第4話
うん、ようやく中二成分が入ってきたような気がする。
「もうやだ」
思わず呟いてしまったのは仕方ないことだと思いたい。
後ろに振り返ると、そこにいたのは昨日の不可視の刃を飛ばしてくるひょろすけ。心なしか、昨日より悲惨というか、すさまじい格好になっているのはどういうことなのか、聞いてみたいところだ。顔つきも若干ヤバめになってる。
「何の用だよ……」
言葉が荒くなるのは仕方ないだろう。
「てか、小野川たちは何やってんだ……」
また俺に襲いかかってくる可能性ってかなり低いんじゃなかったのかよ! いや、俺もそう思ってたんだけどさ。
「おい、お前。昨日の女ども、どこにいるんだ?」
「昨日の?」
どう考えても、小野川と宮野のことだろう。
なんだ、コイツはあの二人を探しているのか? いや、昨日のことを考えたら、こいつが探していても不思議じゃないけど。
「お前、あいつらと同じ学校だろ? 教えてくれたら、お前は見逃してもいいぞ?」
見逃すとは言っているが、こいつから出ている気配が全力でその言葉を否定しているように見える。ほら、今も手を動かしたそうピクピク動いてるし。
「いや、残念だけど、俺ってあの二人とは仲いいわけじゃないから、どこにいるかわからないんだけど……」
実際、これ以上関わるな、と言われてるわけだし、知っているはずがない。
「ああ?」
だが、こいつにはそんなこと関係ないらしい。
「だったら喋りたくなるようにしてやるよぉっ!!」
「やべっ!」
昨日と同じ、手刀を振りかぶる。
「おらぁっ!」
「うおっ!?」
今回は来るのがわかっていたから簡単に避けられた。見えないとはいえ、真正面にしか飛ばないみたいだし、効果範囲(手刀の軌跡から一直線)が狭いようなので、ステップをとるなり、しゃがむなりしたら思ったより簡単に避けられた。
「ちっ、避けんじゃなぇよ」
無茶苦茶言うな! てか当たったら真っ二つだから、目的の口を割らせることすら出来なくなることに気づいてないのか!?
「ふう、まあいっか」
そう、俺にだって、久賀美《あいつ》にやられたってのが気に食わないけど、俺にだってなぁ!
「俺にだって“異能”の力があるんだ!!」
「お前っ!?」
俺が“異能”の力を持っている発言に、ファイティングポーズをとった俺に、心底驚いた様子を見せるひょろすけ。まあ、当り前だろう、昨日は何もできなかった俺が、いきなり“異能”を持ったんだから。今日は、やられっぱなしにゃならない!
「さあ、昨日のおかえ、し……?」
「ああっ?」
「お、お返、し……」
「……あ?」
気まずい。この数瞬の空白の時間が、すんごい気まずい。
オマケにやばい、とにかくヤバい! “異能”って――
「どうやって使うんだよ……」
試しに小野川みたいに手から何かでないかと、試してみても、炎も何も出ない。宮野みたいに障壁か何かかと思っても、あの時みたいにそのような気配? 雰囲気すらも感じ取ることはできない。
ならば治癒か? といっても怪我したところはないから試しようはない。ああ、刺された首のところ……は既に痛みも何もない。
「……おい」
目の前のひょろすけからすごいオーラというか、もう完全に殺気があふれ出てる。
脂汗がだらだらと流れているのがわかる。うん、ホントにこれ、どうしよう。
戦う。いや、昨日はそれで逃げてたわけだし。
どうしよう、逃げても昨日の焼きまわしになるだけだ。
頭の隅で、相沢がカードを五枚出してきたけど、その書かれある内容は!?
『あきらめる』
『南無三!!』
『大人しく家に帰る』
『警察へレッツラ・ゴー!』
『うっほほーい!』
とりあえず、頭の中でだが殴っておいた。
意識を現実逃避から目の前に戻すと、そこには修羅のような形相で、こちらをにらんでくるひょろすけ。
「俺を馬鹿にしてんのか?」
はい、なんて馬鹿正直に答えられる雰囲気ではない。まあ、答えようが答えまいが、結論が変わるようなことはないと思うが。
俺ができることといえば一つ。
背を向けるとすぐそこにあった路地に入り込んで、全力でダッシュするだけだ!
逃げるが勝ちよっ!!
「馬鹿がっ、逃がすかよっ!」
予想通り、追いかけてきたらしい。
そして奴が振りかぶろうとしている頃には、俺は既に別の通りに出るところだ。
「クソッ」
後ろで奴が舌打ちしているのが聞こえた。
またこの展開かよ! と思わないでもない。しかし、残念ながら俺に残された手は逃げの一手しかない。
脳裏に、愉快そうな顔で俺を嘲笑っている久賀美がよぎった。
「あんのクソヤロォォォォォォォ!!」
第二回、鬼ごっこの開始だ。
周囲を確認。あいつも見当たらない。しかし、あいつは絶対近くにいるだろう。なぜか巻いたと思ったらすぐに追いついてきやがったし。
「ふぅ」
風が熱くなっていた体を冷やしてくれて気持ちいい。その風に揺られてザァザァと木の葉っぱとかがこすれる音がする。今俺は、公園にある木々の中に隠れているところだ。といっても座って一本の木に背を預けている状態だけど。
一息ついたところで、声に出して再確認する。
「うん、おかしいよな」
そう、おかしいのだ。
「俺って、あんなテンション高かったっけ?」
いや、高い時は高いけど、さっきのような状態であそこまでテンションが高いのは考えられない。それに、なぜか体が暖かくなってくる。いや、熱くなってくるくらいだ。
「く、くふふっ」
今も込みあがってくる原因不明の笑いを堪えて、変な笑い方になっているくらいだし。と、いかんいかん。
「ふはぁ~~」
大きく息を吐くと、少しばかりだが落ち着いた。
あのテンションの高さを考えれば、久賀美に刺されたあれが原因ってところか?
今も続く昂りというのかなんというのか、これは気持ち悪い。
それに、
「なにが“異能”だよ、全然使えねぇじゃんか」
そう、結局“異能”とやらを使うこともできずに、逃げ回っていただけだった。 その結果が、今こうして公園の中で隠れている、というより休んでいるわけだが。
「まんま、昨日と同じこと繰り返しているだけじゃんかよ」
溜息をつくのは仕方ないだろう。せっかく対抗できる、と思ったのにあのざまだし。あんな奴のすることに期待した俺が馬鹿だったってことだ。
「てか、それにしても状況が良くないな」
あのひょろすけがまた出てきたこと自体びっくりドッキリなのだ。小野川の見立てだと、数日は無理できないって言ってたはずだし。それに、昨日あいつが逃げる前の様子だと、相当疲弊していたのは俺も見てる。それこそ当分は無理できなさそうなほどにだ。
「よぉ、出てきて楽にならねぇか?」
そんなことを考えていた時に、またあいつの声。昨日も聞いたようなセリフに溜息がでた。結果、また追い詰められた、ってことだけどさ。違いといえば、今回は逃走経路がいっぱいあるってところだ。
「そうだ、今出てきて、あいつらのこと教えれば、何もしないぜぇ」
いやいや、そんなこと言っても、絶対何かする気満々のオーラかなにかが、言葉と一緒に出てますから! 昨日と一緒ですよ! 絶対にお断りだよ!
「そうか、ならし方ねぇな」
「はっ……?」
あまりにも自信満々の声。
それは背を預けている木の向こう側から聞こえてきていた。それもこっちに向かって。
「じゃ、あばよっ!!」
昨日と同じ、何かが飛んでくる音を聞いて、俺はさっきまで背を預けていた木から飛び退いた。
――――ザンッ!
何かを切り裂いたような音に、さっきの木を振り返る。
「んなっ!?」
最初は何もなかったが、次の瞬間木が、俺の頭があった位置からずれ始める。木の幹がズズズッとずれていくと、その木の上半分が、大きな音を立てて倒れた。更に不可視の刃の進行方向にあった数本の木が、同じように切られている。
「ハハハ……アハハハハハハッ!」
立ち上がることも忘れてそれを眺めていたら、ひょろすけがいきなり高笑いをし始めた。
「うっわ……」
おかげで今までテンションが高かったことが嘘のように、引いていくのが自分でもよくわかる。
「そぉら! 死ねよぉっ!!」
そしていきなりあの不可視の刃を飛ばす体勢に入って、後は振り下ろすだけとなった。
「やばっ!」
急いで起き上がって避けようとしても、間に合うかどうか……いや、間に合わないか!?
宮野を庇った時と違い、今回のはヤツが全力で放ったものだ。当たったら間違いなく真っ二つになるのは、さっきの木が証明してくれている。
数瞬後の自分を想像し、血の気が引いていく。
諦めるのか?
そんな問いかけるかのような機械的な声が、脳裏に聞こえた気がした。
諦めるのか?
んなもん決まってるだろっ……
諦めるのか?
だからっ、そんなのっ、決まってるだろうがぁ!!
「うおらぁ!」
ヤツが横薙ぎに腕を振り下ろした。
迫ってくる不可視の刃。
「諦めるなんて……嫌に、嫌に決まってんだろぉぉぉぉぉぉ!!」
気持ちに答えるように、俺の身体は全力で動き、気づいた時には――
「お、おおっ!」
さっきまでいた公園の上空にいた。
最新話だが、こんなので大丈夫か?
大丈夫だ、問題ない。
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