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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
148/225

誘拐と誘拐犯の言い分


「そんなのドラゴンと何が違うって言うの?!」


「そう、まさにそこなんだ」

彼は身を乗り出して熱のこもった視線とともにトリシアを指差した。


「僕らは龍と名乗っているんだけど、その他大勢は龍がなんなのかまったく分かっていないにもかかわらず『龍』という言葉を使う」

やたらめったら使うもんじゃないと言いたげな物言いが含みを持たせている。

「まあ座りなよ」

「お言葉に甘えて」


座った椅子は木目を生かしたぬくもりのあるものだった。


「でも、なんだかここで全部話すのはもったいない気がするな。この先最低でも半年はいてくれる約束だったんだから、もう少し落ち着いてからそのことについて話がしたいな」

「私の要求聞いてくれるのよね」

「うん、いくらでも」


口を開こうとするトリシアを軽く手で制した。


「その前に、カタリーナ」


トリシアは思わず立ち上がった。その拍子で椅子が倒れてしまう。

「カタリーナ」


カタリーナは真っ青な顔でそれでも毅然として顔を上げて彼を見ていた。

「ルツカを返して」

見つめ返すことが出来ないほど苛烈なその目を彼は平然と受け止めてみせた。

「うん、たぶん扉の開いてる2階の部屋にいるよ」

瞬間彼女は身を翻して駆けた。




「ルツカ!」



部屋に飛び込んできたカタリーナをルツカは呆然と受け止めた。

夢じゃないかと疑うようにルツカがおずおずとカタリーナの背中に腕を回す。


「カタ、リーナ…?」

「ルツカぁ!」

嗚咽のせきを切って二人はその場に崩れるように膝をついて泣きながら抱き合った。


「トリシア、シュト、ごめんなさい。私はカタリーナを人質に取られたと思い込んで、…カタリーナとあなた達二人を天秤にかけてしまいました…」


どうしてもカタリーナの事が大切だったんです、とルツカは泣いた。


トリシアは「いいのよ」とは言えなかった。誘拐されてしまったのだから、簡単に「許す」などとは言えない。


「ルツカともカタリーナとも仲良くしていきたかったけども、こういうことになっちゃうと平和的な解決にも限界があるのは分かってくれる?」


はい、とかすかに声がした。罰を受ける覚悟を持った声だった。

トリシアは盛大に不快感を露わにしながら吐くように、ぶっきらぼうに言い捨てた。


「ルツカあなたはこの先カタリーナを何としてでも守り抜きなさい。私とシュトをそうしたようにこれからもそうするくらいの筋を通して」


ルツカはきょとんとトリシアを見つめた。それが罰になるというのか?

トリシアはカタリーナに向いて言う。


「カタリーナ、あなたは何としてでもルツカを幸せにしなさい。どんな手段でも構わないから」

「トリシア…」

「憐みだとか同情だとかで判断したわけじゃないから。それに、思ってるよりずっと大変だからね。幸せにするために四苦八苦して結局幸せになっちゃえばいいのよあんたたち」

「トーリーシーアー!」

「調子に乗らないの!誘拐した責任取らなかったら私は仕返ししに行ってやるから!カタリーナなんて夜な夜な枕を濡らして悩めばいいんだ!」


抱きついてまるで納豆のように払っても払ってもまとわりついて離れないカタリーナを邪険に突っぱねる。


傍から見れば温情措置としかみえないのだから質がいいのか悪いのか…。


その様子を遠巻きに見ていた彼がくすくすと笑う。

「彼女は誘拐中もずっとああだったの?」

「あんな感じでしたね、誘拐された実感がわくと言って目隠ししてたくらいですし」

基彦と彼が並ぶと頭一つ分以上背の丈が違う。

トリシアはカタリーナをあしらいながら彼の方に振り向いた。


「ねえ、カタリーナとルツカはちょくちょく出入りするの?ええっと…」

名前を言い淀んで、そこではじめて名前を聞いていないことに気付く。

「他の3人の名前はもう聞いたの?」

「うん」

そう言うと少し不機嫌そうに顔をしかめて3人を見渡す。


「僕がはじめに名乗りたかったのに、ずるいじゃないか」

「すまねぇ、親方」

基彦がへこっと頭を下げてもまだ彼の背の丈より頭が高い。

彼は決して小柄なわけではないのだが、基彦はいかんせん体格がよすぎる。

銀縁の眼鏡を仲指でくいっと直して切り替える。


「…改めまして、僕の名前は澄幸……スミユキという。気軽に呼んでくれて構わない。よろしく」

「トリシア・F・ルルー、あんまりお世話になりたくはないけどしばらくの間よろしくスミユキ」


トリシアが手を差し出すと意外そうに目を細めて澄幸もそれに応えた。

「本当に、君は面白い子だね」

「褒め言葉として受け取っておくわ、円滑な人間関係のために」


澄幸はそれでも嬉しそうに頷いて「じゃあ館を案内したい」とはしゃいだように握手を交わしたままの手を握って誘う。


「主、」

「珠姫は黙っててくれ。館を案内しながらトリシアの要求を吟味したい。その方が効率的だ」

「しかし主、今の状態では脅迫と紙一重ですよ」

手をつないだまま離さないでいることを諌めようとするが珠姫の言葉は澄幸の耳には届かない。

「トリシアは気が乗らないかい?そうだったら明日にでも明後日にでも伸ばすけど」

その延ばしようだと誘拐期間までも延び延びになりかねない。

トリシアは薬物対処の出来ない眩暈を感じながら「ううん」と首を振る。

「明日よりも今の方がありがたいかもしれない…」




澄幸はまず洋館の中ではなく外に連れ出した。

雑木林が向うで木陰を作っていて何かに隔たれているわけではないのに庭との境目がはっきり出来ていた。


一面の芝は青々しく、庭は色とりどりの花がたくさん植えられていて、見ている人を飽きさせない。

背の低い花、背の高い葉、蔓棚に絡みつくみどり、茂み、立ち止って見ていたいと思わせるこんな庭はきっと「いいお庭ですね」と誰からも言われるんだろう。

まるで愛でられるために咲いたような草花をいまは素直にきれいだと思えないのが心から残念だった。

手を引く澄幸は飛び石のように芝の間に敷かれたレンガを選んでスキップするような足取りで行くので、自然とトリシアの足取りも彼につられる。


「ねえ、スミユキ。乱暴は絶対にしないよね」

「そんなことするもんか」

「聞きたいことがあったら教えてくれるの?」

「君が正しく解釈してくれるなら出来る範囲でこたえるよ」

「襲撃を受けた時の怪我諸々の治療費は保障できる?」

「財源があまりないからあてにはしないでくれ」

「わかった。乱暴をしたりしないんならこっちもあなた方に怪我はさせない」

そんな淡々としたトリシアの要求と澄幸の受け答えは誘拐された人間と誘拐した人間の会話とは思えなくてシュトは首をかしげながらトリシアの後を追った。




ようかん、と打つと洋館ではなく羊羹(食べる方)が出てきて

ツボにはまった筆者ですが

洋館、洋館と連打していたので今は素直に「洋館」と出てくれるようになりました


ルツカとカタリーナを最初に出した時

かなり思わせぶりな事を書いていたような気がするけども

シュトとトリシアと同じような関係の2人を書いてみたいと思ったのは

覚えてます


今後もこの二人は出てくる予定なので

次話も乞うご期待☆

今回も読んでくださってありがとうございました!

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