05 誰にも届かぬ恋心を胸の奥に秘めた夜
夜が要塞全体を包み込み、星の光がそびえ立つ城壁を淡く照らす。銀色の月明かりが静かに窓から部屋へと差し込み、穏やかな光が揺れていた。
リアはそっとバルコニーのガラス扉を開き、夜風が優しく吹き抜ける夜の世界へと歩み出す。
白いキャミソールワンピースをまとった彼女は、静かに月を見上げた。その柔らかなシルエットは月光に照らされ、より一層しなやかで美しく映えている。
栗色の長い巻き髪は銀の花冠で飾られ、星と月の光を受けてかすかに輝いていた。その姿は、まるで咲き誇る百合の花のように美しく、それでいてどこか儚げだった。
一方で、真一はすでに深い眠りについていたが、リアの心は夜風のように揺れ動き、落ち着かない。
胸の奥で言葉にできない想いが渦巻き、不安と無力感が入り混じる。
そんな彼女の背後から、静かに近づく足音が聞こえた。
振り向くと、愛理が温かい飲み物を二つ手に持ち、心配そうに微笑んでいた。
「どうしたの? まだ眠れないの?」
リアは小さく首を横に振り、ぎこちなく微笑む。
「うーん…今日は買い物の後、なんだか頭がいっぱいで、なかなか寝つけなくて。」
愛理はそっと彼女の隣に寄り、手に持っていた飲み物を優しく手渡す。そして、バルコニーの手すりにもたれながら夜空を見上げ、ふっと笑みを浮かべると、軽くからかうような声で言った。
「もしかして……あのスカートのせい?それとも、誰かさんのせい?」
リアの手が思わず小さく揺れ、持っていたカップの中の液体がわずかに波打つ。頬が一瞬にして赤く染まり、慌てて視線を落とした。愛理の顔を見ることができない。
「ち、違うよ……そんなことない。」
愛理はくすっと笑い、なおもからかうように続ける。
「その反応、全然考え事してない人のものじゃないよ~?」
リアは何も言えず、指先でそっとスカートの裾を握りしめる。しばらく沈黙が続いた後、彼女はぽつりと呟いた。
「……愛理ちゃん、ありがとう。今日、あなたがいなかったら、私はずっと自分の本当の気持ちに気づけなかったかもしれない。」
愛理はからかうのをやめ、優しく微笑んで言う。
「リア姉、何か話したいことがあるなら、遠慮しないで言って。ひとりで抱え込まないで。」
リアは深く息を吸い込み、胸の奥に溜まっていた想いを、ようやく言葉にした。
「私……真一くんのことが好き。」
「チームに入ったときから、彼の強くて優しいところに惹かれていたの。でも……告白する勇気がなくて……。」
彼女の声は次第に小さくなり、どこか諦めにも似た色を帯びる。
「真一くんは、愛理ちゃんの前ではあんなに自然に笑っているのに、私の前ではどこかぎこちない気がして……。きっと彼にとって、私はただの友達か、チームメイトでしかないんだと思う。」
愛理は驚いたように瞬きをしたあと、ふっと優しく微笑んだ。そして、そっとリアの手を握りしめる。
「リア姉は部外者なんかじゃないよ。リア姉は、私たちにとって大切な仲間であり、家族だもん。絶対に欠かせない存在なんだから。」
リアの瞳に、涙の雫がにじんだ。そっと首を振り、小さく微笑みながら呟く。
「……ありがとう、愛理ちゃん。」
愛理はしばらく考えたあと、より穏やかな声で言った。
「真はちょっと鈍感なところがあるけど、リア姉に対して特別な気持ちを持っているのは、私にもわかるよ。本人はまだ気づいていないかもしれないけど、少なくともリア姉が『いてもいなくてもいい存在』なんかじゃないのは確かだよ。」
リアは涙を浮かべながら顔を上げたが、それでもなお、固く言い切った。
「それでも……私は、自分の気持ちを押し付けるようなことはしたくないの。彼を困らせたくないし、今の関係を壊したくもない。それに……愛理ちゃんの存在は、真一くんにとってかけがえのないもの。それがわかっているからこそ、私は自分の気持ちに期待しすぎちゃいけないって思うの。」
愛理は切なそうにリアを見つめた。月明かりの下、彼女の柔らかなシルエットはどこか頼りなく映る。愛理はそっとリアを抱きしめ、その声には深い優しさと慈しみが滲んでいた。
「人の心って、誰かが誰かに取って代わるものじゃないよ、リア姉。それぞれに、それぞれの大切な場所があるの。リア姉にも、自分の気持ちを伝える権利があるんだよ。ずっと心の中に閉じ込めていたら、きっともっと苦しくなるだけだから。」
リアは俯いたまま、そっと唇を噛んだ。まるで、自分自身の心と戦っているかのように。そして、かすかに震える声で、それでもはっきりと言葉を紡いだ。
「……たぶん、私はこの気持ちを胸の奥にしまって、静かに彼を見守るしかないんだと思う。もし、真一くんが本当に私に特別な感情を抱いているのなら……いつか、きっと気づいてくれる。だけど、それまでは……この想いが私たちの重荷にならないようにしたい。」
愛理はそっとため息をつき、優しくリアを抱きしめた。
「リア姉は本当に優しいね。いつも自分より相手のことを考えて……。でも、どんな選択をしても、私はリア姉を応援するよ。だって、リア姉はずっと私たちの大切な家族だから。だから、私たちはいつだってリア姉のそばにいるよ。」
夜風が静かに吹き抜け、月明かりの下で二人の姿がやわらかく浮かび上がる。リアはそっと愛理の肩にもたれた。心の中ではまださまざまな感情が渦巻いていたが、それでも今だけは、穏やかな温もりに包まれていた。
これで序章は終了です!皆さんは今回のリアを気に入ってくれたでしょうか?
第23章の執筆は、冒頭部分でずっと悩んでしまい、なかなか納得のいく形にできませんでした。それに加えて仕事や個人の資産管理で忙しくなり、しばらく執筆を中断していました。でも、今回はあまり長く止まらないようにしたいですね。
さて、次の章は5日後に公開予定です!いよいよ戦闘編に突入しますので、どうぞお楽しみに!