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ハグミープリーズ!-ウチの孫が美少女幼馴染を抱きしめて優勝する話-  作者: 自爆霊


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第6話_スリープウィズユー

「ただいまー、まあ誰もいないけど」

「私もただいまー、別に私の家じゃないけど」


 夕日が沈んで少し経った頃、真っ暗な家に二人が帰ってきました。順番に手を洗って荷物をリビングに降ろした二人は、早速お疲れ様会の準備を始めます、幸樹はサブスクしてるアニメ配信サービスをテレビで見るための準備をして、直美ちゃんはお菓子を取るためのお皿や袋を開けるハサミを用意しています。はいそこ今「なんで直美ちゃんが幸樹の家の皿を把握しているんだ?」とか思ったでしょ、昔からしょっちゅう遊びに来てたり泊まったりしてたからもう直美ちゃんはこの家に馴染み切っているんですよ、私も息子夫婦も幸樹もみーんな直美ちゃん大好きですからね、もはや半分身内みたいなもんです。

 そそくさと準備を済ませた二人がクッションに背中を預け、お菓子とジュースに彩られたローテーブル越しにテレビと対面します。


「さて、何を見ようか」

「私あれ、昔やってたログなんたらってアニメ見たい」

「あの猫さんが出てくるやつね、今日はいつものヤツじゃなくていいの?」

「うむ、今日はアレの気分」

「りょーかい」


 手元のスマホをポチポチと操作するとテレビの大画面にアニメが流れ始めます、静かになった二人がそれぞれの皿にあるカステラを同時に一口食べ、氷で冷やしたジンジャーエールを喉に流し込み、そしてポテチに手を伸ばし始めました。


「カステラとジンジャーエール、死ぬほど合わないな……」

「ね、ビックリするほど、合わない……」

「ポテチが無かったら死んでたなコレ……直美ナイス」

「我ながら良い判断だった、カステラは、後回し」

「だな、ひとまず後回し」


 まあそりゃ合いませんよね、甘い物に甘い物突っ込んでもただ甘いだけです、やるならコーヒーとか紅茶、あとはスコッチとかの甘くない飲み物と合わせるべきでしょう。ローテーブルからレッドカードを突き付けられたカステラが冷蔵庫の中に引っ込んで、再び二人並んで画面を眺め始めました。物語が始まってオープニングが流れて、主人公たちが先に進むたびに机の上のポテチが減っていきます。コップに注がれたジンジャーエールを飲み干して、冷蔵庫のジンジャーエールと氷を補充して、それが八割ほど減った頃に、直美ちゃんが口を開きました。


「ジンジャーエール、おいしいね」

「うまいよな、おばあちゃんがしょっちゅう飲んでただけはある」

「あの人は、お酒がメインじゃ、なかった?」

「……そういや、あの人がジンジャーエール単品で飲んでるとこ見たことないな」

「しょっちゅう、お酒飲んでたもんね」


 いや違うんですよ別に私は飲まないとやってらんないとかアル中とかそういうのじゃないんです、一杯をちびちび長く飲むタイプですしちゃんと休肝日も設けてましたし健康診断の結果が問題ない範囲で済むよう調整してましたし実際死ぬまで肝臓悪くしませんでしたし……まあ私の死因が老衰という時点で、私の飲酒に問題はなかったということです。幸樹と直美ちゃんがこんな印象になってるのは昼間に飲んでることが多かったせいでしょうね、昼間から夕暮れの間に飲んでることが多かったから、必然的に二人が遊んでいる時の私は大抵酒を飲んでいるのです、つまり二人が思っているほど私は飲みまくっていたわけでは無いのですよ。…………まあ、ジンジャーエールを単品で飲んでないのは本当ですけど。


「……ねえ幸樹、答えたくなかったら、そう言って欲しいんだけど」

「なんじゃ?」

「おばあちゃんが死んでから、寂しくなかった?」


 ……………………それは、どうでしょうか。幸樹が中学二年生だった時の夏に私が死んでから、幸樹はこの家で一人になりました。お父さんとお母さんが帰ってくる八月は家の中が賑やかですが、それ以外の十一か月はずっと静かなままです、だから多分、私たちは幸樹に寂しい思いをさせてしまっているのでしょう。……正直な話、答えを聞くのが恐ろしいです、幸樹に苦しい思いをさせてしまったのではないか、幸樹が私たちのために元気なふりを続けているのではないか、そんな不安が頭に重くのしかかります。

 そんな重苦しい私の心とは対照的に、幸樹はあっけらかんと、大したことでもないように答えました。


「うーん……別に? そりゃまあ多少は思ったけど、正直生きてた時に話したいことは一通り話したし」

「…………」

「あとほら、おばあちゃんが死んだあとも直美がいてくれたじゃん、だから別に寂しいとかは思わなかった」

「……ふふっ、そっか、なら良かった」


 …………うん、それなら良かった。お母さんもお父さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな幸樹のことを置いてどこかに行ってしまいましたから、愛情をどれだけ注いでも、それだけは誤魔化すことが出来ません、私たちは幸樹に辛いことを押し付けてしまいました。だから寂しくなかったなら、それはもう、本当に良かったです。まったく直美ちゃんには頭が上がりませんね、いつかコッチに来た日には最大限のお礼をしなければ。

 その答えを聞いて直美ちゃんも満足したのか、再び画面に向き合ってアニメの続きに目線を向けました。エンディングが流れて第二話が始まって、穏やかな時間が流れていきます。ポテチをつまんでジュースを飲んで、良いところで無くなったジュースを取りに行かせるためにじゃんけんをしたり、空になったポテチを下がらせて補欠のスナック菓子を開封したり、そして第二話が終わったタイミングで、直美ちゃんがふと声を上げました。


「あっ」

「何か忘れてた?」

「うん、膝枕するの忘れてた」

「うん? ……あ~、あったなそんな話も」

「危ない危ない、危うく、忘れるところだった」

「いや~……いいの? 俺は嬉しいけど直美は大丈夫? 倫理的に」

「大丈夫、私も嬉しい、それにハグしてる、今更」

「まあそれはそう、じゃあお願いします」

「よしやろう、すぐやろう」


 ぽんぽんと太ももを叩いた直美ちゃんが「おいでー」と幸樹を呼びます、幸樹も特に遠慮せずにポテッとスカート越しの太ももに頭を乗せました。ただなんか……思った以上にすんなりといって困惑している私がいます、いや膝枕自体は良いんですよ、私としては二人に善くいちゃついて好感度を上げ恋人になって欲しいので、こうしてベタベタすること自体は良いのです、ただハグ一つにジタバタ抵抗してた幸樹が、膝枕に関してはスッと受け入れたことが納得いかないのです。正直おばあちゃんとしてはハグより膝枕の方がハードルが高いと思うのですよね、なんかこう甘える感って言うか情けなさというか、「ハグしてほしい」って言うより「膝枕してほしい」って言う方が恥ずかしいと思うんですよ、取り繕わない感じというかぶっちゃけた感じというか、「メイド服着てほしい!」とかそういうレベルの恥ずかしさがあるとも思うんです、なのにこんなにすんなりと頭を預けてしまって。まったくウチの孫の羞恥心はどうなっているんだ、むしろハグを断ろうとしていたことの方がイレギュラーだったのでしょうか? 一体どうしてあれだけ抵抗していたのか、いつか直美ちゃんに話してほしいものです、おばあちゃんも横で聞くので。

 その孫といえば、直美ちゃんに頭を撫でられながらリラックスしてアニメを眺めています、昔から繰り返していたこととはいえ久しぶりなのに馴染み過ぎでしょう、なんかもうクッションに座ってた時よりリラックスしてるんじゃないですか? あと直美ちゃんの顔もすごいです、ものすごいニヤニヤしてます、口角の高さが普段の笑顔と比べて三倍くらいになってますよ、あっ直美ちゃんが孫の口にさっき開けたスナック菓子を一つ運びました、孫も「それはちょっと……」と言って渋っていますが閉じた唇へ執拗にスナックを押し付けてくる強情さを前に折れ、大人しくそれを食べました。あっ直美ちゃんその笑顔は流石にマズいですよ、ちょっと人に見せられない顔になってます、そんなにスナック食べさせて嬉しかったんですか。

 その後も直美ちゃんはちょくちょくスナックを幸樹の口にぶち込んでいました、時々起き上がった幸樹がジュースを飲むことはありますが、それ以外はずっと膝枕されたままです。そしてアニメの第三話が終わった頃、幸樹が眠そうになってることに彼女は気が付きました。


「幸樹、起きてる?」

「起きてる……」

「もしかして、寝落ちしそう?」

「しそう……眠い」

「寝落ちしそうだ、布団とか、出せる?」

「無理……ここに骨を埋める……」

「私の膝に、墓を建てる土地はない、布団出したげる、待っとき~」


 さっきも言いましたが直美ちゃんはこの家に馴染んでいるので、布団の場所も分かっています、幸樹を膝からどけた直美ちゃんが部屋から布団セットを持ってきてリビングに敷き、床に横たわってる幸樹をゴロゴロと転がして布団に寝かせました、雑だなオイ。ていうか孫も抵抗しろ、自分で布団に入れ、動くのが面倒だからってされるがままに転がされるんじゃないよ。


「そーれ、ゴロゴロ~」

「うわぁ~~……」

「ほらほら、布団敷いてあげたから、寝ときんしゃい、風呂は明日」

「うぅ……分かったよ母さん……」

「誰がオカンじゃ、ゴミは片づけとく、安心して、おやすみー」

「おやすみ……」


 幸樹を寝かしつけた直美ちゃんがそそくさとローテーブルを片付けます、残り少ないスナックはポポイと口に放り込んで袋はゴミ箱に、コップと皿は洗剤を垂らしたスポンジでちょちょいと擦って水洗いしたら水切りかごへ。あまり散らかさなかった分お片付けも楽ですね、五分とかからず片づけを済ませた直美ちゃんが荷物を持ち上げて帰り……そうになったところで、口元に手を当てて悩むようなそぶりを見せ始めました、なんじゃ? しばらく右往左往して唸っていた直美ちゃんですか「ま、いっか」と口にして寝ている幸樹の方に歩いて行きます、どういうことだってばよ。

 寝ている幸樹の隣に腰を下ろした直美ちゃんがひそひそと話し始めます。


「幸樹、幸樹、起きてる?」

「起きてる……」

「正直に、言って欲しいんだけど」

「なに……?」

「一人で寝るの、寂しくない?」

「別に……」


 えっマジ?


「正直に、言って」

「別に慣れてるし……」

「私たち、友達、困ったら、助け合い」

「まあ……それは……」

「幸樹、昔から沢山助けてくれた、私も助ける、だから正直に、吐け」

「…………」

「隣に寝てる人もいないし、家に誰もいない、幸樹、手をつなぐと良く眠れる人、寂しい、そうでしょ」

「……うん、全くもってその通り。やっぱ慣れてもそこは寂しい」

「むふー、やっぱりそうだった、ちょっと待っててね」


 直美ちゃんが部屋から出て行ってリビングがまた静かになります、えっていうかこれ同衾ルートあります? おばあちゃんが何も考えず叫んだ願望が叶うやつ? あばっばっばばばば落ち着け落ち着け焦るんじゃない私、同衾するならどっか行く必要は無いはずです、つまり同衾ではない、セーフ、合法です。というか話が急展開過ぎて、おばあちゃんが何も考えず色々喚いていたせいじゃないかという変な罪悪感が湧いてきます、死者に出来ることなんて死にかけの人間を現世に蹴り返すことくらいだから私の影響はないハズなんですけどね? また私の軽率な発言で事を妙な方向に転がしてしまったのかと思ってしまいました。

 あっ、直美ちゃんが戻ってきました、その両手にはお布団セットが抱えられています。


「私が隣で、手を繋いで寝てあげる、これで寂しくない、でしょ?」

「うん……でも……」

「でもじゃない、素直に甘えろ、私を見習え」

「……分かった、ありがとう」

「そうそう、それでいい、私には、好きなだけ甘えろ」


 そう言うと直美ちゃんは幸樹の隣にお布団を敷いて横になり、布団から幸樹の左手を掘り出してがっちりと握りました。


「こうしてると、昔みたいだね」

「そうだな……懐かしくて……落ち着く……」

「幸樹は寝つき悪いのに、こうしてると、すぐ眠っちゃったよね」

「そう…………だ…………な…………」

「そうそう、段々返事が遅くなって」

「…………」

「こうやって、すぐグッスリ」

「…………」

「昔は、落書きしたこともあったけど、今日は、イタズラしないであげる。おやすみー」


 そう言って五分経った頃には、直美ちゃんもすぅすぅと寝息を立てて夢の中に沈んでいきました。しかしまあ今日一日で一気に二人の仲が進展しておばあちゃんビックリしちゃいましたよ、グッジョブです直美ちゃん、これにはおばあちゃんも白州を開けざる得ません、まあコッチの世界だと山崎と白州は簡単に手に入るんですけどね、時間と材料に融通が利くので。

 ただふと思ったんですけど、これ二人の仲が進展したというより後退した関係が元に戻った感じなのではないでしょうか。というのも中二になるまではハグも膝枕もお泊りも手を繋いでのおやすみも全部やってたんですよね、ウチの孫がハグ等禁止令を出して後退した関係が元に戻っているだけなのではないでしょうか? つまり二人はまだ伸びしろを残しているということです、楽しみですね。おばあちゃんも二人がいちゃついている様子を壁のシミ視点で眺められて寿命が伸びましたよ、これからもこうやって仲良くしてくださいね。

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