第12話
「おい」
まどろみの中、小野川の声が頭の中に響いてきた。
「う、んあ? 起きてますよ、大丈夫ですよ?」
休憩タイムでいつの間にか寝てしまったようだ。ベンチに座ったままだったからか、ちょっと節々が痛い。
伸びをするとボキボキと骨が鳴った。お~、お天道様が結構傾いて、3時くらい? って、結構寝てたんじゃねーか! おかげで体の調子はそこそこいいけどさ。
「寝ぼけている場合じゃないぞ?」
「え?」
俺の寝ぼけた言葉に反して、小野川の声には緊張が含まれていた。
「っ、なんかあったのか?」
無理やり頭を起こして周囲を見る。
小野川の視線は神社の入り口、鳥居の方に向けられている。
「ん?」
寝起きでちょっと見辛かったが、鳥居の下に居たのは小学生高学年あたりの二人の子供。
一人はなんかかわいいらしいといえばいいのか? 白を基調にフリフリしたものがついてる服を着ており、クマのぬいぐるみを胸に抱える女の子。
もう一人は黒を基調とした男の子っぽい服の……男の子でいいのかな、あれは? 黒いスティックみたいな物を持っている。
「双子、か?」
顔もよくよく見てみるとすんごい似ている。
そんな双子がこっちを見て笑顔でいるのだから、すごい不気味だ。
「小野川?」
「油断はしない方がいいだろうね」
「了解」
小声でそんなやり取りをしていると、男の子? の方が話しかけてきた。
「あなたたちが、異能者?」
「だったら、なにかな?」
異能のフレーズだけでこっち側の人間と判断したんだろう。小野川は立ち上がってすぐにでも動けるようにしている。
まあ、あれだけ敵意を飛ばしてきてたらね。やる気満々ってのがよく伝わってきた。俺も対処できるようにと立ち上がる。
それにしても、またやりずらそうな相手だことで。年下を相手にするのはやっぱり嫌だな。
「だった、ちょっと遊ぼうよ!!」
男の子が、振り上げたスティックを振り下ろす。
「っ!?」
それに反応して小野川は直ぐに飛びのいたが、俺は一瞬判断が遅れてしまった。
「っ! ぐおぁっ!?」
そしたら次の瞬間、俺は吹き飛ばされた。
目まぐるしく変わる景色。
そしてドスンッと重い音を立てて地面に叩きつけられた。
「神埼!?」
「大丈夫、頑丈は取り柄になりそうでさ」
異能の発動が間に合ってよかった。飛ばされはしたけど、ダメージらしいダメージはない。
「そっちのお兄さん、頑丈だね」
そう言って俺の方にスティックをフルスィングで玉を飛ばしてきた。腕と足に力を込めて跳ね起きたついでに飛んできた半透明の玉のようなかを避ける。
バヂンッと弾ける音がして、石畳の地面が抉れていた。おいおい、あんなの俺に直撃させたのかよ……
「神崎、上だ」
「なに?」
言われたとおりに空を見ると、そこに浮かんでいたのはふわふわと浮かぶ人の頭程度の大きさの半透明の玉、玉、玉。その数、え~と十数個くらい? これが、さっき俺に向かってきたやつか。
「って、まさか!?」
ふと思い出したのは、数年前にニュースでやっていたクラスター爆弾。ニュースの内容は不発弾がうんぬんかんぬんだったと思うけど、確かクラスター爆弾ってのは小型の爆弾をいっぱい降らすやつで――
「それじゃあ行ってみようか! ゴー!」
男の子の楽しそうな声とともに振り下ろされたスティック。それに従うように空一面に広がった玉が落ちてきた。
「神埼っ、私の傍に!」
何か策があるのだろう、小野川に言われるまま傍に寄ると、肩を掴まれた。
「は、はい?」
「しゃがめ!」
「うぉわっ!?」
そのまま強制的にしゃがますと、小野川は片手をあの玉の雨に向ける。
「いけっ!」
小野川の手から、玉に向かって幾筋もの炎が放たれた。
そして炎と玉が接触する。
――――ババババババンッ!!
爆竹を強力にしたような音が鳴り響いた。
「ぐっ」
距離があったとはいえ一斉に爆発したからか、ちょっとした衝撃波が飛んできた。
「くっ!」
すかさず小野川は手を男の子らの方に向けると、炎の矢を打ち出した。
「わわっ!?」
迫る炎の矢に男の子があわてた。だが、あの玉が横から割り込んで炎の矢をブロック、破裂して炎の矢を打ち消した。
「油断、大敵」
そう言って男の子を窘めるのは、どうやったのか横から玉を飛ばしてきた女の子。
「うぅ~」
男の子はふくれっ面になると、俺たちの方を睨んできた。
いや、仕掛けてきたのはお前らの方だからな?
「破裂した時の衝撃でかき消されてしまうな」
厄介だな、と小野川は冷静に分析してる。
そんな間にも、女の子が両手の親指と人差し指で円を作って息を吹きかけ、そこからシャボン玉みたいに新しい玉が量産されていく。
「ってあれどうすんだよ!?」
無限増殖じゃねーか! 男の子が手を振って時間差で飛んでくる玉を避ける。
「お?」
ふと気付いたけど、さっきから女の子の方が玉を作り出して、男の子の方が操ってるのか? 全方向に注意を向けてるから確実じゃないけど……
「って、あぶねっ!」
後一瞬遅れてたら足に脛に直撃だった。考えすぎるのも駄目だな。
「いちいち落としてたら、ジリ貧になるっ、神埼、なんとか接近してあの子らをっ、気絶させることができるか?」
「いや、気絶させられるほどっ、技術力ないから! うわっ!?」
あっぶねぇ、喋ってても駄目だな。それにしても喋りながらでも器用に避ける小野川すごすぎるだろ。
しかし技術うんぬん抜きにして、あんな小学生っぽい子らを殴るのがすんげぇためらう。
「私の方も、そんな器用な真似ができる能力じゃなくてな」
まあそうでしょうねぇ。加減ミスったら人の丸焼ができそうだし。
ってことは――
「結局俺がやるしかねぇのな!」
年下相手を殴るのは嫌だけど、やられっぱなしなのも嫌だし、負けるってのはもっと嫌だしねぇっ!
「道は私が開く」
「了解っ!」
俺たちの方に向ってきている玉に向かって、炎の矢が打ち出される。
接触するたびに破裂音を鳴り響かせて衝撃波が飛び交う中を、耐えれるぐらいの力を使って駆け抜けていく。
肩と触れ合うような距離で炸裂した。耳が一瞬痛みを超えて機能しなくなったが、距離は……後一歩!
双子の顔が(女の子の方はすごい微妙な変化だったけど)驚愕したものになる。あわてた様子で左右に分かれたので――玉を操ってるっぽいし、女の子を殴ってもあれだし、まずは男の子の方からやる! ついでにそれで女の子の方が引いてくれたらりしたら御の字だ。そう判断して、男の子が逃げた方に地を蹴る。
力を足に集中させて、一瞬で男の子へと肉薄する。強化なし拳骨でいいかな? 握りしめた拳を振りかぶった。
「せぇいっ!」
「ふぅっ!」
俺が拳骨を振り下ろすと同時に、男の子が口元で丸を作った指に息を吹きかけた。
すると出てくる透明な玉。やっべぇっ! もうすでに拳を止めることはできないぞ!
相打ち覚悟でそのまま振り下ろす。
――――ふにょんっ
な、に……?
まるでトランポリンでも殴ったような感触。殴った反動がそのまま返ってきて体勢を崩された。
「もどれ、神埼!」
「隙、あり」
「なにぃっ!?」
思考が停止したところを小野川に呼び覚まされた恩は良かったけど、気がつけば小野川の射線上に重なるようにして配置されている俺と数個の玉。
もう一度確認。俺と、数個の玉。それを挟んでいるのが小野川と女の子。
「ていっ」
可愛らしい掛け声とは裏腹に、クマのぬいぐるみの片足を掴んでフルスィング。クマの顔面で打ち出された最初の玉は、途中にある玉と融合(?)して二倍三倍と巨大化して迫ってきた。
目の前に迫る巨大な玉。最初の大きさと比べたら、どれほどの威力があるのか恐ろしい。
崩れた体制、もう後僅かで接触する巨大玉。
――――あっ……これはもう、避けようないわ。
なぜか筆が進まない……
ああ、あれか。ネット家のネットが全然つながらないからかチクショー