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第1話



入学してから一週間目、俺――神崎統夜は森丘高校の校舎裏を掃除していた。



「なんで放課後掃除しないといけないのかねぇ」



 一緒に掃除をしている、伸ばし気味の髪にメガネをかけた、丸顔のちょっと脂肪が気になる体型をした学生――相沢信二の突然の呟きに、実家でも掃除やらされてたなぁ、と思いながらせっせと掃いていた箒の動きを止めて、俺は「はあ?」と聞き返した。



「いや、掃除が面倒だな、と」


「当番だからしゃーないって。もう少しなんだから、面倒ならさっさと終わらせろ、アホウ」



 そう呆れ気味に言って掃除に戻る。入学式の翌日に行われた席替えで、見事隣の席になった信二とは、良く会話するようになっている。



「扱いが雑でねえですか?」


「良かったな、俺の中でのお前への評価が分かったじゃないか」



 勿論、信二に対する今の評価(・・・・)は『アホ』である。初日はちょっと控えめなヤツ。二日目にあれ? ちょっと図々しいかな? とどんどん評価を塗り替えていった結果、最終的に『変人』であるという結論に至った。まあ、今の方が喋りやすいと言えば喋りやすいから、コイツとも付き合っているのだろう。これからどうなるか知らんが。



「おーおー、ひでぇひでぇ」



 それに対して、信二は自嘲気味の笑みを浮かべている。



「最低でも誤魔化す程度にやっとけよ」


「ほーい」



 いまいち信用ならない気の抜けた返事に、「神埼さんはまじめですねぇ」と呟きやいたうえ、動きも、だるいです! と自己主張している。



「ところでさ、統夜さんよ」


「ん?」


「話を変えるが小野川のこと、どう思うよ?」


「小野川、なあ」



 いきなりそう言われて思い浮かべるのは、肩甲骨辺りまで伸びた黒い髪に、整った顔立ち。そして気さくな性格で早くもクラスに馴染んできている少女――小野川悠。


俺も小野川とは既に何度か話していて、少なくとも悪い感じはしなかった。むしろ話し易くて、良い感じだ。なにか切欠があったらお近づきになりたいほどである。



「いいんじゃないか?」



 後、特徴的なところを言えば転校してきた当初から、小柄だが出ているところは出て、ほんわかした雰囲気を持つクラスメイト――宮野小春と仲が良いということぐらいだろうか。



「お前もそう思うか……」



 何気なく答えたが、どうやらそれは相方が満足する答えではなかったらしい。かといって答えが悪いというわけではなさそうだけど。



「なんだ?」


「おかしいと思わないか?」


「はあ?」



 流石に意味が分からなかった。改めて思い返してみても、少々、といよりかなり男女分け隔てなく接することが出来る小野川は、ただ単にすごいと思っているぐらいだ。



「なぜ俺に対してふ! つ! う! に接するんだっ!?」



 普通の所に必要以上の力が入っていた所はスルーして、信二(アホ)の言葉に「確かに……」と思わず頷いてしまう。


 慎二は平均より若干下回る身長に小太りした体型、性格も明るい方ではなく、趣味もゲームやアニメといった二次元的なもので、ファッションなどには疎く、自分から話し掛けていく事も少ない。


そんな慎二は、一部のクラスメイトからはあまり良い印象を持たれていない。趣味の合う者も数人いるようで少しは話をすることもあるようだが、一番会話しているのは、入学初日以来、隣の席にいる俺だろう。何せまだ入学から一週間目。俺や信二みたいなのもいくつかいるが、皆クラスメイトとの距離を測っているところだ。


 それなのに小野川は、特に気にした様子もなくあっさりとコイツに話しかけてきたという。



「あ・り・え・な・い」


「いや、うん。まあ確かにそうかもしれんが」



 斯く言う俺も、そうそう女子に話しかけられることなんて機会はない。


中学時代、少し格好良いと評判の友達が、自分から話しかけていけばいいじゃん、と抜かしたことがあるのだが、「そう簡単にいかん男もいることを思い知れ!」と全国各地に散らばる同士達の代表として殴っておいたぐらい、そんな機会に恵まれたことはない。



「期待を、期待しちまうじゃねぇか! 分かるか!? 中学卒業式が終わった後、クラスメイトの女の子から呼び出されてよぉ、そらぁドキドキしたさ。今まで異性と触れ合うことがなかった十五年だったからさぁ」


「やめろ、それ以上言うな」


「それでよ、告白されたんだけどさぁ、影から何人かの女子がこっちを笑いながら見てんのよぉ」


「お前っ……」


「それで気付いたわけよ。ああ、罰ゲームかなんかだったんだな、って」



 信二のあまりもの体験に、言葉も出なかった。



「良く見てみるとさ、俺を誘ってきた女の子も、すんごい嫌々やってるのに気がついてよ。俺は笑顔で『無理しなくていい』って言って、そのままその場から逃げ出したのさ」



 うぅ、と泣き始めた信二の肩を叩くことしか、俺には出来なかった。



「そんな経験をした俺でも、期待しちまいそうになるちまったんだよぉっ!!」



 思わずこの世の不条理に叫びそうになったが、グッと堪えて信二に諭すように言う。



「厳しいかもしれんが、もっと希望を持ったらどうだ? 心の持ちようでだいぶ変わるもんかもしれんし」


「お前もそこそこいいからそんな事言えんデスヨ」



 え、そうか? むしろ卒業式の時に、ちょっと雰囲気が怖くて話し掛け辛かったと言われてちょっと泣きそうになった俺だぞ。春休みに全力で調整して、ようやく(男友達に)マシになったと言われたが。


その他友人曰く、短めの黒髪、身長も日本男子の平均値を抜くようなこともない立派な日本男児で、ちょっと怖いくらいの顔もまあ悪くない。強いて上げるなら、小学生の頃から爺さんの下で、ちょっとばかし鍛えてもらっていたことから、いい体付きはしていると評価を貰えたぐらいか。

 

その事を言ったら「チクショーッ!」と信二に叫ばれた。なんか色々すまんとは思うが、うるさい。



「俺の事は置いといて。とりあえず、小野川はそんな感じの人じゃ――」


「あるわけないじゃないですか……こんな暗くてキモオタと囁かれていた俺をさ」



 俺の言葉を遮った信二の目は虚ろで、あはは……と口から呪詛のようなモノを吐き出すその姿は、酷い有様だった。



「仕方ないのかもしれないけど、もうちょっと前向きに考えたらどうだ?」



 あまりもの体験の末、悲観的に考える信二に、思わず憐憫の眼差しで見てしまう。



「うおおぉぉぉ! そんな目で見んじゃねぇぇぇ! だめっ、見ないれぇぇぇぇウゴファッ!?」



 あまりもの叫びに、思わずは気づけばレバーに深く抉るような一撃を入れていた俺は悪くないと思うんだ、うん。もし他に誰かここにいても、更に鉄拳が追加されていただけだろう。もしくハイキックか。


この時、こんなヤツが高校最初の友達で良かったのかどうか、と悩んだことは秘密である。別にばれても問題はないけど。



「母ちゃん……最近相方の愛情表現がきついと思うんだ」



 空に母の姿を見たのだろう、信二は見上げてそんなことを呟いた。その直後に「カアチャァァァァァァァンッ!?」と叫んでいたことから、バッサリと切り捨てられたのだろう。


この扱いやすさと、付き合い始めて四日目で少々の打撃なら平気な再生力と耐久性を実感させられている俺としては、内向的な性格を少しでも何とかできたら、もっと回りに人が集まるのではないかと思わなくもなかった。ちょっとしつこいところを我慢でき、話についていける人なら尚良しである。だが、そんな状態のコイツは、コイツじゃない気がするからこのままでいいような気もする。

 

少し遅れて、「誰が相方だ」という冷ややかなッコミを統夜が入れると、ゲフンゲフンと咳払いして、信二は「そういえばさ」と口を開いた。



「最近この辺も物騒になってきたよなぁ」


「ああ……この前、この辺で放火事件だったか」



 確か、どこかの公園であったらしい。小火で済んだらしいって誰か言ってたな。犯人は高校生だとか色々と噂になっているらしい。



「おう。んで、ホームルームでも言われたけど、昨日の夜に隣町で斬殺事件があったとかなんとか」


「夜間の外出控えるよう言われてたな」


「世も末、って感じだよなぁ」



 そういえば爺さんも言ってたっけ。昔と比べて物騒な事件が多くなってきた、とか。

 信二の言葉に「いや全くだ」と俺は同意して返した。





 夕日が地平線の彼方へと沈んでいく光景を、目を細めて見る。何となくだけど夕焼けは結構綺麗で好きだったりする。



「カラスが鳴くから帰りましょ~、てか」



 夕日を背に飛んでいるカラスを見て、懐かしい歌を思い出しながら、肩に掛けた学生カバンを掛け直すと、のんびりとした様子で徐々に人気が少なくなってきた道を歩き出す。



「う~ん、アパートまで少し遠いのが難だな」



 森丘高校に進学する際、田舎にあった実家からでは通うのに不便と言うことで、祖父の紹介で学校まで歩くのに三十分掛かる安アパートを借りているのだ。


まさか学校近くにある学生寮が、調べた時には全て埋まっているのは予想外だった。最後に信二のバカヤロウで埋まったのだとか。まあ、今住んでいるアパートが、寮とほぼ変わらなない値段だったの幸いだった。


もっとも、曰く付きやらなんやらと大家が言っていたことを思い出すが、今のところ変な出来事に遭遇したこともない。時々、屋根裏を何かが走っているような音とかが聞こえてきたりすることもあるが、どうせネズミとかそんな落ちだ。きっとそうだ、気にするまでもない。実家でもよくあったことだ。



「そんなことよりも、晩飯だな」



 その安アパート、朝昼晩(言えば学校の時などは弁当まで作ってくれる)の食事を出してくれるのだ。それもなかなかに美味しいときた。こればっかりは爺さんに感謝感激、雨あられである。


 今日の献立はなにかと、見た目は普通に、心の中ではスキップな気分でいたときだ。



「よぉ」



――――ゾクッ


 その声が掛けられた瞬間、固まってしまった。


 後ろからかけられた声と共に感じたのは、ドロドロした感じの、そう、狂気だ。



「な、何の用かな?」



 本能がガンガンとなにかを訴えかけてくるが、それを押さえて、なるべく穏便に、振り向きながらにこやかな顔を作って声を絞り出す。



「いや、ちょっとな――」



 言い終えるが早く、振り返るのを中止! にこやかな顔もなしで走り出す。ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!



「殺されてくれねぇかなぁ!!」



 背後から、ナニかが迫ってくる音が聞こえた。





 あれから十分ほど走ったぐらいだろうか。


 その間、運が悪いのか、他の誰とも遭遇することがなかった。


 既に日は沈み、外灯がポツリポツリと立っている薄暗闇の中を、あの狂人はまだ追ってくる。ふざけんなふざけんなふざけんな! 俺がなにかしたのかよっ!


 最初の一撃で、肩から提げていたカバンの肩掛けが切り裂かれて、カバンを道端に放り捨ててきた。


 相手はどうやら、走るのには慣れていないらしく、時折飛んでくる不可視の斬撃を回避して動きを止めているのに、何とか追い縋っているようだ。



「ハァ、ハァ、クソがぁっ!」



それを言いたいのはこっちだっての!

 

今どこら辺を走っているか分からなくなってきていた。目印になりそうなのは、目の前に見える人気のないショッピングモールぐらいだ。てか回りには民家とかも無い。



「ええい、儘よっ!」



 このままでは巻くことも出来ないと、真っ暗なショッピングモールの中に飛び込んだ。


 直ぐに角を曲がり、建物を利用しながらあの狂人から逃げ続ける。


 時折飛んでくる不可視のナニかを、音を頼りに運任せにが回避していく。外れたナニかは建物に人間大の大きさの抉ったような一直線の傷を入れた。透明な刃かなにかか? まるで爺さんに昔話で聞いたカマイタチみたいだな! ……ありえんはずだけど。


それにしても、初撃がカバンの肩掛けだけですんでよかった。俺に直撃していたら一撃で真っ二つ、死んでいるはずだ。掠っても場所によっては出血多量で動けなくなっているだろうし。そう考えると血の気が引いてきた。


当たったら勿論アウト。掠ってもアウト。思考を止めてもアウト。反撃の手段、ないこともない、ってかそこらへんに落ちている石を投げつけるぐらいだけど、足を止めないといけないから失敗したら次はない。ははっ、なんて無理ゲーだよ。


救いなのは、こんな状況下でも冷静に働いてくれる頭に、毎日走ったりしていたおかげの体力だ。今は逃げの一手しかないがなっ!

 

後ろからなにか「ボケガァ!」みたいなこと叫んでいるが、俺にそんなもんを気にしている余裕はない。ないったらない。


 直後にあの不可視の刃……もうカマイタチでいいな。カマイタチを、いくつかの建物の壁やオブジェのような建造物の尊い犠牲により何とか生き残っているが、これもいつまで続くか分からない。ただ、走り続けるしか出来ることがない。



「げっ」



 角を曲がったところで目の前に広がったのは、人気があったときは様々な人が行き交っていたんだろう、このショッピングモールのパティオ(中庭)に出てしまった。


 まっずい! 盾になるような障害物がねぇ!!


 後ろからは狂人(アイツ)の足音。戻ることも出来ない。



「チクショウがっ!!」



爛々と輝く満月が見下ろす中、不景気により全ての店が撤退した廃墟同然のショッピングモールのパティオ(中庭)を、俺は走り抜けるしかなかった。



「どこまで逃げれるかなぁ? うおらぁっ!」



 これで何度目になるか分からない背後から空気を切り裂き、迫ってくるのを感じ取って横に飛び退いた。直後、ザンッという音と共に、カマイタチが真横を通り抜ける。あっぶねえ!? 当たっていたらと思うと、冷や汗が流れた。



「ちっ」



 そろそろ俺の命を懸けた鬼ごっこに飽きてきたってことか、背後から舌打ちが聞こえる。舌打ちしたいのはこっちだっての!



「もうそろそろ終わりにしねぇかぁ!?」



 ふざけるな! と叫びたいところを堪えて、ただ走る。


 救いなのは、相手も走りながらでは、あのカマイタチの狙いが甘いことだ。そうでなかったら今頃俺は、三枚下ろしどころか、八枚ぐらいに下ろされているはずだ。



 しかし、このまま逃げ続けてもジリ貧であることにかわりない。


こけないように気をつけ、若干走る速度を落として顔を動かし、後ろの追いかけてきている相手の様子を伺う。


 不健康そうなひょろりとした体型に、手入れが疎かにされているらしい、ボサボサの髪をした、隣町の高校の制服を着た少年――もうひょろすけでいいだろ。ひょろすけは大きな隈があるぎょろりとした目で、射殺さんとばかりの視線を向けてくる。その顔は、圧倒的な強者の立場がそうさせているのか、歪な笑顔をしている。うん、悪趣味だな。


 そう心の中で悪態吐いたのが悪かったのか、ひょろすけが右手手刀を大きく振りかぶる動作を見せる。



「やばっ!」



 そうして勢い良く斜めに振り下ろされた手刀の軌跡から真っ直ぐに、進行上のものを切り裂く、カマイタチが飛ばされた。


 先ほどは垂直に飛ばされたカマイタチだったから、左右に避ければ簡単に回避できたのだが、斜めに振り下ろされた今度はそうもいかない。目の端に捉えていた建物の影にダイブする。



「っと」



 前回り受身により、地面との激突を見事に回避。こんな時だけど、自分を褒めてやりたい。


後方で不可視の刃が建物を切り裂いた音を確認。ひょろすけが追いかけてくる前に、そのまま足を止めることなく走り出した。





「全く、今日は厄日か?」



 今現在、俺がいるのは、あのひょろすけ(バカ)がの攻撃で入り口を破壊された建物の中、いくつかのベンチがある広場の、二階まで突き抜けている四メートルほどある時計塔の裏に隠れている。本来なら店舗内に逃げかみたかったんだけど、シャッターが下ろされていたから文句を言っても仕方ない。


 疲れた身体に催促されて座り込み、冷えた壁に背を預けると、先ほどまで熱を放っていた身体がの温度が下がり、息をついてしまう。



「つっ」



張り詰めていたものが緩んだ成果、突如感じた頬からの痛みに手をやると、血が出ていた。


いつの間に、と手で拭うが、それは頬に血の跡を広げるだけで、また新たな血が滲み出してくる。幸いなのは、傷口が浅いことだろう、数日もすれば直るような傷だ。



「だけど、問題はアイツだよなぁ」


「そろそろ出てきて、かくれんぼは終わりにしようぜぇ~。なぁ?」



 僅かにだが苛立ちを含んだ、広場の前に陣取っているひょろすけの声が聞こえてくる。


殺す気満々のやつの前に、素直に出て行くわけないでしょうが。馬鹿か、アイツは? いや、馬鹿だな。

 

ひょろすけは馬鹿である。という結論を出したところで現状は変わらない。問題は、この時計塔裏から動こうとすれば、ひょろすけに見つかることだ。ひょろすけが追って来た時、咄嗟に隠れたのだが、このままでは遅いか早いかの差だろう。いずれ見つかることを考えれば、詰み状態だ。



「あ~、大人しくする気はないかな?」



 これからどうしようか、と悩んでいたところ、少し低めの、どこかで聞いた事のある少女の声が建物内に響いた。

 

一体誰が、と時計塔の隙間から伺い見ても、隙間が狭く、影に隠れていて見ることが出来ない。 



「ああ!?」



 馬鹿みたいな荒れた声をひょろすけが上げた。カルシウム不足だろ。



「出来ればこっちの指示に従って欲しいんだけど、どうだい?」


「ふざけんじゃねぇぞっ!!」



 説得する気もなさそうな言葉にひょろすけが激昂する。



「も、もうやめてくださいっ!」



 ここで少女の後ろから、もう一人の本気で止めようとしていることが分かる少女の声が上がった。


って、あれ? この声、聞いたこと……っ!?

 

この声の主に思い当たる人がいた。

 

いや、だけど、その人にこんな現場は似合わないと思うが、答えあわせをするかのように窓から入ってきた月明かりが、二人の少女の顔を照らした。


あれは、小野川さんに……宮野さんかっ!?

 

月明かりに照らされた二人の少女は、俺のクラスメイトだった。






思い返しても理不尽な出来事に怒りと反面、夢と思いたい気持ちも出てくる。が、現実は相変わらず、見上げる俺目掛けて、時計塔の上部が巨大な質量を持って落ちてくる。これが本当に夢だったらな、と思いたい。


だけど目の前に迫るのは明らかに現実。そして俺は――



「まだ死にたくねぇっ!!」



 全力でその場から飛びのく。



「えっ!?」



直後に、真後ろから時計塔の上部が落ちたであろう、大きな音が聞こえた。同時に宮野と目がばっちりあって驚かれていたが、砂埃が舞い上がって視界が塞がれた。



「ぐぅっ」



 視界が悪かったのもあるけど、無茶な飛び方をしたからか、着地時に身体を強く打ちつけてしまった。幸い、軽い打撲程度で済みそうだけど。



「こほっこほっ、か、神崎君、大丈夫っ!?」



 さっき俺が呻いたせいか、心配しているらしい宮野の影が、小走りで視界の悪い中近寄ってきた。



「小春っ、気をつけろっ!」


「えっ」



 離れたところから焦った様子の小野川の声。一体なにに――



「そこかぁっ!!」


「小春っ!」



 少年の声と共に何度も聞いたアレが飛んでくる音。声で宮野の位置が割れたのか。それに小野川の焦った声。やばいってことかよ!



「ええい、チクショウ!」



 考えるより先に身体が動いた。



「きゃぁっ」



 俺の叫び声に驚いたのか、またはいきなり起き上がって迫っている俺に驚いたのか(たぶん両方だろうけど)、目を大きく見開いた宮野を悪いと思いながら押し倒した。



「がぁっ!?」



 背中に今まで感じたことない衝撃。悪いと思いながら、押し倒した宮野に覆いかぶさるように倒れる。



「神崎君っ!?」



 背中が焼けるように痛くて意識が飛びかけている中、宮野の身体やわらかいなぁなどと不謹慎なことを思いつつ、ブラックアウトした。





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