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第10話



 戦うことに決めた俺たちだったが、現時点では対処法などなく、久賀美が出てきたところを何とかするしかない、という結論にしか至らなかった。


 その間できることと言えば、異能についての理解を深めることと、使うことに慣れることだそうだ。



「それにしても、きついな……」



 朝、学校の机に突っ伏してぼやいた。


 異能の持続力は体力と一緒で、鍛えれば鍛えるほど伸びるという話を聞いたので、さっそくアパートから学校まで強化して走ってきた。もちろん誰も見てないっていう条件で、だ。おかげでいつもよりかなり早く出てしまって教室に着いた時に誰もいなかったのは驚いたが。


 まあ、結果は歩きで三十分かかるところがなんと、十分ほどで着いたのだから驚きだ。走ればそれくらい普通じゃね? とか思われそうだが、正直俺は学校までの距離を休まず走破することは無理だった。それができるのだから、異能とはすごいものだ。


 だがその代償に体力らしきものを大幅に持って行かれたけど。一応、無茶をするようなレベルではない、本当に疲れた時は異能を使わず歩いてたし。


 しかし、校門にたどり着く前にはへとへとの状態で、先生に大丈夫か? と声を掛けられたくらいになってた。ちょっと限界にチャレンジしてみようかと思いまして、と答えたときの驚いていた先生(体育担当)の表情は忘れそうにもない。




「…………ぉ? どうしたんだ、神埼?」


「うおっ!? 誰ってああ、なんだ相沢か」



 息を殺すようにして入って来たらしく、いきなり声を掛けられたからびっくりしたわ。



「俺はお前のその俺の雑な扱いに驚きだわ」


「そんなことより、なんで気配殺して教室入ってくるんだよ……アホらしい」



 おまけに後ろの方から入ってこられてたから余計に気付かない。



「アホ言うな! なんだ、教室入る時って中にいる奴らから一斉に視線集まる時あるだろ?」


「ああ」



 俺も今日入って来た時もそんな感じだったな。数人しかいなかったけど。



「それを避けるためにだな」


「それだけのためかよっ」


「それだけで何が悪い!? こちとら中学の時にそれやられた後鼻で笑われたりとか『あいつが来たわよ』みたいな感じでこそこそ言われてたんだぞ!? そりゃトラウマにもなるだろ!?」


「ああ、うん、そうだね」



 なんか最初からなかったやる気が、更になくなっていった気がする。



「そうだねって、まあいい。そういうお前も、ずいぶんお疲れみたいだな?」


「ん? ああ、まあなぁ」


「何したんだよ?」



 ドカッと前の席に腰をおろすと、相沢は興味津津といった風に聞いてきた。



「ああ? まあ、アパートからの十分全力疾走?」


「アホかお前は」



 アホちゃうわっ! と言い返す気力さえもったいない。



「俺なら一分も持たんな、全力疾走をすれば十秒だ」


「えばって言うことじゃねーだろ」



 腕組をして、ふーんと何故か自慢げに鼻息で答えを返してくるこいつをぶん殴りたいと思ったのは俺だけじゃないはずだ。



「まあそんなことより、なんか最近ちょっと落ち着いてきたみたいだな」


「何の話だ?」


「ん? いや、この前から放火やら惨殺事件やら起きてたのが

、先週あたりから何事もなく平和だな、と」


「ちょっと待てよ……」



 相沢が不思議そうな顔をしているけど、そんなのか待ってる余裕はない。


 思い出すのは、あのミイラになったひょろすけの姿。それにあの公園のクレータとか、何故ニュースとかになってないんだ!?



「おい、大丈夫か?」


「え?」


「顔色、ちょっと悪かったぞ?」


「あ、ああ。大丈夫だ、ちょっと疲れただけだと思うから、休めば大丈夫だろ」


「お、そうか?」



 邪魔しちゃ悪いな、と言って相沢は隣の自分の席に鞄を置くと、他の奴のところに行った。たぶん、ゲームとかの話しでもするんだろう。普段日ごろからこれくらいの気遣いができればよかったのにな、と思わんでもない。


 それにしても、一体どういうことだ? なんであの公園の惨状が出ていない?


 抉り取られたような地面。そして一体のミイラ。これなら大騒ぎになってもおかしくないはずだぞ?



「どうかしたの?」


「っ!? あ、ああ。宮野か……」



 いきなり声を掛けられてびっくりしたが、宮野だとわかるとすぐに落ち着いた。



「うん、おはよ」


「ああ、おはよう」



 いい笑顔で癒される。相沢とは大違いだな。どこかでヒドイッ!? と聞こえた気がするが……幻聴だろう。



「それで、どうしたの?」


「ああ。宮野は、あのかまいたちを使ってきてたやつ覚えてる?」



 少し考える素振りを見せると、すぐに閃いたとばかりに手を打った。



「うん、覚えてるよ。公園で神崎君が襲われてた時の人だよね」



 宮野が声を潜め言った。



「そうそう。そいつのことなんだけど……」


「おやおや~? お二人とも、そんな顔を近づけてヒソヒソ話とは……いったい何事ですかな?」


「うおぁっ!?」


「ひゃぁ!?」



 横からヌッとあの元気娘の西原が出てきた。おかげで俺と宮野は顔を赤くして変な声を上げてしまった。



「ちょっ、いきなりなんだよ、西原!?」



 話している内容が内容だったから心臓に悪すぎだ!



「いやいやなになに、昨日から急接近なお二人が、朝から顔を近づけて内緒話をしているではありませんか。当然、気になるに決まってるでしょ」


「何をどうどうと宣言してやがるんだよ。おまけに当然違うっ」


「周りを見てみな、旦那」



 誰が旦那だ、誰が。



「周りっても……うぉっ!?」



 なんだこいつ等!? 教室内にいる半数以上(女子はほぼ全員)の奴らがこっちを見てやがった! しかも目がギラギラに光らせてだっ!


 俺が顔を向けた瞬間、目を顔ごと逸らしやがったがな、バレバレだよ!



「さささ、皆さんも気になっているところですし、ゲロっちゃいなよ」


「何をだよっ!?」


「っち、彼氏の方は役に立たんねぇ……そこんとこどうなのさ、宮野さん?」


「えっ? 私たちはそんなのじゃないよ」


「……お友達、とか言うんじゃないでしょうね?」


「お友達だよっ」



 なんだろう、こうはっきりと宣言されるのもこう、来るものがあるなぁ……ダメージ的な意味で。


 俺が精神的ダメージを受けて項垂れると、西原が黙って肩に手を置いてきた。その無言の同情が余計に辛いわっ!



「これはいったい、どうしたんだ?」


「来たっ! 救世主!!」



 いつもより遅めに登校してきた小野川が、「はあ?」と首を傾げた。いや、救世主は咄嗟に口から出てしまっただけです。



「それで、いったい何なんだ?」


「いや、あのことについてなんだけど……」



 そう言って聞き耳を立てている西原を見る。



「ほら、こっちは意外と大事な話があるんだ。引いてくれ」



 それだけで分かってくれたようで、西原を追い払ってくれた。



「あいあい~、悠ちんに言われちゃ仕方がない」


 

 やれやれといった風に大人しく引き下がるついでに、てっしゅーてっしゅー、と周りにいたクラスメイトも下げていった。……この扱いの差はなんだ?



「はいはい、ストーカー君もてっしゅーですよー」

「ちょ、引っ張んじゃねーよ! 後ストーカー違う! いったい誰がこんなこと言いやがったんだよ!!」

「あ、ごめん。私がそのこと流したんだった。忘れてたっ、テヘッ」

「お・ま・え・か・よ!! 後お前がテヘッってやってもかわいくネゲホァッ!?」



 ああ、馬鹿め。自分から地雷を踏みにいくとは……これは逆に勇者と呼ぶべきか。後に聞いたところ、西原とあの男子は幼馴染だったらしい。


 ともかく、これでなんとか本題に入れそうだ。



「さて、内容は市民公園でのことか?」



 前の席に座った小野川が、困った風な顔で俺の言いたいことを言い当てた。小野川の言葉を聞いて、宮野も「ああ」と手を叩いた。



「……なんで分かったんだ?」


「私も、同じことを考えていたからだよ」


「どういうことだ?」


「昨日、二人と別れた後、ふと未だに騒ぎになってないのが気になって見に行ったんだよ。公園の方を」


「それで、どうだったの?」



 宮野に促された小野川は、手を頭に当てて言い辛そうに言った。



「何もなかったよ。きれいさっぱりにな」


「それ、どういうことだよっ」


「悠ちゃん?」


「ああ、いやまぁ、そのなんだ」



 俺たちに(特に宮野だろうが)詰め寄られたことに、動揺しながらも、言葉を選ぶように言った。



「戦闘の痕跡が一切なくなっていた。まるで、元から何もなかったかのようにな」


「な、なんだそれ……」


「恐らくだが、久賀美が何かしたんだろう。目的は、考えられるとしたら、あいつの回収といったところか?」



 たしかに、久賀美は実験がどうとか言っていたから、その結果のあいつを回収することは考えられることだ。



「まあ、考えられるとしたらそれくらいだろうな。なんで公園を元に戻したかはわからんが」


「だったら、直接聞くぐらいしかないな」



 聞く気はほとんどないけど。



「とまあ、現状はこんなところか」



 これで終わりとばかりに、小野川が締めてくれた。



「んで、これからどうするんだ?」


「ああ、待ちに徹するしかない今、鍛えるぐらいしかないだろうな」



 鍛える……ってああ、異能についてか。学校内だから小野川も言葉を選んでいるのか。おかげで一瞬何を鍛えるのか考えてしまった。



「修行だね」



 おお、確かに。宮野の言うとおりこれは修行になるな。鍛えるっていうよりかは、こっちの方がやる気が上がる……気がする。男なら一回は憧れる事あるだろ。少年漫画での修行とかさ。



「それなら今日、試しに早速アパートの方から走ってきてみた」


「へぇ、どうだったの?」



 目を輝かせてもらって悪いが、そんなにいい結果じゃないんだよな。


 俺の場合は異能がどうとかいうより、体力があるかどうかに見えるから判断に困る。



「体力の無さを実感したねぇ」



 肩を竦めて言ったら、それだけで散々だったと理解してもらえたらしい。「無理だけはするなよ」と言われた。宮野も「頑張ったんだね」と頭を撫でてきた。恥ずかしいわっ!



「それでさ、小野川にちょっと教えてもらいたいというか、見てもらいたいというか……とりあえず、修行するのにいい方法とかない?」


「昨日も言ったけど、慣れたりする他ないな」



 実質、近道なんてないぞ、と言われました。



「ふむ……明日、空いてるか?」



 明日? 明日といえば休みの土曜日。用事も何もない。友達とかと遊びに行きたいものなんだがな。いればだが。相沢というのがいるっちゃいるが、この前誘えば「出不精でなぁ~」と自信に満ち溢れた顔でぬかしたからありえない。



「ああ、特になんもないな」


「私の方は明日おばあちゃんと出かける約束があるから……ゴメンね」


「いや、先約優先だ。それじゃあ神崎は明日の朝、そうだな、十時ぐらいに商店街の公園で待ち合わせでどうだ?」


「オーケィ」



 俺の返事を聞くと、小野川は満足そうに頷いた。


 そんな風に明日の約束を決めたところで、タイミング良くショートホームルームが始まる五分前の予鈴が鳴った。



「さて、それじゃあ先生が来る前に私たちは席に戻ろうか」


「うん」



 そう言って二人は自分の席に戻って行った。


 しかし、あれだな。朝から女の子と話するだけで、その一日のやる気が上がる気がする。



「よぉ、今は機嫌よさそうだな」



 ニヤニヤ顔で相沢が隣の席に座った。



「お前が来なかったらな」


「ヒデェッ!? 理由が分からないぞ!?」



 そのニヤニヤ顔から、どうせ小野川と宮野となにを話していたか、について聞こうとしているのがすぐ分かるわっ! おかげでさっきまであったやる気がぶち壊しだよっ。


 そのおかげかなにかわからないが、その日の授業であった古文ではなぜか寝てしまったし、体育ではなんか先生がやけに俺に対して運動系の部活、特に陸上部に入らないかという勧誘があった。



「お前、俺になんか呪いでも掛けたか?」


「知らねぇよ」



一週間過ぎちゃったけど大丈夫だ、問題ない。

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