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第11話


 皆遠出でもするのか会社にでも行くのか、どんどん人が駅の方向に向かって公園の中を通って行く。中には高校生らしきカップルも二組ほどいた。ホントに恨めしい、ああ恨めしい。


 現在、この前座っていた公園内に設置されている噴水前のベンチに座っている。時計を見ると九時五十分を過ぎたところだ。待ち始めて十分、張り切りすぎて早めに出てきてしまったな。まさか待ち合わせ時間の二十分前に着くとは思いもしなかった。


 一応、俺も女の子を待っているわけだけども、内容は異能の修行なわけだし、とてもデートなんて呼べるものじゃないだろう。まあ、きれいだからとても目の保養になるのは間違いないけどさっ。



「おーおー、またかぁ」



 お近づきになれたのはいいけどそれ以上が見込めそうにないよなぁ、などと考えていると、ベンチに座る俺の前を横切ってまた一組の高校生らしきカップルが駅の方向へと向かっていった。


 途中、横目でチラッとこっちを見てきやがったが、その後なんか知らないけど慌てたように足早に行ったのはなぜだ? そんなに俺は不審者っぽかったか?



「やぁ、またせたか……って、さっきすれ違ったカップルの慌てようは君が原因か」


「おっ?」



 少し頭を抱えて落ち込んでいると、学校指定のカバンを肩にかけ、これまた学校指定のジャージを着た小野川が「やっ」と手を挙げてさっきのカップルが出て行った方からやって来ると、俺の横に座って呆れたような眼で見てきた。とりあえず「おう」とこっちも手を挙げて返す。



「ところで原因ってなにさ。俺なにもしてないけど?」


「目がかなり危なかったように見えて、そんな暗いオーラを出していたら気の弱い奴なら逃げて当然だ。で、なにがあった?」



 考えていた内容なんてただの嫉妬やらそんなんだから言いたくないですはい。それにしても、そんなにやばい状態だったのか、俺よ。以後気をつけんといかんな。



「いや、ちょっと考え事してただけだよ?」


「疑問形で返してくるところが不安だが、まあいい」



 やれやれといった風にため息をついて、小野川は「本題に入ろうか」と切り出してきた。


 せっかく見てもらうわけだから、ちゃんとやっておくことはやっておこうとこっちも立ち上がって頭を下げる。



「今日はよろしくお願いします!」


「ん、大したことはできないが、しっかりと見させてもらおう」



 その後「ついて来い」と言われた。なんと男らしい言葉か。うわっ、ギロッって睨まれた、ギロッて。あんた、心が読めるのかよっ。



「ところでさ、一つ聞きたいことがあるんだけど」


「なんだ?」



 先に歩き出そうとしていた小野川が足を止めて振り返る。その時腰まで伸びている髪がふわりと翻った。 



「なぜに、ジャージ?」


「動きやすいほうがいいからな」



 いや、まあ確かにそうなんだろうけどさ。うん、本当にどこか残念だ。俺の心がそう言っている。


 さっさと行くぞ、という頼りになりそうなとても男らしい――



「なんだ?」



 なんでもありません、本当に何もありませんでした。


 ブンブンと必死に首を振ると、「まあいい」となんとか許して……見逃してもらった。



「それでどこに行くんだ?」


「なに、人気の少ないところだ」



 含み笑いを浮かべる小野川と目が合った。普段のキレイと違い、可愛らしいその仕草に顔が赤くなって行くのが分かるとすぐさま顔を逸らした。ええい、俺は中学生か!? いや、この前まで中学生だったけどもってああもう! おまけにあれは絶対何かやらかすときの笑みだろ! これが異能に関することじゃなかったら本当に嬉しいんだけどねっ!


 内心何があるのかとドキドキしながら、適当に雑談をして小野川について行く事十数分。



「……ここか」


「ああ、人も滅多に来ないし、最適だろ」



 小高い山の中腹まで、百段はあったと思う階段を上ると、そこにあったのは神社でした。境内の隅っこにベンチが一つ置かれているだけのかなりこじんまりとしたやつだけどね。周りに木が生えていてちょっとうす暗いのがあれだし、ぱっと見て人が来るとしても正月ぐらいにしか人が集まらないんじゃない? ってぐらい寂れている。まあ、確かにここなら大丈夫だろうね。



「では、始めようか」



 鳥居をくぐって、小野川はベンチに腰掛けた。



「ほら、神崎も座って」


「お、おう」



 ポンポンとベンチを叩く小野川に促されて、俺も駆け足でベンチまで行くと、ゆっくりと座った。



「さて、まずは自分の異能についての考察からだな」


「……能力の修行じゃなかたっけ?」


「自分の能力を理解して鍛えるのと、理解しないで鍛えるのではだいぶ違う」



 なるほど。確かに意味のない鍛え方をしてもどうしようもないもんなぁ。



「俺の能力は、身体強化だな」



 ……いきなりもう詰まったぞ。これ以上何を考えろと?



「だったら、防御面はどうかな? ちょっと顔に集中してみろ」


「え? あ、ああ」



 確かに防御面は考えてなかった。とりあえず、言われた通り異能を使って顔に集中してみる。ん? 顔?



「先に言っておくぞ、すまないな」


「なにっ――ぉう!?」



 スパァンッ! といい音たてて、頬をはたかれた。



「どうだ?」


「すごく、痛いです」



 主に心が。



「聞いたイメージだと、体も頑丈になってる感じだったんだがな」


「ああいや、まあ確かに痛くはないんだけど」


「……そうなのか?」



 どっちなんだ、と言いたげな様子の小野川。



「言い方悪かったのは認めるけど、こう、女の人に頬をはたかれるのはかなり心の方に来ます」


「私は力がないから、肩とか叩いてもほとんど痛くないだろうし。だったら顔ぐらいかなと、グーでしたらが悪かいと思ったんだが……そうか、それはすまなかった」



 平静を保っているように見えるものの、しょんぼりとしているのがわかる。すんごいレアな気がする――ってそうじゃない。



「あー、大丈夫大丈夫。今度からは一言いっていただけるとありがたいだけだ」


「ああ、今後気をつける」



 うむ、わかって貰えたらそれでよし。



「とりあえず、これで頑丈になることもわかったな」


「確かに」



 あの音だったら結構痛かったと思うけど、全然そんなことなかったし。



「一つ聞くが、異能を使うときや使っているときはどんな感じなんだ?」


「どんな感じって?」



 言いたいことはなんとなくわかるのだが、細かいところがいまいちわからない。



「スイッチというか、例えば私ならこんな風に――」



 そう言って小野川は人差し指を目線まで持ってくる。


 するとボッと音を立てて、人差し指の先からライターの火ぐらいの大きさの赤々とした火が出た



「念じれば火が出る。それに指先からエネルギーが流れ込んでいる感じだな」



 そう言って火を消すと、二三度手を振るった。



「なるほど、俺が使うときはこう、身体に力が漲るような感じで、エネルギー……?」



 かなり身体が暖かくなってた気もするけど、使ってた時って結構動き回ってたからどうかわからないなぁ。



「ちょっとわからないから、使ってみるよ」



 身体全体に力が漲るようなイメージをする。


 よし、全身に力が漲るような感じが……あれ?



「なんというか、イメージと変わらず全身に力が漲る感じだな、うん」



 なんか拍子抜けだ。 



「イメージと合致しているのはいいことだよ。ずれがなくて」


「ああ、確かにそうかもしれないなぁ」



 ずれているよりかはよっぽどいいのだろう。



「とりあえず、こんなところじゃないかな?」


「だな」



 そう頷いて顎に手を当てて小野川は考え込んだ。



「……どうした?」


「私からアドバイスできるようなことはないな、と思ってな」


「おいっ!?」



 今までの考察はなんだったんだよ!



「身体強化系は神崎が初めてだったからな、話を聞いて考えていけばなんとかなるかとも思ったんだが」


「どうにもならなかったと」


「基礎的なところならともかく、異能は個人差が激しいからな。鍛え方もそれぞれになるわけだ」


「参考までに、小野川の訓練方法は?」


「火の制御だな。こんな風に」



 小野川の掌から蛇のような長細い炎がうねうねと蠢きながら伸びてきた。


 先のとがった尻尾のような部分まで出てくると、頭の部分の造形が変わっていく。



「竜……か」



 その姿は昔話にでも出てきそうな竜の形になった。



「火竜。演芸には持って来いだよ」


「演芸かよっ!」



 いやそこ、うむって頷かなくていいからさ。



「実際戦闘なんかに使おうと思ったら、この造形を維持する必要がないからな」



 確かにそのまま相手にぶつければいいだけなんだろうけど。



「こんな風に、イメージ次第でどんな形にも変わってくれる。もっとも、炎という性質は変わらないけどな」


「なるほど。だったら俺の場合は……」



 身体強化。


 なんも捻るところなくね?



「そうだな、使い慣れるぐらいしかないだろうな。他には、動きを気をつけることだろうか」


「動きを?」


「ああ。例えば私の炎ならこんな風に」


「っ!?」



 いつの間に動いていたのか、視覚外から目の前を横切っていく演芸用の火竜。



「な、なるほど……こんなこともできるのか」



 それに比べて俺に出来ることと言えば――


 殴る蹴るとかの、普通にできることの延長線上のものしかない。



「うっわぁ」



 使い勝手がいいのか悪いのか。普段しないようなことをイメージしない分、かなり使いやすそうではあるけどさっ。



「よし、ならば今回は、避ける練習でもしようか」


「……はい?」


「いやなに、神埼の能力を聞いた時から思っていたことなんだがな、その身体能力向上自体は正直言ってかなり脅威だと思うよ。私なら、接近されて至近距離の戦闘になれば勝ち目はないだろうからな」



 確かにこの能力なら接近戦はかなり強いんだろうけどさ。



「もっとも、私なら近寄らせないけどね」



 でしょうね! 近寄れなかったら意味ないもんねぇっ!



「つまり、だ。今回は、私が攻撃するから、君は避ける、というのでどうだろう?」


「俺は避ける練習、小野川はコントロール練習にもなると」


「そういうことだ」



 それ自体は確かにいい方法だとは思う。だがな、俺の不安にするそのすんごいいい笑顔をするのはやめてほしいなっ!


 そんなこんなで、小野川は攻撃、俺は回避しながら小野川にタッチすると終了という鬼のような訓練という名のいじめが始まった。



「そらっ、行くぞ!」



 まずは火竜が迫ってくる。うわっ、結構速い!



「うおっ、と!」



 横に跳び引いて回避した。が、なんと火竜が俺の避けた方向に九十度直角に曲がって突進してきた。


 跳び引いた時に崩した体制を整えていた俺は当然回避なんてできるわけもなく。



「ちょっ――」



 鼻と触れ合いそうな距離で火竜は止まってくれた。鼻頭がじりじりと焼けるように熱かったが、いきなりなことに俺は動けなかった。



「一回目、アウトだな」



 その言葉とともに、火竜は小野川の傍まで戻っていった。



「う、うわっ」



 情けないことに、力が抜けて尻もちをついてしまった。それを見た小野川がくすくすと笑うから余計に恥ずかしい。



「ええいっ、笑うな!」


「すまんすまん」



 だから謝るなら笑うなと。



「アドバイスするとしたら、一回避けたくらいで安心したらいけないことだな。すぐに二手三手目が来るぞ? それに、異能も使っていけば、もっと大きく距離をとれていただろうに」


「……了解。次こそはうまくやってやるよっ!」



 笑われっぱなしで終われるわけがない!



「では二回目、スタート」



 小野川は非常にいい笑みを浮かべながら、火竜を放ってきた。



「よっ!」



 今度は最初から異能も使って大きく跳び引いて、一気に小野川が遠くに……って跳びすぎだ!?



「止まっガハッ!?」



 思わず止まれと叫ぼうとしたら、木と激突してしまった。



「お、おい……大丈夫か、すごい音がしたぞ?」



 小野川も近づいて心配するほどひどい当たりだったということだろうか。


 自分には何が何だかわけがわからなかった。すごい衝撃が来たと思ったら、こうして木の下で緑の葉の隙間から青空を眺めているわけで、うん。



「あ~、大丈夫……みたい?」



 それにしてもすごい。あのような当たり方をしたのに、痛いところとかどこにもない。ちょっとヒリヒリするくらいだ。異能さまさまだな、まったく。



「続けられそうか?」



 上から覗いて心配そうな声で聴いてきた。



「おうっ、まだまだ行けそうだ」



 とりあえず、無事と示すために起き上がって飛んだり跳ねたりしてみる。



「見たところ、コントロールがなっちゃいないというわけか」


「簡単にいえばそうなるな」



 反射的なものだと加減ができないのがさっきのでよーく分かった。



「まず最初の課題としては、力の強弱ができるようになる必要があるな」


「了解。がんばってみるよ」


「よし、では続けてやっていこうか」



 元いた位置まで戻って、また火竜を避ける訓練に入った。


 ――――結果



「も、もう無理だわ……」



 一時間も立たずに倒れてしまった。


 やっぱり制御は難しい。


 また強く飛びすぎたりしたり(木に激突はしなかったが)、力が弱すぎて思ったより跳ばずバランスを崩してしまったりと、今後の努力がかなり必要なようだ。



「まあ、よく頑張ったんじゃないかな」



 小野川も倒れている俺を見て苦笑を浮かべていた。


 それにしても――



「すんげぇ腹減ったぁ~」



 動き回っていたことを考えても、エネルギー消費量が半端ないんです。空腹で腹が痛く感じるのは久しぶりだわ。



「もうお昼頃だしな。ちょうどいいか」



 そんな気になることを言って小野川が取り出したのは、コンビニの袋。



「昼食にしようか」



 そう言って袋の中身を起きあがった俺に見せてくれた。


 中に入っていたのはお茶のペットボトル二本に、ツナ・シャケ・コンブとおにぎりの代表格なもの各二個ずつ。



「何個までとっていいの?」


「ああ、私なら別のがあるから、全部持っていっていいぞ」


「全部いただきます」



 そうして袋ごと貰って早速ツナを手に取る。



「って、そういえば何も考えてなかったけど、お金とかいいの?」



 合計したら千円くらいだろうか? 流石にそのまま貰っていいのかどうか気になる。



「ああ、別にかまわないよ。どうせ、アイギスからの支援金だし」


「はい?」


「まだ説明してなかったけど、アイギスに所属してたら、ある程度の支援金はある。まあ、根無し草のやつも珍しくないからの制度だな」



 おお、すごいなアイギス。まあ、確かにこれくらいはあってもいい気はするが、それにしても気になることが一つ。



「根無し草?」


「ああ、特定の住居を持たず、世界を放浪している者もいるからな」


「は、はぁ……」



 なんだかよくわからないが、いろんな人がいるってのはよくわかった気がする。


 その後、おにぎり全部平らげた俺に小野川が若干引いていた気もする。俺も普段は簡単にこんなに食えるとは思っていなかったが、どうやらそれだけ異能の燃費が悪いらしい。


 そんなこんなで楽しい(?)昼食を終えて一時間ほどの休憩タイムに入った。





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