えなかったが、なぜか「孤独」という言葉を連想させた。

それが彼が人を忌み嫌っているゆえの「孤独」なのか、純粋に孤高であり続けているゆえに付きまとう「孤独」なのかはまだ自分には判別つかなかった。

そもそもそれ以前に、彼が善なのか悪なのかも分からない。

しかしトリシアは嘘偽りなしに彼の話に耳を傾け傍にいてもいいと思いはじめている。


なぜ、私はここに来ることを予見されていたのだろう……。

なぜ、私は今ここにいるんだろう……。

さてさて

日本庭園と洋風の庭、どっちが彼の洋館にふさわしいか考えたのだけど、

どっちも良さそうで、決めかねた結果

二つとも採用するといういっそ暴挙と言っても過言ではない手段を選びました

ふふん、筆者の職権乱用だけどそれは私の自由だ!


では今回も読んでくださってありがとうございます!

次話も乞うご期待☆

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