誘拐とプリンセスの招待
さらに車でつづら折りの道を進むと行き先は山を越えた先ではなくこの山の上にあるのだという予想が出来た。
トリシアは基彦や暉臣や珠姫と気さくに話しているわけだけども、シュトはそれを快く思っていない。
カタリーナに至っては弱り切ってシートにもたれて黙っている。
道の両脇の木々の枝が重なってトンネルのようになっていた影が突然晴れた。
「到着いたしました」
車の扉が開かれてさっきよりも、ずっと慎重に地面に足をつける。
目の前には立派な、洋館が建っていた。
「ここ?」
「ええ、主の館でございます」
珠姫は「招く」といった男の事を親方ではなく主と呼ぶ。
躾の行き届いた育ちの良さがうかがい知れる。
「あのタマキ…」
「なんでしょう」
「ルツカはいるの?」
「まだ、ご滞在の予定ですが」
そこでホッと胸をなでおろしたトリシアを不思議そうに見た。
「なぜ、あなたが心配なさるのですか?」
「だって、シュトがルツカと同じようにされてたらって思うと生きた心地もしないと思うし、カタリーナの家族はルツカだけだから」
「少し、人が良すぎるのでは?」
「あなた、思ったことをそのまま言っちゃってトラブルにならない?」
「……ええ、まあ」
恥ずかしそうに視線を逸らしたのを見てトリシアは少し淡白な彼女の人間臭さを垣間見たきがしてトリシアは目を瞬いた。
何よ、全然悪い人たちに見えないじゃないのよ。
悪そうな人たちならばこの憤りや不安の矛先を向けられるのに。
ここで怖気ずいたように足が重くなった。いまさらだ。
「どうした?」
何も応えずにいると、意を汲んだように珠姫が手を取って優しくエスコートする。
「乱暴は致しません」
首をこくんと頷かせると珠姫はさらに柔らかく優しく接してくれた。
「洋風の建物ですが、靴を脱いでくださいね」
しばらく言われるままになっているトリシアとは反対にシュトは毅然と顔を上げて自分の事こなした。
吹き抜けになった玄関には大きな窓がついていて電気を使わずとも明るい。
その明るさが人柄を表しているようにも思われたが、そう考えるとなおのこと洋館の中に入ることを躊躇わせた。
「やはり、怖いですか」
やや悲しそうな声が後ろめたさをかきたてたが怖いものは怖い。
親方と呼ばれる謎の男も怖いが、心が彼らの存在を受け入れようとしている事が何より怖い。
「トリシアはシュトが守るから平気だよ」
小さな体で少し怒ったように腰に手を当てる、胸を張ったシュトはそう言い放ってトリシアの手をぐいぐい引っ張って子どもは洋館の中に足を踏み込んだ。
「だいたい、トリシアはゆーかいした人に頼っちゃだめだよ!シュトがいるんだからね!?そういうのってだめだよ!」
突然の毅然とした叱責に背筋が伸びる。
驚きに目を瞬かせて、その驚きを言葉であらわす暇も与えずシュトは肩を怒らせてトリシアの手を引いた。
「はい」か「うん」か分からないがトリシアを頷かせた有無を言わさぬ態度は妙に頼もしく、叱られている事がその時ばかりは励ましに聞こえた。
その様子を見て珠姫は口元に手を当てて微笑う。
「可愛らしいのに頼もしい御子だこと」
好き勝手に進んだのは良かったのだが、見た目も立派な洋館は中身もやっぱり立派だった。軽いダンジョン。
ほどなくしてすぐに珠姫を頼ることになる。
シュトはむっすりと顔を神妙にしかめて珠姫の背中に視線を固定する。
頼りになる自分をアピールするつもりだったのにこの立派すぎる洋館はとんだ伏兵だった。
珠姫は淡々とした足取りで複雑な洋館を案内する。
「応接間、との言伝だったのですが、日当たりが良いので第3応接間の方にいるでしょう」
空の応接間を横目に淡々と説明を聞くだにこの館は本当に迷宮なんじゃないのかと突っ込みたくなる。
第3って、第3ってどういうことよ。何部屋あるのよ。
日当たりと気分で選べる応接間があるってどういう事なのよ。
遠くで「親方あ!」という野太い声が上がったのでやはり珠姫の読み通り別の部屋にいたのだろう。
「モトヒコとテルオミ以外に人っているの?」
「基本は私たち3人しか出入りしておりませんが、組織の人間は他にもおりますよ」
「はあ…」
珠姫は静かに扉を開いて中へ招いた。
日当たりの良い部屋に足を踏み入れるとここでくつろぎたくなる気持ちが少しだけ分かった。
応接間というだけあってアンティーク家具で統一された部屋はなかなかうるさくない程度に豪華だった。
その奥、基彦と暉臣は手前に控えている。明らかに身分を意識しての立ち位置に身が引き締まった。
「親方、お連れいたしましたぜ。言いつけも守っております」
「馬鹿、親方になんて口の利き方するんだ」
そんな二人の会話に彼が微笑う。
「ご苦労、お前たち二人に任せるのはやや心配だったがよくやってくれた」
……ボイスオンリーのあの声だ。
どんな人物か、まったく見当がつかなかったがその声の主は穏やかな口調に相応しい顔立ちで、でもドラゴニスタ抵抗組織のトップに君臨する統括者とは思えない。
少なくともみだりに武力を使うような人には見えなかった。
「横やりが入るとどうしても武力交渉をしなくては太刀打ちできないからね。君を可能な限り穏便に招こうとすると手段が限られてしまってこんな形になってしまい申し訳ない」
穏和な顔立ち理知的な印象を与える銀縁の眼鏡、威圧感のない頬笑みは屈託のない幼さがある。
ゆるいシャツにベストとスラックスを着こなす30代くらいの青年。
洋館に相応しい躾と品と育ちの良さを感じる。
狼藉を働いた連中とはまったく結びつく要素がない。
そうして、心から嬉しそうに彼が頬笑い
「会えてうれしいよ、トリシア」
まるで、古くからの友人を迎え入れるような声音や仕草や空気に戸惑った。
自分も、同時に彼の存在を受け入れようとしていたからだ。
ずっと前から自分も彼を知っていたように、彼に親しみを感じる。
これはなんだ。
戸惑いを率直に述べる。
「親しくしていた記憶はないんだけど」
「そうだね、でも君が親しみを少しでも感じてくれているのなら無条件に嬉しいのだけど」
また少年のような笑顔を浮かべる。
「でね」
彼は興味深そうにこちらを覗い言葉を切る。
「君には僕たちのこと、どう見える?」
「どう、って」
トリシアは少し戸惑うそぶりを見せて部屋を見渡す。
彼の人柄がどう見えるといっているのか、この組織がどう見えると言っているのか、よく分からない。
彼は小気味よく「うん」と頷いてもう一度言葉を紡ぐ。
「具体的に言ってしまおう。トリシア、君には僕たちが人かそうでないものかどちらに見える?」
「えっ」
電流のように驚きが走り抜けた脳が今度はもっと注意深く彼を見つめて観察する。
そしてすばやく部屋を、3人を見る。
「…全然、わからなかった。本当に、人だと思ってた」
シュトが穏やかな口調で切り出した。そしてトリシアはやっとシュトが不愉快そうにしていた原因がわかった。
「おにいさんたちって、ドラゴンなんだよね。でも別物にみえるけど」
シュトはトリシアがみだりに敵側の、それもトリシアに乱暴をした連中のドラゴンと親しくするのが嫌で嫌でたまらない、我慢ならないほど強く。
「おちびさんはさすがドラゴンという感じかな。そう、僕たちは人じゃない……でもドラゴンでもない」
噛みつくように問い詰めた。未知の、人ならざるものが不安を、胸を焼くように掻き立てる。
「じゃあ、何だって言うのよ」
不敵に微笑む。
「僕たちは、人でもドラゴンでもない。…龍だ」
さてさて~
こつこつデータを記録していたUSBメモリーの中身が全部吹っ飛んじゃった
という限りなくハードでバイオレンスな危機を乗り越えながら
更新でーす
ええ、本当にもう駄目かと思いました
でも最新の記録はPCの方にきちんと残ってるから深刻な状況に
最悪の状況にはならなかったのが唯一の慰めですトホホ…
そんな感じで
今回も読んでくださってありがとうございます!
次話も乞うご期待☆




