第7話_ウェイクアップウィズユー!
おはようございます、おばあちゃんです。今の時間は月曜日の午前八時、いつもならとっくに家を出て学校に向かっている時間です。
しかし今日は振替休日、土日を潰して行われた体育祭とリハーサル、その分の休みを取るべき一日であり、遅起きが推奨される珍しい日だと言えます。丁度今目覚めた高校生、渡辺幸樹もまた体育祭の疲れを取るため、十時間くらいの長い睡眠をとっていた者の一人。布団の中でシワだらけになった制服、汗で少しベタついた肌着、どれも体育祭の次の日にありふれたものです。ただし今日はここに一つ、普通とは違うものが混じっています。
「……? …………!?」
隣の布団で彼の左手をがっちりホールドしたまま眠っている、幼馴染の京極直美ちゃんです。
「なっ……!? …………??」
どうやら現状を飲み込めず混乱している様子、寝ぼけて昨日の顛末を思い出せないようですね、直美ちゃんを起こさないよう叫び声を飲み込んだのは偉いですよ。さて、この事後じみた絵面に頭の中がドッタンバッタン大騒ぎになっていた彼ですがどうやら昨日のことを思い出したようで、落ち着いてはいませんが混乱は収まったようです。ただ落ち着いてはいないのでまだ困惑が顔に残っています、おそらく「これは流石にアウトか……?」とかそんなことを考えているのでしょう、今更ジタバタしてもみっともないだけなので、彼には早急に全てを受け入れていただきたいところです。
さて、当の幸樹はひとまず落ち着こうと起き上がろうとしましたが……左手を掴まれているため失敗しました、そして右手を引っ張られた直美ちゃんが、ゆっくりと目を覚まします。
「うぇ………………うん? ああ、そっか。おはよー幸樹、今日はよく眠れた?」
「えっああうん、おかげさまでぐっすりだった」
「そりゃよかった、私も久々に雑魚寝出来て楽しかったよ~」
「それは……うん、それは良かった」
「……さてはまーた倫理がどうこう考えてるね?」
「バレたか」
直美ちゃんも勘が冴えてきましたな、幸樹の考えてることもお見通しです。さーて直美ちゃんここからが頑張りどころですよ、孫がヘタれないように上手いこと言い包めて第二第三の雑魚寝チャンスを掴み取るのです、貯めてきた好感度の使いどころさんですわよ。
「いやほら、やっぱ常識的に考えて一緒に寝るのはヤバイ気がして」
「でも一緒に寝て嬉しかったし、寂しくなかったでしょ?」
「それはまあはい、その通りです」
「だよね、私もだよ。で、幸樹は無防備に寝ているところに直美ちゃんが居て、不安だったり嫌だったりした?」
「いや別に、何なら安心感があって嬉しかった」
「うんうん、私もだよ。それで、一緒に寝ると私も幸樹も嬉しい、不安だったり嫌だったりもしない、何の問題も無いよね?」
「まあそう……そうなのか?」
「周りの目が不安なら黙っておけばいいんだよ、私と幸樹が黙っていれば、一緒に寝てるなんてだーれも気付かない、でしょ?」
「それはそう、じゃあ……うん、問題ないな」
よーしよし、第一段階は成功です、無事に幸樹がヘタれるのを阻止できました。これ一緒に寝た安心感がかなり効いてますね、直美ちゃんの言い包めに一切抵抗せず自分から進んで包められに行ってますよ。
さて直美ちゃん次はまた今度の約束を取り付けるフェーズです、この調子で押し込んで「またやろう」という言質を取るのです、安心なさいウチの孫はアナタ相手だと甘々、言質さえ取って口実を作れば喜んで手を握ってグッスリしてくれることでしょう。
「やった! それじゃあこれからも、時々一緒に寝てくれるよね!」
「そりゃ俺は良いけど、いいの? 俺にとって得しかないけど」
「私も得してるからだいじょーぶ! それに、今も昔も幸樹はたくさん私を助けてくれてるから、その分私も幸樹を助けたいの!」
「そこまでしてもらうようなことはしてないと思うんだけど」
「色々してくれたじゃん、小学生の頃なら私の代わりに怒鳴り返したり、一緒に帰ってくれたり、最近は親の喧嘩でヘラってる私を泊めてくれたし」
「それくらい別に何でもないんだけど……まあそう言ってくれるなら俺も甘えさせてもらう、ありがとう」
「そうそう、それでいいんだよ。私を見習ってどんどん甘えるように」
また今度の約束ヨシッ! よくやりました直美ちゃん、しっかりウチの孫を囲い込めて偉いですよ。しっかしまああの幸樹がここまであっさり丸め込まれるとは、雑魚寝パワー恐るべし、直美ちゃんもガンガン詰めに行っててすごかったですよ、これでウチの孫の寂しさも軽減されますし正に良いことづくめというヤツです。というか昨日の夜の直美ちゃんすごくなかったですか? 昔の話とか私には甘えて良いとか、今まで積み重ねた物をフルに使ってウチの孫から弱音と同意を引き出していましたし、なんかもう溢れ出る幼馴染パワーが天を衝かんとする勢いでしたよ、やはり「この子ならウチの孫を任せられる……!」と生前の時点で確信していた私の見る目は確かだったようですね、直美ちゃんマジ頼りになる。
さて、そうやってとんとん拍子にウチの孫を篭絡した直美ちゃんは布団を畳んで片方を幸樹の部屋に、もう片方をリビングの隅に片づけました、近々また一緒に寝るのだから物置の奥にしまっても仕方ないという考えでしょう、もしかしたらリビングの布団を見た幸樹が、自分を思い出すようにという意図もあるかもしれませんね。きっと直美ちゃんの中には幸樹が自分から一緒に寝るよう頼んでくるという、それはそれは素敵な理想像があるのでしょう、やっぱこういうのは相手から言い出してほしいですよね、自分ばっか甘えてるってのも悔しいですし。
そうして手の空いた直美ちゃんは食器にヨーグルトとみかんの缶詰をよそって、丁度幸樹が焼き終わった目玉焼きとレンチンした冷凍ご飯で遅めの朝食をいただきます、馴染んでますね~。
「いただきます」
「いただきまーす、やっぱみかん入りヨーグルトはうまいね」
「うむ、ただのヨーグルトの三倍はうまい」
「なんか赤いペイントがされてそうだね」
「なんでも赤く塗って専用にする風潮はどうかと思う」
「ブームってのはそういうもんだよ、儲かる限りはどれだけ擦っても許される」
「資本主義だねぇ」
某三倍速で真っ赤な人の関連グッズの話ですね、当時はコップだの上着だの色んな専用アイテムが販売されていました。ちなみにこの二人が世代から外れたあれらのグッズを知っているのかと言いますと、おばあちゃんが専用日付印という面白半分で買ったグッズを見せたからです、なんか大ウケしたみたいで、勝手に専用グッズを調べ始めて「ぷはっ、こんなものまで専用にされてる」「絶対本人使ってないじゃーん」とかゲラゲラ笑っていました。そうやって肖像権を酷使されている仮面の人について盛り上がりながら朝食を食べた二人が、昨日レッドカードを食らった冷蔵庫の眠れる獅子について話し始めます。
「さて直美、この後はカステラをつまみにアニメ視聴会第二部を開催しないか?」
「いいねいいねー、何か良い飲み物ある?」
「残念ながら麦茶しかない、何か良い案あったりしない?」
「うーん……ねえ幸樹、コーヒーって飲める?」
「牛乳入れれば」
「そしたらあれ、食器棚の一番右って空いてたよね、あそこ借りても良いかな」
「良いけど、なんで?」
「まあまあちょっと待っててよ、家から良いもの持ってくるから」
「シャワーでも浴びて待っててねー!」と言い残して、直美ちゃんが玄関からぴゅーっと出て行きました、幸樹は頭に疑問符を浮かべていましたが「まあいい加減制服は着替えないとか」と頭を切り替え、着替えを持ってシャワーを浴びに行きました、まあ昨日汗をかいてそのまま来てますからね、汗まみれの体操服は着替えたとはいえいい加減身体を洗うべきタイミングでしょう。まったく体育祭の後だから許しますけど普段だったら制服も着替えずそのまま寝落ちなんて許されませんからね、着替え・入浴・寝間着と就寝、それらを意識した丁寧な生活が日々を乗り越える人間性と精神力を養うのです、もし風呂に入れないくらい疲れているのなら休むか医者に行くかしなさい、それは赤信号です。そんな危険状態と無縁なのがウチの孫、昨日の体操服と制服のシャツを洗濯機に放り込んで、シャワーで体を洗い流しています、時間かかってるんで多分頭洗ってますね、ここで体の汚れをリセットするつもりのようです。
孫がシャワーから出てくるまで時間もかかりそうですし、今回はこのあたりで区切らせていただきましょう。もし良ければまた次も読んでくださいねー、ここまで見てくれてサンキュー!




