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異世界で質屋を

作者: アルジ

初めての投稿となります。

短編小説で投稿なので設定がゆるゆるです。

「この指輪は……ダイヤじゃなく、合成石でした。枠は金でできてるので、枠の金の重さでの質預かりになります。」


瀬戸賢治、四十二歳。

二十年以上、九州の大手の質屋で、ブランドバッグ、時計、貴金属、骨董品の真贋、価値などを学び、ようやく自分の目に誇りを持てるようになり、先日独立して自分のお店を開いた。


この日も最後の客を相手に、静かに査定を終え、いつものように質札を渡し、深く頭を下げ、客を送り出そうとした時


「動くな!!金を出せ!!」


飛び込んできた若者が、ナイフを突きつけてきた。

瀬戸は反射的に、客を庇う


「やめなさい。そんなことしても、未来は変わりませんよ。」


「うるせえんだよ!」


──胸に、焼けるような痛み。

ナイフが、深く刺さっていた。


瀬戸の身体はそのまま、ゆっくりと床へ倒れた。


(……やれやれ、最期がこんな終わりかたとは…せっかく店を開いたばかりなのに)


目を閉じる間際、どこからか声が響いた。


『あなたの“眼”は、私の世界にも必要です、私の世界の物の価値を正しい方向へ導いてください。今のスキルと私の世界で必要なスキル、様々な道具も授けます。』


(なんだ……それは……)



──次に目を開けたとき、店舗の内装や道具はそのままだったが窓から見える外の風景は一変していた。


起き上がって、慌てて店の外に出てみるとそこは、中世ヨーロッパの世界と日本の江戸時代のような様々な世界が混在する、不可思議な町の中だった。


振り返り自分の店に目をやると、古風な蔵の形の建物、そして看板


《瀬戸質屋》買取・質・販売



(……最近流行りの異世界転生って、こういうのか、私の仕事道具ごと異世界転生とはありがたいのですが…どうしたものやら)


瀬戸は転生した翌日から、とりあえず異世界にて“質屋”を始めた。


数日は覗く客はいれど、店の中まで客は来ず、神様からの贈り物だろうこの世界の様々な鉱物、宝石、道具、魔物、動物、植物の図鑑や歴史書などの書庫があり、カウンターに座りその本で知識をつけたり、残っていた買い取った品物が魔道具へと変わっていたので店頭で販売するための点検、値段をつける日々が続き、お金も何故か金庫にあった日本円がこの国のお金になり、貨幣価値もあまり変わらなかったので、食うには困らなかった。


(転生させてくれた神様に感謝だな)


やはりというべきか、質預かりの品物はない


(俺が死んだ後の質物どうなるんだろう…まぁあの熊みたいな組合長がなんとかしてくれてるだろうな)


数日が過ぎ、最初に訪れた客は、見た目に反して騒がしい少女だった。


「おっちゃん! これ、買い取ってくれ!」


テーブルにドン、と置かれたのは奇妙な宝石のような塊だった。

脈動するように光り、時折火花を散らしている。


「いらっしゃいませ……これを買取ですか?それとも質ですか?」


「Bランクの魔獣から剥ぎ取った“魔核”。売って次の探索の旅費にしたいの!買い取って!」


瀬戸は黙って手に取り、目を細め、

──熱い。鼓動のような圧力を感じる。だが、芯の方に違和感がある。ルーペで中を覗き


(これは……本物じゃないな)


「これ、当店では買取してません。」


「なっ! うそつけっ、買い取りできないって、おじさんに魔核のなにが分かるのよ!」


「買取できないのは、本物の魔核は、芯の熱が一定なのですが、魔素の流れが不安定すぎて暴れています。きっと分解した“残核”を固め直した代物。だから買い取れないんです。」


少女はしばらく固まった後、目を見開いた。


「……なんで分かるの?」


「それが私の仕事だからです。」


少女はぐぬぬ……と唸ったあと、ふっと笑った。


「……あたし、フィリア。実はちょっと試したの」


「試したんですか?」


「この町に、急に変な鑑定屋ができたってギルドで聞いてさ。ギルド長からほんとに“見抜ける”か、試してこいって言われたの!」


「鑑定屋ではないのですが…お嬢様、合格点はいただけましたか?」


「へへっ合格!おっちゃんすごいや。本物の鑑定士だよ、ギルドの連中にも伝えとくね」


翌日、フィリアは再びやって来た。


今度は本物の魔核を持ってきた。


査定も価格も満足だったようで、それ以来、彼女は常連となった。


実はそんな彼女は国でも有名なSランクの冒険者で、彼女の持ち込む物の鑑定、買取に苦労する話はまた別の話。



そのうち「物の価値を見抜く店、良心的な販売価格」として噂が広がり、冒険者、商人、貴族までもが瀬戸の元を訪れるようになった。


ある日、ひときわ異様な気配をまとった黒ずくめの男が来店した。


「……これは、我が主人の家に伝わる“王家の証”らしいのですが、主人が急遽お金が必要という事で質預かりをお願いしたい。」


そう言って差し出されたのは、金色の紋章が刻まれた古代の指輪だった。

玉座の象徴とも言われる「聖印の指輪」。本物なら国が動くレベルの一品だ。


瀬戸はそれを手に取り、静かに目を細めた、愛用のルーペで覗いた。


(刻印は精巧、金の純度も高い、だが……何かが違う…あっそこが違うのか)


「これは、細工や枠は精巧にできていますが、私が知ってる指輪に使われている宝石と違うので、質預かりができません。」


「……!」


「王家の証は、宝石が必ず“ルビー”で作られますが、これは違って、レッドスピネルが使われています。こっちだとまだ混同されているのかな、残念ながら、王家の証としては、当店ではお取り扱いができません。」


男は沈黙した後、スッと立ち上がり、深々と頭を下げた。


「……見事です。貴殿こそ、真の“鑑定士”だ」


そう言って黒ずくめの男は丁寧に一礼し退店して行った。


それから数日後、王都から正式な使者が現れた。

「瀬戸様、王家の上級鑑定官としてお迎えに上がりました」


──彼は断った。


「私は質屋です。高く買って、困ったお客様の品物を預かって、万が一期限が過ぎたら販売する。そもそも、あれは簡単な宝石の鑑別で、違うと見抜いただけです。私に王家で鑑定なんて、性に合わないので申し訳ありません。」


それでも彼の名は広がり続け、


魔道具、呪われた宝石、古の聖剣、何故か現代日本のおもちゃまでも、彼は鑑定する。


誰もが価値を求め、嘘を隠す世界で、今日もまた、瀬戸質屋は暖簾をかける。


「本日は、お買取ですか?質ですか?」

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