【短編小説】水耕栽培ジョニー校生
それは一面の黄金世界だった。
目前に広がる水耕栽培の女子高生たちは金色の髪を風になびかせている。
ここら辺は名門私立系の女子高生たちが栽培されている。
だから茶色いローファーだとか濃紺のハイソックスがほとんどだ。
稀に変異体で白いルーズソックスを履いているのが見えるが、規格外で弾かれてしまうだろう。
「そろそろだなぁ」
俺はローラーブレードで走りながらその景色を眺めていた。
世界は女子高生を主食としていた。
人々の生活には常に女子高生が存在していて、栽培された女子高生を食べることが歓びであった。
それは俺も例外ではない。
文字通り、女子高生を食べながらその歓びに身を捩っていた。
その水弾きよい、血色豊かな柔らかい肉は、特有の香りで生きる欲を引き立てた。
「ことしは豊作だなぁ!」
もう少しで背中の曲がった老婆たちが女子高生たちを刈り取る。
収穫の季節だ。
そうなると冬が近いし、その頃には男子中学生の種まきが始まる。
そして春先には学ラン姿の男子中学生たちが実る。
無農薬だから、ドラッグストアで売っているような安いコロンだとかシーブリーズを付けたりしない素朴な男子中学生たちができるだろう。
輸入品はそこら辺がまだまだだ。
節くれだった指の老父たちが収穫する男子中学生たちを想像する。
俺もそうやって育ったなと懐かしい気分になる。
俺も学ランだった。安いコロンだとかシーブリーズを付けたりしなかった。
ローファーなんて履かずに、コンバースのスニーカーを穴が開くまで履いた。
スクールバッグじゃなくてリュックサックを使っていた。
やがて青年になり、大人になり、結婚をして家族みんなで女子高生を食べる。
そうやって繰り返していくはずだった。
だけど俺は、卒業する前の夏休みに、遊びにいった山で野良のオオクワヤマホホジロザメに喰われてしまった。
だからこうして腐りかけの労働者として生きている。
死なずに済んだただけマシかも知れない。
同級生たちは死んだり、半身不随になったりしてしまった。
生き残れたのは運がいい。
「いや、本当か?」
運が良かったのだろうか。
腐りかけの賃労働者をやるのは良いことだろうか?
初物の女子高生だって買えない。
見切り品を頑張って買うような惨めな生活だ。
そんな女子高生を食べているとき、ちゃんと生きていれば良かったなと思う。
だが、こうも投げやりに人生が折り返しを過ぎてしまうと、それはもうどうしようもない。
もしかしたらこのまま死ぬかも知れない。
別にホホジロザメに喰われた傷が原因ではない。
バイクや自転車で事故って死ぬはずだった分岐点を右に曲がり続けたからでもない。
胡蝶の夢だとかバタフライエフェクトとかは知らない。
ただ俺は虎になる事もできないしタイガーマスクになる事もできない。
「俺はもう駄目なんだよ、腐った労働者だ」
または筋ばったブロッコリーだ。蒸してもレンチンしても食えたもんじゃない。
そういう意味ではサメも同じだ。
深海にとどまる為のアンモニア。
俺が俺で居続ける為の腐敗臭。
「でもジョニー、それは違うんだよ」
切除されたラリーとバリー。
新しい友だちのジョニー。
俺は死ぬ。腫瘍。そいつが良性か悪性かは問題じゃない。
俺は死ぬ。
別にそれそのものは問題じゃない。
俺は死ぬ。
これは地下室の手記でもなんでもない。
「俺たちは自由だったよな、ジョニー」
そう、俺たちは自由だった。
俺たちは最初から檻の中にいたのかも知れないし、俺たちは柵の中にいたのかも知れない。
でも俺たちは自由だったんだ。
荒野に見えていたのは単なる牧場で、俺たちがいたのは狭い箱庭だったんだよ。
その中で俺たちは自由だった。
その箱庭は精工にできた箱庭で、俺たちは隔離された存在なんじゃないかって思うだろ。
それはまたそうなのかも知れないし、もしかしたら勘違いなのかも知れない。
とにかく俺たちは自由だった。
女子高生を買う自由もあったし、オオクワヤマホホジロサメに喰われる自由もあった。
道端の自動販売機で売られている中年男性の労働者を買ってシフトの穴を埋める。
契約内容の不備だとか因縁だとかで先輩が会社を辞める。
そうやって俺は自動的に出世する。
なるようにしかならないよ、怠惰な水流を漂う腐った労働者だよ。
呼吸が詰まっていくと死ぬかも知れない。「でもジョニー、戦場へ行く事はそう遠くない未来かも知れない」
いや、違うよ。ここはもうそうなんだ。
荒野じゃないけどね。
寝がえりを打つ。
誰かが返した枕の夢から俺は覚めていないだけだと思いたいけれど、これが長い長いゲームのセーブポイント前だとしたら、投げ出してしまうのも無理はない。
女子高生の収穫はまだ始まらない。
俺の食卓に見切り品の女子高生が並ぶのはまだ先だろう。
だがそこは地下室じゃない。
一面の黄金世界が広がっている。




