第19話_ブライヴフロムペアレンツ!?
「それじゃあ行ってくるけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、流石に三日間くらいなら平気だよ」
時は八月前半のある日の朝、わが孫である渡辺幸樹が幼馴染の京極直美ちゃんに、本当に旅行に行っても大丈夫か最終確認をしています。実は渡辺家ではパパとママが帰ってくるたび、二泊三日の家族旅行に行くのが恒例となっています、旅行先は国内の良い感じな観光名所、温泉に入ったり水族館でエイを見たり、家族の思い出を稼ぐイベントなのです。が、今回は心配事が一つ、その間ぼっちになる直美ちゃんのことです。
「ちゃんと好きなだけウチに居座れるよう、直美ちゃん両親にも話は通してある、少なくとも親に悩まされることは無いさ」
「そうそう、パパとママでちゃ~んと話は通してあるから安心せい!」
「そういうことだから、幸樹も安心して旅行に行ってくるがよい」
「まあそれなら、寂しかったら電話とかしてね?」
「はーい、んじゃほらギュッとして! ハグミープリ~ズ!!」
ギュっとされた直美ちゃんがいつも通り奇声を上げて、いつも通り誰もツッコミません、パパとママもスルーかぁ……そして元気と愛情を摂取した直美ちゃんに見送られて、渡辺一家が毎年恒例家族旅行へと出発しました。
「直美さん?」
「やっ」
「さすがに二十分はやり過ぎじゃない?ちょっと休憩しよう?」
「やーっ」
そして旅行から帰った姿がこちらになります、見事な即落ちニコマですね。帰宅した渡辺一家を出迎えた直美ちゃん、雑談もそこそこに幸樹が手洗いうがいを済ませた瞬間、「それじゃ、幸樹借りるんで」と言って彼を彼自身の部屋へと引っ張って行ってしまいました、その結果がこれです。
直美ちゃんは三日間のぼっち生活で構ってもらえなかった分の栄養を取り戻すため、背もたれクッションと孫の間に挟まって様々な鳴き声を上げています、ちなみにさっきまでは「みゅぃ~……みゅぃ~……」とマスコット妖精の寝息みたいな鳴き声を出していたんですよ、かわいいですよね。
「いや俺はいいんだけど、流石に飽きてこない? あと俺の体重かなりかかってるよね、そろそろ痛くなってくるよね」
「飽きてこないよ? それに飽きたらスマホ持ってきて続行するよ。それにさっきから言ってるけど体重かかってる方が幸せだから、是非そのままでお願い」
「なんか直美……やっぱり癖歪んでない?」
「今更だね~、ハグされて「もっと強く」なんて言ってる時点で分かり切ってたことでしょ」
「まあそれはそう、とはいえやる側としては良さがあんま分からないのよ」
距離が縮まったせいで会話の中でエロい話への遠慮が無くなりつつありますね、言い出せずやきもきするよか百倍良いです。しかしまあ孫はレベルが低いですねぇ、本当にレベルが低い、抱きしめるだけで満足するなぞ生娘のような初々しさよ、男ですけどね? せっかく長い付き合いで好感度積み重ねまくってるんですから、もっと倒錯的な方面へ走るべきだと私は思うんですよ、とりあえずメイド服・哺乳瓶・縄の不道徳三種の神器は必須ですよね、三種の神器に謝れ? それはそう、ごめんなさい。
さて謝ったので話を続けます、とにかくこういうのは倒錯的であればあるほど「それを許されるほど愛されてるんだ」って感じで多幸感が増すのですよ、そりゃ程度問題はありますけども、せっかく恋人ができたのですからそのへんを満喫しないのは本当に勿体ないと思うんですよ私。現代日本ではエロ=悪みたいな風潮がありますけどね、だからこそ信頼できる相手に受け止めてもらうべきなんだろうと、その背徳感でハイになるべきだろうと思うのですよ、背だけに。あと今(お前の若い頃にメイド文化無いだろ)って思いましたよね? 昭和生まれナメんなよお前、主従ごっこなぞ太古の昔からある一般性癖じゃい、使用人とか女中そういう文化はありましたからね、当然私もそのあたりの萌えには理解がありますとも。
まああんま話し過ぎて十八禁認定されても困るので、話を孫たちに戻しましょう、ちょうど今直美ちゃんが自分の好みを理解してもらうため、適切な言葉を探しているところです。
「うーん、どう言えば伝わるかな? なんというかあれ、「お菓子の山に埋もれたーい」みたいな、好きな物に沈みたい願望ってあるじゃん?」
「あるな、札束風呂とかビール浴びるとか」
「そうそう、そういう感覚、好きな物でペチャンコになりたいっていう……あっ良い例え思いついた! あれだよあれ、美女に抱きしめられて窒息死したいってヤツ! あんな感じ! 幸樹だって私の胸で窒息死するなら本望みたいなとこあるでしょ!」
「あーなるほどそういうことか、完全に理解した」
「えっ、私の胸に関しては冗談で言ったんだけど…………キミこんな貧相な物で喜ぶの? マジ?」
おっと直美ちゃんが"真実"に気づいてしまったようですね、そうですあなたは気を使われてるだけと思っていたようですが、孫はあなたの最低限の柔らかさだけはある胸を性的な目線で見ていたのです。孫から見た自分が胸を押し付けまくるタイプの女だと知ってしまった直美ちゃん、混乱を抑えてこの話を先送りにする努力を始めました。
「いや喜ぶが、だからハグはヤバいって昔から自制してたんだが、それをお前はよぉ~」
「ちょちょちょちょっと待って、その話先送りにして! 一ターン休みして!」
「そんな慌てる? 今更じゃない? 「成長期を過ぎた女子がハグはヤバイって」とか俺言ってたでしょ」
「気を使ってるだけだと思ってたんだよぉ! ちょっとあのっ、色々話したいとは思うけどとりあえず告った後にして! そしたら全部聞くから! ね!?」
「はーい、そこまで動揺するとは思わなんだ、それじゃあほら、早く離れなされ、密着しては恥ずかしかろう」
「…………それは続ける、ほら、ギュっとしろ」
「続けるんだ……しかも正面に来るんだ……」
直美ちゃんしれっと正面に移動して抱き合い始めましたね、その卑しさは評価点です、ただ付き合ってないのにこの距離感の近さなのが少し心配です、このままダラダラと告るのを先送りにして関係が変わるのを怖がるような段階に入ってしまった場合、またNTRの可能性が発生してしまいます、マジでやめてくれよ……。
しかしそんなおばあちゃんの心配はこの後、息子夫婦の手によって一瞬で解決されたのです。
一時間かけた直美ちゃんの栄養補給が終わり、直美ちゃん含む渡辺一家が机を囲んでいます、家族会議タイムですね。とは言っても別に物々しい話題とか「息子さんをください!」とかそういう感じではありません、家族旅行のような毎年の恒例行事が他にももう一つありまして、それについてのお話をするための会議なのです。
「さて幸樹、ママたちは三日後いつものように二人で旅行に行ってくる、今年は四泊五日な」
「はいはい、いつものねー、何かいつもより二日多いけど。で、今年の袖の下は一体?」
はい、何のことか分からないでしょうから、順を追って説明しましょう。まず第一にパパとママは、毎年三日間夫婦旅行に行きます、こうやって一緒に過ごせるのも八月いっぱいですからね、子供には見せられないようなイチャコラ欲を旅先で存分に満たすのです。そして第二に袖の下とはどういうことか、これは家族で過ごせる貴重な八月、その三日間を幸樹一人にすることへの埋め合わせです。幸樹は良い子なのでそこらへんちゃんと理解してくれますがそれはそれ、ちゃんと誠意を見せることで後ろめたさの無い、円滑なハネムーン(毎年恒例)を行うことが出来るのです。
しかし今年の賄賂は、例年とは一味違いました。
「ふふん、今年の饅頭はこれ! ホテルの二泊三日宿泊券じゃい! もちろんレジャーとか充実してるヤツね」
「えっ幸樹毎年そんなの貰ってんの? すご」
「いや、いつもは水族館とか遊園地のチケットだよ。どうしたのママそんな気合の入った物をくれるなんて、実は六泊七日予定だったり?」
「それは俺が説明しよう」
「小学二年生からママと付き合ってたパパだ」「尊厳切り売りされたパパだな」
かわいそうなパパ……直美ちゃんにまで不憫枠として認識されてしまったのですね……まあそういう遊びなんで大丈夫ですけど、パパとママは仲良しなので、これくらいはじゃれ合いの範疇なのです。
それはそれとして宿泊券ですか、一気に額が跳ね上がりましたね。今まで幸樹に渡していた袖の下は映画やライブのチケット、優待で貰った遊園地のパスポートなどの二万円はしないくらいの物でした。ちなみにパスポートだった年はおばあちゃん引率の元、直美ちゃんと幸樹の三人で遊びに行きましたよ、幼い二人の体力に配慮した結果あまりアトラクションは巡れませんでしたが、それでも孫たちと行く遊園地は普段とは違う楽しさがありました。
話を戻しましょう、不憫枠のパパがこの妙に気合の入った黄金の饅頭について解説してくれるそうです。
「あんま弄るなよ、泣くぞ、まあそれは置いといて。これはだな、高校に入ってもちゃんと勉強してたり、おばあちゃんが大往生した後も家事を頑張って生活してたり、そういうこの一年で頑張った幸樹へのご褒美なんだよ、おばあちゃんが死んで家に一人になって、高校に入って環境が変わっても、お前は頑張って、非行にも走らず生活してただろ? だからこれはそのご褒美だ、遠慮なく受け取るが良いわ」
「そっか、うん……それなら、遠慮なくもらうよ」
ほほうそういうことでしたか、我が息子ながら中々粋な真似をするものです。親に褒められた幸樹も嬉しそうですね、感動的な家族愛です、隣で聞いてる直美ちゃんも「良い話だなぁ」としみじみしています。しかしここで何か言いたそうにうずうずしている人間が一人、そう、ミス自由人こと幸樹のママである渡辺香織ちゃんです、一体何をするつもりなのでしょうか。そもそもママとパパはこの好き放題喋っているおばあちゃんの子たちなんですよ、それがこんな、無難で道徳的なだけの行動をするハズがありません、きっと何かしらの企みがあるのでしょう、いったい何をするつもりなのでしょうか。
「まあネット予約だからチケットの現物は無いんだけどねー、あと今回は直美ちゃんの分も取ってあるから、一緒に行ってらっしゃい」
「え!?」「なんて?」
前者が油断していた直美ちゃん、後者が耳を疑った幸樹です、何の脈絡もない急展開に二人共とても驚いてます、良い反応しますね。しかしホテルの宿泊券というチョイスには最初驚きましたが、そういうことでしたか、パパとママは幸樹が早く告るよう発破をかけるつもりのようです、流石はおばあちゃんの子供達、思い切りが良く容赦がありませんね。今まではプレッシャーにならないようちゃんと自制していましたが、ここまで来れば遠慮する必要も無いという判断でしょう、いいぞいいぞ、おばあちゃんの分もガンガン背中押しまくってやるがよい。
「フハハハハ! このママとパパがあんな殊勝な理由だけで動くとでも思ったか! 一年頑張ったで賞はサブ目標……真の目的は貴様らの告白の舞台を整えることだったのだよ! ハーッハッハッハ!!」
「それはそれとして、頑張ったで賞も本当のことだからそこは心配しないでね。せっかく新婚期間なのに、パパたちが旅行で三日間も幸樹のこと借りただろ? その埋め合わせだと思ってくれれば」
「えっちょっ、幸樹これ受け取っちゃっていいの? 気軽に受け取るには中々ヘビィな気がするけど」
「厚意は受け取るのが礼儀だぜ直美、気になるなら今度コーヒーでも淹れてやればいいさ、あとパパ別に新婚じゃないから、言いたいことは分かるけど」
「伝わるなら良いじゃねーかよー、まあ直美ちゃんそういうわけだから、安心して受け取るが良い」
「そういうことなら、うん、ありがとうパパとママ、ありがたく頂戴する」
よっし良くやった我が子たち! それでこそ渡辺の一族よ! やっぱ仲間がいるっていいですね、同じ孫たちの応援団であるパパとママがいるだけでこんなにも話が進みやすくなる、死しても尚我々の絆は不滅です。あと幸樹万が一ここでチキったら許さんからな、大丈夫だとは思ってますけど、そんなことになったら毎週一回タンスの角に足の小指をぶつける呪いをかけますからね! ほらっパパとママもちゃんと釘を刺しなさい!
「さて幸樹……分かってるとは思うが、お前これでチキったら許さんからな? キッチリ決めて来いよ?」
「パパの言う通りだ幸樹、もしこの機を逃したら直美ちゃんが泣きながらNTRされるおばあちゃん憤死モノの展開が確定すると思え」
「分かってる、安心して」
「……なんか楽しみになってきた……期待してるよ? 幸樹」
「が、頑張る」
よし、おばあちゃんの分もキッチリ釘を刺してくれましたね、これで私も一安心です。これで二人が旅先の部屋で良い感じのゴールインを決めることは確定したも同然……! ここから先は勝ち確ウィニングラン状態です……ただ騒ぎすぎるとフラグになりそうな気もしますね、この辺でやめておきましょう、おばあちゃんもそろそろ家に帰っておじいちゃんの打ったそばをいただくとします、そうそうおじいちゃん死んでからそば打ちにハマったんですよ、これが中々においしくてですね、いつかパパとママがこっちに来た時振る舞うのが楽しみです、まあ来るのが遅いに越したことは無いですけど。
追記:どうも、未来のおばあちゃんです。期待させておいて申し訳ないのですが『二泊三日のホテル旅行編』は本作に掲載されません、本当にすまない。理由として、本作は旅行に行く前に決着が着いてしまうのです、丁度良い文字数に収めるために、そして私が旅行話を全然上手に書けないことを隠すためにも、旅行編が書かれることは無いのです、本当に申し訳ありません。




