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第6話

だんだん痛くなってきたぜい。

ご注意を。



――――なんでだ、どうして?



 後数秒もしないうちに、俺に当たっていただろう不可視の刃。しかし、それが俺に届くことはなかった。



「う、うぅぅぅぅぅぅっ……!!」



いきなり横から飛び出してきた宮野が、目の前で両腕を突き出し、障壁を張ってそれを止めていたからだ。


今もバチバチと音を立てているカマイタチと障壁の衝突の余波で、周囲の木々が激しく揺さぶられている。



「な、なんで……」


「み、見捨て、られなくって……気が付いたら、体が動いちゃってた」



 俺の小さな呟きが聞こえたらしく、余裕のない声で答えてくれた。



「ば、馬鹿じゃないのか!? 勝手に首突っ込んで、調子に乗って、挙句にこんなことになってるやつを助けるなんて……」



 言葉がどんどん小さくなっていく。


 そんな俺に何か言いたげな様子の宮野だったが、喋る余裕もなくなってきたのか、苦笑を浮かべるだけだった。


――――ピシッ


 不意にガラスに罅が入ったような音が聞こえた。不可視の刃に負け始めた障壁が、衝突部分から亀裂が入っていくのがわかった。



「くぅっ!」



 宮野が苦悶の声を上げる。両手を今まで以上に力を張って突き出すが、ピシピシッと音を立て障壁の亀裂が広がっていく。



「ま、まだっ……!!」


自分に言い聞かせるように呟く宮野だったが、震える腕、目をしかめて歯を食いしばっているその表情は、限界を迎えていることを物語っていた。


ほんっとに、情けないったらありゃしない……。女の子にただ守られて、愚痴を言ってるだけでよ!

 

全身が悲鳴を上げているけど、そんなことは知ったこっちゃない。


途中、今の俺に何が出来る? やめとけよ、などといった俺の弱い部分が語りかけてきた。でもだっ! 宮野があんなに頑張っているのに、俺が何もしないでどうする!



「ぬおぉぉぉぉぉぉっ!!」



 何ができるかは、そんと気になって思い付いてればいい!


 普段なら直ぐに起き上がるところを、何倍もの時間を掛けて起き上がる。



「宮野……!」



 気づけば、宮野は満身創痍で片膝を付いてなんとか持っている状態だった。駆け寄……りたいところだけど、それも出来ないほどに体が動かない。普段なら数歩でたどり着くまでの距離を、今は一歩一歩ゆっくりとだが進んでいく。



「か、神崎、くん、大丈夫だったの?」



 俺が起き上がったことに気付いた様で、宮野が何か安堵したような声を出した。



「おかげ、さまでな」



そっちこそどうだ? と聞きながら足を前に出す。



「うん……もう、持ちそうに、ないかも……」



途中、衝突の余波が障壁内にも伝わってきて転びそうになったが、後もう少し、と踏ん張る。



「あのね! 今なら……」



 その時、何かを決意したかのような宮野の声。



「今なら、間に合うから……抜け出して、ね?」



そう言いながら振り向いた宮野の顔は笑顔だった。しかし、どこか諦めたような笑顔だったが。


せめて俺だけでも逃がそうということか。全く――



「見くびられたもんだ」



そう呟いたところで、ようやく宮野の隣に着いた。



「ほら、しっかりしろ!」



 今にも崩れ落ちそうになっている宮野を支える。言葉が荒くなっているのは勘弁願いたい。



「か、神崎君!? どうしてっ……」



 最初と立場が入れ替わっているような状況に、思わず笑いが漏れだした。



「そんな泣きそうな顔をしてるやつを見捨てられるかっ、ての」


「えっ?」



 本人は気付いていなかったようだが、今の宮野はまさに涙が零れそうな寸前、といったところだ。死を覚悟したといっても、それが怖いことには変わりないはずだ。



「全く、女の子にこんな覚悟させといて、自分だけ逃げだすとか、できないわ。てか、そんな選択肢はないだろ」


「神崎君……」



 なんか呆けた顔をして見つめてくる。ええい、自分でも似合わんと思っとるわ!



「だいたい、そんなことをしたら自分が最低なヤローじゃないか。残りの長い人生を後悔して過ごすだなんていやなだけだよ、俺は」



 その事を聞いた宮野は、きょとんとした顔をすると、何故かクスクスと笑った。



「オーケーオーケー。これが終わった後、その笑いについて問いたいと思うのでよろしく」


「そうだね、また後で、だね。うん!」



 ちょっと元気を取り戻したらしい。俺にふらついていた体を預けるように寄りかかってくれる。その声にも、さっきまで力がなかった声に張りが出てきていた。



「まずは……目の前のこれをなんとかしようか!」


「うん……うん!」



 さっきまで広がっていた障壁の亀裂は、気付いた時には止まっていた。


 全く持って不思議なことだが、今ならあの最大出力の不可視の刃を止めることなんて簡単に思えてくる。


 宮野の突き出す手に、俺の右手を添える。



「気合い入れていくぞっ、宮野ぉ!」


「うん!」



 宮野からの気合いの入った返答を聞いて、激しい音と光を放つ障壁と不可視の刃の接触点を睨む。更にその向こうにいるだろう、俺らを嘲笑っているのが容易に想像できるあのひょろすけもだ!



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 俺と宮野の全力の叫び。障壁に、更に力強さが入った。


 そして衝突の光の強さが増し次の瞬間、何かが弾ける音と閃光が俺たちを襲った。





「っ、どうなった?」



 まだわずかに目がチカチカしていて、周囲の状態がよくわからない。最後の衝撃で宮野と一緒に吹っ飛ばされたところまでは覚えている。


なんとか唯一分かるのは、吹き飛ばされる直前に思わず抱きしめてしまった宮野がそばにいることぐらいだ。


それにしても――



「助かった……のか?」



 ようやく戻ってきた視界に入ってきたのは、半径数メートルほどが更地になった景色だった。



「って、宮野!?」



 さっきから俺にもたれ掛かっているだけで、動きがない。



「お、おい!」



 何回か声を掛けても、起きる様子がない。慌てて宮野の体を横にして、脈をとる。



「……ふぅ、脈はあるな」



 よかった。本当によかった。



「てことは、気絶か?」



 そのうち目を覚ますだろうか? いや、何か別の原因とかだとまずいかもしれない。そんなことまで考え始めていた時だった。



「大丈夫だろう。多分”力”を使いすぎて、君の予想通り気絶しただけだ」



 凛とした、聞き覚えのある声だ。文句の一つでも言ってやろうか、と声のするほうに振り返る。



「小野川! 今になっていったいなん……のっ!?」



 あとの言葉は、小野川の姿を見たら出るはずもなかった。



「ん? ああ、この状態のことか。なに、ちょっと失敗してしまってね」



 ははは、と自嘲気味に笑う小野川の姿は全身傷だらけで、制服もところどころ破けたりと、まさに満身創痍といった姿だった。



「なっ……どうしたんだよ、それ」


「なに、深い傷はないから、すぐ直るさ」



 口の端から流れる血を拭って、「それより」と小野川は続けた。



「奴は、どうなった?」


「奴? ああ、ひょろすけのことか」


「ひょろすけ? ああ、ひょろすけか。くっくっく……いや確かに、フフッ、その通りだな。そのひょろすけだよ」



 何がおかしいのか、いや、まあわからんでもないけど、つぼったらしい。今も笑いを堪えている小野川の姿は、普段からは想像できないものだった。いや、なんかここまで笑いをこらえる姿が似合わないというかなんというか。



「って、そうだ! あいつ、どこに行った!?」



 さっきも油断した結果があれだったのに、全く学習してないなっ、俺は!!


 探そうと起き上がろうとするが、いつの間に近寄っていたのか、小野川に肩を押さえられた。



「君もずいぶん消耗しているんだ。ここは私が行ってこよう」



 それは小野川も同じだろうが、と言おうとしたその瞬間、カマイタチが小野川目掛けて飛んできた。



「小野川!」


「ふんっ」



 完璧直撃コースだったそれを、手に炎を纏った小野川が弾いた。



「今の私でもこれくらいならできるほど、もうやつには力が残ってないんだろうね」



 ああ、それなら納得できる。さっきは最大威力っぽいのを使ってたわけだし、それくらい弱っていてもおかしくないかもしれない。俺の疑問に答えてくれるように言った小野川はカマイタチが飛んで来た方をにらんだ。



「なにっ!?」



 俺もそちらの方を見ると、少し離れたところにひょろすけがいた。あいつもあの時の衝撃で吹っ飛ばされたのか、あちこちに汚れや傷があるが、それよりひどいのはその顔だ。


 ただでさえひょろっとしていた感じだったのが、さらに肉が減り、まさに悪鬼といった表現がそのままぴったり当てはまるほどの憎しみがこもった眼をしていた。



「ぎ、ぎざまらぁ……」



 息も絶え絶えといった様子なのに、あいつがここまで動くのはなんでだ?



「もうやめておいたほうがいい。それ以上は、生死に関わるぞ?」


「知っだこどじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!」



 ひょろすけがまたカマイタチを飛ばそうと手刀を振り上げた時だった。



「――――がっ!?」



 振り下ろす瞬間の不自然な形で動きを止めた。



「な、なんだ?」


「……あまり、見ないことをお勧めするよ」



 なにを? と聞く暇もなく、ソレは起こった。



「が、ががががぁぁぁああ!?」



 突然、ひょろすけが奇声を発したかと思うと、その体がどんどんやせ細っていった。いや、それすらも生ぬるい。



「ぁぁぁぁぁぁ……」



 最後には完全に干からび、ぱたりと倒れた。



「な、なんだよ……これ……」



 ミイラとなったひょろすけを見る。



「”力”を使いすぎた結果だ」



 小野川も、辛そうな顔をしながらミイラとなったあいつの死体を見つめる。



「”力”を……」



 思い出すのは、体が急に動かなくなったときのこと。


 体から力がなくなっていったのがわかったし、ひょろすけは『ガス欠』と言っていた。つまりはあそこで無理をしていたら俺もああなっていたかもしれない、ということか。



「ウッ」



 そう考えていると、胃から逆流してくるものがあったが、それを押しとどめる。



「吐きたければ、吐いた方がいいぞ」


「ぐっ……これくらい、大丈夫だ」



 強がりだが、そんなことをわかっているのか、小野川は小さく笑いながらそうか、と呟いた。……笑ってんじゃねぇよ。



「さて、神崎君」



「なんだ?」



 小野川は大きく息をついた。



「今日も、色々と君に聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」



 小野川から、手が差し伸ばされた。



「おう、俺の方も聞きたいことが色々とあるんでよろしく頼む」



 その手を取ると、引っ張り起こしてもらった。


 起きた瞬間に、ふらついてこけかけたところを小野川に支えられて笑われたのは忘れたい。




HAHAHA

そのうち少し改稿するやもしれーぬ

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