第18話_ミートトゥーマミー!
こんにちは、おばあちゃんです。今回は前回の続き、パパが昔の、直美ちゃんが孫を好きになってくれるか気を揉んでいた頃の話をしているところからです。
そうそう、孫が直美ちゃん大好きなのは確定としても直美ちゃんからの好感度がイマイチ見えてなかったんですよねー、だから当時は彼女が孫のメインヒロインになってくれることを内心で祈っていました。いやだって当時から直美ちゃん顔も中身もメッチャ可愛いかったんですもん、孫もそれなりの容姿はありますが直美ちゃんの美少女力には一段劣る、こんな男選び放題みたいな子が孫を選んでくれるかと言うとかなり怪しいものです。まあその後の出来事で杞憂だと分かったんですがね?
「で、転機になったのがおじいちゃんの死んだときだ」
「おじいちゃん起きるの遅いなー、とか思って見に行ったら死んでたんだよな、絵に描いたような老衰だった」
「穏やかな顔してたよねー」
「そうそう、いい死に様だったよ。とはいえ俺らは幸樹が心配だった、葬式が終わって俺らが出張に戻った後、ばあちゃんしか居ない家で幸樹が寂しさと戦わねばならないと思うと本当に心配だった」
「そうだねー……あの時は本当に心に来たよ、直美がいなきゃ耐えられなかった」
「幸樹たくさん泣いてたよねー、抱きしめたり膝貸したり頭撫でたり、甘やかし甲斐があったよー」
「そうそれ、それなんだよ、じいちゃんが死んで幸樹が苦しんでいたとき、直美ちゃんはコイツが崩れ落ちないように一緒にいてくれただろ? 家族が死んだ人間なんてのは、露悪的な言い方をすれば面倒事だ、それなのに一緒にいてくれたってのは俺たちからすりゃそれはもう、本当にありがたい話だったわけ。そして君がここまで息子に入れ込んでくれてると分かった俺らは「これは結婚する、いやするべき」と確信を持って、二人に無言の応援をしていたというわけなんだよ、ママは時々口にも出してたけど」
「えーと……あー……うん?」
「幸樹は処理落ちしてるな、まあ仕方ない」
「えーと、つまり……これは……親公認、ということ?」
「まあそうなる、直美ちゃんは要点をキッチリ理解できて偉いぞ」
「ほほう……?」
ニヤっとした直美ちゃん、本当に公認か試すべく孫にちょっかいをかけ始めました。まずはほっぺをつついてみて……大丈夫、次は腕を抱きかかえてみる……「やりおる」と言われた、そしてその腕を持ち上げ、人差し指に噛みつこうとしたところで、正気を取り戻した孫が「何やってんの……?」と直美ちゃんから自分の手を取り戻しました。
「……? 直美さんや、何故噛みつこうとしてたんだい?」
「いやほら、指なら付き合う前でもギリギリセーフかなーって」
「もしかして噛みつくことをいかがわしいことだと思ってらっしゃる?」
「いやそれはエロでしょ、それが許されるという事実が既にエロだよ」
「そうだぞ息子よ、それは間違いなくエロだ、それはそれとして……わたしは一向に構わんッッ!」
「ほらほらパパも良いって言ってるよ、可愛い可愛い直美ちゃんのためその人差し指を捧げてくれたまえ」
「はーい、それはそれとしてそんなもんか……そんなもんなのか?」
「そんなもんだぞ、息子よ」
「そっかぁ」
指をはむはむされながら納得した孫、ひとまず彼女が満足するまで指を貸してやることにしたようです。
「そうそう、直美ちゃんの家庭問題についても話しとくよー」
「はーい」
「まず初めに幸樹、お前は本当によくやった、一番大事な時に一緒にいることは一番難しくて、そして一番大事なことだからな。これからもこの子が困ってる時はお前が支えて、一緒に居てあげなさい、家に泊めてご飯も作ってやって、昔の直美ちゃんがしてくれたように、しっかりお前が支えてやるんだぞ」
「ありがとう、その言葉に甘えさせてもらう。そうだ、一応直美に食わせた物と価格メモしてあるけどいる?」
「面白そうだし見せてもらう、でも別に金払うとかはしなくていいからな、というかもし俺らに遠慮して飯の度に帰していたなら俺たちがお前をシバいていたところだ」
「ありがてえ……マジでありがてえ……」
「おうおう有難がるがよいわ、そして子供らしく親に甘えるが良い」
家庭問題の話はサラっと終わりましたね、重い話を長々と真剣に話しても疲れるだけですから、良いことです。そしてパパの旅行話が始まろうとするタイミングで『ガチャリ』と、鍵の開く音がしました、ママの帰宅です。
「ヘイヘイ息子と娘予定の直美ちゃんよー、お前らのママである渡辺香織ちゃんが帰ってきたぞぉ……って……何で■■■■してんの?」
「っ~~!?」
「痛ッ!? ちょっと直美ビックリしたのは分かるけど痛いって!」
「ごめっごめんね!? だってセ「言うな言うな分かってるから」う~~……」
「おうママ、まずお帰り、変わらず元気かつ楽しそうで何よりだよ。そしてヤってねえよ何色ボケ極めてんだ、その目玉は飾りか?」
そうそう、ママはこういうフリーダム極めてる人です、今まで直美ちゃんの前では(比較的)猫を被っていましたが今日は全てを曝け出してますね、幸樹とくっついたことで身内判定したのでしょう。その点幸樹は慣れているのでちゃんと雑に扱っています、急に口が悪くなって読者の皆様は驚いたでしょうがママの悪ノリを相手するならこれくらいが丁度良いのです、というかそうやってディスられる前提でママも話してますから。
「人差し指はむはむさせてるのにそう言い張るのは無理があるだろー……まいいや、パパがいるってことは真面目な話は終わってるべ?」
「終わってるぜー」
「よしよし、んじゃあこっからはママによるフリートークタイムだ、ゲストはいつも通りパパね」
「はい、実質レギュラーなゲストのパパです」
そしてここからはママの一方的なトークタイムが始まります、孫たちがさっきの発言で混乱していることもあり、ママが会話の主導権を完全に握りました。一応彼女の名誉のために弁明しますがいつもこんな感じじゃないんですよ? 少なくとも普段だったらちゃんと会話して相手にもターンを渡します、ただほら、今日は一年ぶりの息子にテンション上がってますから。しかも実質彼女ができたとなってしまってはスーパーハイテンションモード、おばあちゃん直伝のフリートークを始めてしまうのも仕方ないことでしょう。
「さて二人は現在幸樹の告白待ちということだが、察するに腹を括るまでの間に他の女が盗まないよう口約束をした形だろう? それ自体はとても良いぞ、なんせ何も言えずNTRされるのが恋愛漫画における幼馴染キャラの定石だからな、少なくとも今の時点でも直美ちゃんは立場に胡坐をかいて無様晒した凡百のチキンガールたちを大きく上回っている。しかし、しかしだ、それだけでは足りない、さて、パパは何が足りないと思う?」
「速さが足りない」
「その通りだパーパー、良いか二人共、今からとても大事なことを言う、本当に大事なことだからしっかり聞くように」
「へーい」「はーい」
「大事なこと、それは──付き合うのは早ければ早いほど良いということだ、無論『無理のない範囲で』という話ではあるがな」
あなたはちょっと早すぎましたけどね、なに小学二年生の段階で男見つけて付き合ってるんですか、おばあちゃんビックリしましたからね? 幼いパパを引っ張ってきたあなたが「しょうらいむすこさんとけっこんします、これからよろしくおねがいします」なんて言ってきたんですから、しかも子供のごっこ遊びだと思ったら普通にガチですし、息子が覚悟できた瞬間にサクサク次の段階へ進めますし、挙句の果てには就職した一年後に本当に結婚しますし、何者なんですかあなたは。まあ息子としっかり幸せになってるからおばあちゃんたちは一向に構いませんけどね、幸せならオッケーです。
「あのな、今ってのは今だけなんだ、世のパパとママたちがなーんで子供の写真をたくさん撮るのか分かるか? この瞬間の子供は今しか見れないからだよ、赤ん坊にミルクをやったり三歳児を肩車したり、人間っつー生き物は『今しか見られない姿』が多すぎるんだよな。で、これは恋人関係にも同じことが言える、例えば直美ちゃん? 小学生の頃の幸樹、その抱き締め心地を覚えてる?」
「そりゃ覚えてるよー、幸樹も覚えてるでしょ?」
「そうだな、今より頭身が低かった」
「幸樹もねー」
「そう、二人は昔から知り合ってるからその辺知ってる、じゃあ二人が高校になってから知り合っていたらその感触を知ることは出来たか?」
「あー、できないな」
「できないね、そういうこと?」
「そういうことだ、知り合うのが早ければ早いほど思い出が増える、それはメチャクチャ大きいアドバンテージなのよ。で、ここからが本題、二人は小学生の頃のキスの感触、口の中の味を覚えてる? そりゃ知らないよね、キスしてないんだもの」
ママのフリートークは止まりません、女であるのを良いことに触れにくい話題にもガンガン突っ込んでいきます。重ね重ね彼女の名誉のために言っておきますが、彼女はちゃんと相手を見てこういう話をしています、孫たちにはここまで踏み込んだ話をしても良いだろうとちゃんと判断して、こういう話をしているのです。ほら、実際二人共ちゃんと話を聞けていますから大丈夫なんですよ、ママは昔からその辺のバランス感覚が上手いのです。
「つまり私が言いたいのはそういうことよ、腹括るのに時間かけるのは良いけど、早けりゃ早いほど良いってことも覚えときなさいな、実際私は小学二年生のパパの唇の感触を知っている事実だけで自分が全人類トップクラスに良い人生を歩んでいるという確信を得ているわよ、二人もそういう優越感を得るべきだと、私は思うの」
「以上、ママにしれっと尊厳を切り売りされたパパがお送りしました」
「かわいそう……」「いつものことだから、かわいそうだけど」
「必要だから仕方ないでしょ、ほらほら後で何でも一つ言うこと聞いたげるから許して?」
「しょうがないなぁ」
「そうそう、幸樹がちゃーんと直美ちゃんに構ってるか抜き打ちテストするからちょっとこの子借りてくわよ、ガールズトークしようぜ直美ちゃーん」
「はーい、んじゃちょっと行ってくるねー」
そして食卓には尊厳を切り売りされたパパと、それに同情の目線を向ける幸樹の二人が残りました。
「……ココア、飲む?」
「飲む……」
優しさの籠ったココアが、パパの傷心を癒してくれることを祈ります。まあママがこんな性格になったのは私のせいなんですけど、ママがやったことですから、ワタシ、ワルクナイ。




