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04 白銀の花冠に君への秘めた想いを誓う

 市場は多くの人で賑わっていた。その中で、白いワンピースを身にまとったリアは、まるで純白の百合のように人々の視線を引きつけていた。それに気づいた愛理が、からかうような笑みを浮かべて言う。

「ねえ、みんなリア姉を見ているよ?」

 その一言に、リアの頬は瞬く間に赤く染まり、足取りがぎこちなくなる。

 真一はそんな彼女の様子に気づき、優しく声をかけた。

「気にしなくていいよ。ただ、みんな君が綺麗だって思っているだけだから。」

 その言葉はあまりにも自然で、まるで当たり前の事実を述べるかのようだった。リアの顔はさらに赤くなったが、緊張は少し和らいだようだった。

 三人は市場を歩きながら、やがてあるアクセサリーの屋台の前で足を止めた。その中で、真一の目は一つの銀色の花冠のヘアバンドに引きつけられた。

 繊細な銀の糸で編まれたそのヘアバンドは、小さな白い花がちりばめられた美しいデザインだった。彼はそれを手に取り、リアの前に歩み寄ると、静かに言った。

「……きっと、すごく似合う。」

 真剣なまなざしに、リアは思わず息をのんだ。戸惑いながら首を横に振り、視線をそらす。

「そ、そんな……いいよ、私は……」

 だが、真一はすでに代金を支払っていた。そして、リアの前に立ち、そっと問いかける。

「……つけてもいい?」

 リアの心臓が高鳴る。全身がこわばり、頬には明らかな紅潮が広がった。それでも、彼の真っ直ぐな眼差しに抗えず、彼女は小さく頷く。

「……うん。」

 真一は慎重に、けれど優しく、リアの髪にヘアバンドを添えた。銀色の花冠は彼女の栗色の巻き髪と見事に調和し、まるで森に住む精霊のような雰囲気を醸し出している。

 リアが鏡の前でそっとスカートの裾を引くと、その姿はまるで春の女神のように、儚くも美しかった。

「……なんて美しいのだ。」

 真一はそっとつぶやく。その瞳には、隠しきれない賞賛と驚きが浮かんでいた。

 リアはその言葉を聞いた途端、心臓がさらに速く打ち始め、頬が一層熱くなる。恥ずかしさのあまり、彼の顔をまともに見ることすらできなかった。

 二人の視線が交わると、空気がぴんと張り詰め、微妙な感情が漂い始める。

 真一の眼差しは優しくも揺るぎなく、リアの鼓動はますます速くなった。胸の奥には、甘くて切ない思いが満ちていく。

 そんな雰囲気を察した愛理が、絶妙なタイミングで場を和ませるように茶化す。

「わぁ、さすが真!見る目あるね!リア姉って、まるで森の女神みたい!」

 その一言で、リアはさらに恥ずかしくなり、思わずうつむいた。

 その後、彼らは市場を歩き続ける。リアは相変わらず目を伏せ、周囲の視線を意識しすぎてしまう。一方、真一は時折彼女をちらりと見つめ、その眼差しには優しさと気遣いが滲んでいた。

 そんなリアの様子に気づいた真一が、そっと尋ねる。

「リア、大丈夫?」

 リアは小さく頷き、控えめに答えた。

「うん……でも、ちょっと人が多すぎて……」

 それを聞いた真一は、すぐ近くの東屋を指さし、優しく提案する。

「向こうで少し休もうか?」

 彼は、少しでも彼女が落ち着けるよう気遣っていた。

 リアは素直に頷き、二人で東屋へ向かう。ベンチに腰を下ろすと、真一は「飲み物を買ってくるよ」と言い、席を立った。

 その頃、愛理は甘い香りに誘われるように、楽しげにデザートの屋台へと向かっていった。

 東屋には、リア一人だけが残された。

 彼女は緊張した面持ちで木のベンチに座り、スカートの裾をそっと指でいじる。頭の中では、真一が優しく自分の髪にヘアバンドをつけてくれた光景が、何度も繰り返されていた。心臓の高鳴りは、まだ収まらない。

 そんな彼女の思考を遮るように、不意に見知らぬ男が近づいてきた。

「お嬢さん、一人? ちょっとお話ししない?」

 軽薄な口調で囁く男の目には、明らかに下心が見え隠れしている。

 リアは一瞬で緊張し、戸惑いながら口を開く。

「い、いえ……友達を待っているので……」

 か細く震える声。しかし、男は引き下がるどころか、さらに数歩距離を詰めた。

 ――そのとき。

「彼女は君の相手をするつもりはない。」

 冷静かつ鋭い声が響いた。

 リアが振り向くと、真一が飲み物を手に持ち、険しい表情でこちらへ向かってくるところだった。

 男は彼の鋭い視線に気圧されたのか、バツの悪そうに苦笑いを浮かべると、その場を立ち去った。

 真一はリアの前に立ち、優しく問いかける。

「大丈夫?」

 彼の声は穏やかで、それでいて頼もしさに満ちていた。その瞬間、リアの張り詰めていた心がふっと緩む。

 彼女はそっと首を横に振り、潤んだ瞳で小さく呟いた。

「……ありがとう。真一くんが来てくれなかったら、どうなっていたか……」

 真一は微笑みながら、そっと彼女に飲み物を手渡す。そして、揺るぎない声で言った。

「君は一人じゃない。僕が、ずっとそばにいるから。」

 リアはそっと飲み物を受け取り、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。

 真一の優しさと強さが、心の奥深くに染み渡っていく。

 そして、彼への想いが、もはや否定できないほど大きくなっていることに気づいた。

 けれど――この気持ちを、どう言葉にすればいいのか。

 まだ、分からなかった。

 だから今は、そっと胸に秘めておくしかない――。

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