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第8話


結局昨日、小野川に組織に入るか否かを聞かれた後、「まあ、いきなりこんなことを聞かれても困るだろ」と言われて一週間の猶予を貰った。


確かに、いきなりで俺も考える時間というものは欲しい。といっても、俺が”異能”を持ったことに変わりはないので、”アイギス”に入ろうが入らまいが小野川が監督者として、”アイギス”に俺の存在を登録することに変わりないそうだ。



「きりーつ」



 今後のことを考えていたらいつの間にか授業が終わっていたらしい。委員長の少しばかりやる気の足らない号令を聞いて、あわてて席を立った。気のない「礼」という号令とともに頭を下げると、そのままため息をついて席に座る。


 時計を見ると、昼休みを告げるチャイムが鳴るまで後数分。授業を僅かばかりだが早く切り上げて、教室から出ていく先生には感謝してもし足りない。


なぜなら、この後の食堂に出遅れたら、券売機の前に作られた行列に並ばなければならないからだ。更に、食券買った後のメニューを貰うまでの方がさらに長い。最悪は最速で昼飯を掻っ込んで、昼休み終了ギリギリといったところだろうか。


まじめに”異能”のことを考えていたが、こっちも胃袋的な意味でかなり重要だ。


既に教室を飛び出している者もいるが、やはりそれも余裕があるからか、いつもよりのんびりしている。俺も今日は比較的ゆっくりと食堂に行けそうである。全く持って先生様々だ。



「とっうやちゃ~ん、おっひるごっはん、いっきまっしょお~」



 食堂に行こうかと席を立った瞬間、怖気が全身に走るような気持ち悪声で相沢が腹を揺らしながらこっちに向かってきていた。



「帰れ」


「いきなりひどいっ!?」



 即答した。当り前だろうが、気色悪い。そしてそんな小型犬を思わせようとして失敗して死んだ魚の目で見つめられても気持ち悪いだけだっ!



「ねぇねぇ、神崎君」



 俺と相沢でギャーギャー言い合っていると、いつの間に近づいていたのか、宮野が制服の裾を引っ張っていた。



「え? ああ、なんだ、宮野?」



 なぜか信二が、俺が宮野に返事を返したあたりから動きが止まっている。そんなに俺が宮野と話すのが意外か!? おまえと違って朝の挨拶ぐらいは元々しとったわ!



「うん、お弁当作ってきたんだけど、一緒に食べない?」


「「「「「「「「「………………ハァッ!?」」」」」」」」」



 教室に残ってたやつら(当然俺も含めて)の声が重なった。



「おい神崎、いったいゴブヘェ!?」



 信二が何か言いかけていたが気にしない。ちょっと待ってくれ、とだけ宮野に言って背を向ける。当然、信二も引っ張っていく。



「おい、こりゃ一体どういうこと……ってどうした、信二?」


「て、てめぇがいきなり、襟つかんで引っ張りまわしたからだろうがぁ!?」


「まあ、それは置いておいて、だ」



 置いとくの!? と言われたが、俺にはそんな記憶はない! それよりもっと重要なことがあるだろうが!



「お弁当のお誘い受けるとか、これはいったいどうして、どういうことですか!?」


「俺が知るかよっ!?」



 ちっ、使えんやつだ。



「おい、神崎……お前いったいどうしてこうなった!?」

「どんな魔法を使いやがった!? 俺に教えてください!!」

「高校が始まって二週間も経たん内に落とすとか、想像もせんかったわ」

「まさか、あの眠り姫を落とすとは」

「なんだよ、その眠り姫って? え~と、おいお前、名前なんだっけ?」

「覚えてないのかよ!? まあいい、眠り姫ってのは今即興で考えた。授業中とか、良く寝てるみたいだからな」

「無難だな」

「ありきたり過ぎ、ワロタ」

「座布団没収だろ」

「オリジナリティに欠けるな」

「授業中見てるとか……きもいな、このストーカー」

「どこまで採点厳しいんだよ、お前ら!? あとストーカーちゃうわっ! 斜め後ろの席でよく見えんだよ!!」

「いつでもそうやって言い訳をする」

「お・ま・え・ら!?」



 いつの間にか残っていたクラスの男どもがまるで円陣を組むように小声で話し合っていた。お前ら、そんなに仲良かったか!?



「ででで、神崎君はこのことに心当たりはあるの?」



 俺が呆れていると、あー、名前は覚えてないけどこのクラスで一番元気(うるさいとも言う)な女子が真横から聞いてきた。というかいつの間に入ってきやがった!?


 まあ、心当たりはいろんな意味でありすぎる。一昨日のこととか昨日のこととか。しかしどうやっても恋愛には結びつかん。むしろ、親睦を深めようとかそういった目的の方がまだ理解できる。てかこれじゃね? いきなりで俺も気が動転してたけど、宮野ならこれくらいやってくれそうだ。偏見だけど。



「……昨日の帰りに、一緒になったな」


「それだけ?」



 他にもいろいろあったけど、んなこと言えるわけがない。



「何をしている、早く来い」


「了解しました」



 まさに有無を言わせぬ、といった雰囲気で小野川から召集がかかった。円陣の中から一人抜けて、宮野と小野川が待っている窓際最前列の席に向かう。



「いってらっしゃ~い」

「馬鹿な、小野川もだとぉっ!?」

「いや、小野川は元から宮野と仲良かったからそれじゃね?」

「馬鹿かお前!? 男1女2の対比からこの世の悪意が感じられるだよぉ!!」



 なんか後ろから聞こえてきたけど気のせいと思っておこう。



「いいのか、あれ」


「大丈夫だと思うよ? ……多分」



 小野川に肩を竦められた。いや、たしかにあの男ども(主に相沢と相沢の数少ない友人数人)が恨みのこもった視線、さらに「爆発しろ!」なんて物騒な言葉が聞こえてくるようで非常に鬱陶しい。放置の一択だな



「おまたせしました、って俺の席はどうするよ?」



 宮野の席に3つの弁当が置かれているのはいい。だが問題は席だ。


 宮野は2列目の席。そこに1列目の小野川が椅子を後ろに向けて座るのはいい。が、俺の席がない。何気に周囲の席は女子が他の子と食べるために持って行ってたりする。その視線に晒されていたりして居心地はとってもよろしくないが。


 ふと目に入ったのは宮野の斜め後ろの席。



「この席は確か、え~と……おいストーカー、この席かりるぞ!」


「す、すすすすストーカーちゃうわぁっ!?」



 おお、いっきにあいつをみる女子の目が変わったな。いや、すまない。お前の名前をまだ覚えていないんだ。


 了承を得たところで椅子を貰う。



「あ、でもあんた、元から女子の間でストーカー呼ばわりされてるよ?」

「うっそぉ!?」



なんか後ろで驚愕の新事実を告げられていたりする。まあとりあえず、強く生きろ。



「お待たせしました」



 俺も席に座る。ちょっと狭い感じもするが、これで宮野の席を三人で囲んでいる状態だ。


宮野に「どうぞ」と渡された弁当箱。二人の弁当比べると二回りほどでかい。まあ、宮野たちの弁当箱の大きさでは、足りないのは確かだ。


 それじゃあ、と言って蓋を開ける。



「おおっ」



弁当箱の半分以上を埋めるご飯、その上に生姜焼きと千切りキャベツ。他にもほうれん草の胡麻和えなどが入っている。


 どこか恥ずかしそうに、「昨日の残りものなんだけどね」と、色取り取りの色んなものが入った弁当を開けながら宮野が言った。



「いやいや、十分すごいよ」



そう言った小野川は、サンドイッチの弁当らしい。卵とハム、レタスなどが挟まれたサンドイッチが入っていた。


 いただきます、と言って割り箸を使ってメインの生姜焼きを取る。



「…………」



 いかん、生まれて初めての女の子が作ってくれた料理ということもあって、緊張で手が震える!


 宮野がどこか緊張した風にジッと俺の方を見てくる。確かに、作り手として反応は気になるんだろうが、見られてるこっちとしてはすんげぇ食べづらいです!


 ええい! 落ち着け、落ち着け俺よ! 味わって食おう、そうだ、一気に食ってはもったいない。


 宮野にも一層の力が入る。小野川がそんな俺らを見て笑いを堪えているが、いや、堪えてないな、小さく笑っていやがる。しかし、こっちに取ったらこれは重大な出来事なんだ!


 意を決して生姜焼きを口に運ぶ。



「…………」


「ど、どう?」


「ああ、すごく、おいしい」



 こ、これが手作り弁当という物か!! かみ締めるたびに旨味が……!!



「う、うれしいんですけど、なんで泣いてるんですか!?」



 俺自身も気付かぬうちに泣いていたらしい。



「仕方ないな」

「うん、仕方ない」

「男の子の夢だもんね」

「俺もいつか……!」

「いや、お前には一生ないだろ」

「ああ、ないな」

「夢は寝て見るものだよ?」

「お前らひでぇな、おいっ!? あと西原、『男の子の夢』ってお前さっき言ってたよな!? 黙って肩に手を乗っけてくるんじゃねぇ相沢! だからってそんな同類を見るようなキラキラした眼で見るんじゃねぇよ!?」



 あの元気娘、西原って名前だったのか。あと相沢よ、お前はそれでいいのか?



「ところで神崎君、昨日から体に変わったこととかなかったかな?」


「変わったこと?」



 小野川の質問に何事か? と手を止める。



「いやなに、今回君の出来事は特殊だからね。どんなことが起こるか分からないから、念の為にね。些細なことでいい」



 “異能”に関することの為か、声の少し小さくしていた。



「ああ、特にこれといってない気もするけど……挙げるなら、テンションが時々高くなったりするくらい?」



 昨日、家に帰ってからも、時々テンションが上がったりして、無性に動きたくなったりした。腕立てとか腹筋とかしたら戻ったけど。



「ああ、それなら”異能”を得たからだろう。力の解放からか、初めのうちはテンションが高くなったりすることは良くあったりするよ」



そこまで言うと、小野川は一拍置いて、あきれたような眼で宮野を見る。



「まあ、たまにそんなことないのもいるみたいだけどね」



 自分に向けられている言葉と知らずか、宮野はハテナマークを浮かべている。



「天然ここに極まり、か」


「私も、羨ましく思うよ」



 確かに、小野川も飄々としているようであるけど、結構気を使ってそうだもんな。



「ところで、今日の放課後は空いてるかい?」


「大丈夫、だけど。何すんの?」


「昨日も言ったけど、一週間の考える時間は”アイギス”に入って、私みたいに活動するかどうか。昨日は説明できなかったところもあるし、今日はそのことについての、いわば説明会かな。活動内容を詳しく知ってもらってから判断してもらおう、ということだよ」


「なるほど。それじゃあ、よろしく頼むよ」


「ああ、頼まれた。さて、堅い話をして悪かったね。今からは楽しく行こう」



 その後は、話も普段日ごろからどんなことをしているかやら、好きなものはなんやらだとか、普通の会話をしながらの昼飯になった。


 なんでも小野川が料理が苦手だとか、宮野の両親は海外出張中で祖父母と一緒に暮らしてるとか、楽しくもあり色々な収穫もあった昼休みになった。


 昼休み開幕食堂にダッシュしてたやつらが戻ってきて、俺と小野川と宮野が談笑している様子を見て愕然としていた様子は当分忘れそうになかった、と相沢が言っていた。


日常パートが難しすぎではありませんか?

訳:難産でした

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