03 潔白な装いに揺れる秘めた想い
朝早くから、愛理は妙にウキウキしていた。リアがチームに加わって以来、彼女の些細な感情の変化から、ある秘密に気づいてしまったのだ――それは、真一に対する言葉にしづらい特別な想い。
リアの恥ずかしそうな態度、頬を染める仕草、そして彼の目をまともに見られない様子を、愛理が見逃すはずもない。
「さて、そろそろこの鈍感な二人を手助けする時ね。」
そう密かに決意したものの、直接問い詰めるつもりはなかった。
代わりに、ちょっとした“仕掛け”を使って、二人の距離を縮める計画を立てた。
その日、愛理は軽やかに提案した。
「今日は市場で気分転換しようよ!リア姉、あんまりゆっくり見て回ったことないでしょ?」
自分の名前を呼ばれた瞬間、リアの頬はぱっと赤くなり、戸惑いながら小さな声で返した。
「わ、私は……別に……」
断ろうとしたものの、愛理が簡単に引き下がるはずがない。彼女はリアの手を取り、にっこりと微笑んだ。
「いつも戦闘服ばっかり着ているし、たまには新しい服を選んでもいのじゃない?」
愛理の強引な誘いに、リアは少したじろぎながらも、結局折れることにした。それを見た真一は、少し呆れつつも断りきれず、二人に付き合うことになった。
市場は多くの人で賑わい、色とりどりの屋台が軒を連ねていた。三人は並んで歩いていたが、ふと愛理が真一の腕に軽く手を回し、いたずらっぽく笑って言った。
「今日はリア姉の服を選ぶのだからね。ずっと戦闘服ばかりじゃダメでしょ?」
真一は軽く頷き、リアを見て優しく言った。
「確かに。戦闘服は普段着には向かないし、リラックスできる服を選んだほうがいのじゃないか?」
その言葉に、リアの頬はさらに赤くなり、消え入りそうな声で呟いた。
「わ、私……どんな服がいいのか分からなくて……」
彼女は幼い頃からエルフの部族で自然と共に生きてきたため、他の種族の文化、とくに服装についてはあまり馴染みがなかったのだ。
愛理はくすっと笑いながらリアの肩を軽く叩き、意味ありげな視線を真一へ向けた。
「大丈夫!今日は私たちが選んであげるわ!」
そして、真一を見上げると、わざとらしく言った。
「ね、真?ちゃんと意見言ってよ?」
真一は愛理の意図を完全には理解していなかったが、苦笑しながら頷いた。
そのまま三人は服屋へ向かい、愛理は目を輝かせながら、いろいろなスタイルの服を選んでリアに手渡した。
「これ、着てみて! ピンクのワンピース、すごく似合いそう!」
愛理が差し出したのは、淡いピンクのワンピースだった。リアは一瞬ためらった。
「この色……ちょっと派手すぎない?」
明らかにこうした服に慣れていない様子だったが、愛理の後押しもあり、意を決して試着室へと入っていった。
しばらくして、ワンピース姿のリアが姿を現すと、真一は思わず息を呑んだ。
淡いピンクのドレスを身にまとったリアは、どこか儚げで、いつもの凛々しい雰囲気とはまるで違っていた。
彼女は恥ずかしそうに視線を落とし、そっとスカートの裾を握りしめる。頬には淡い紅が差していた。
「……すごく、似合っている。」
真一は少し気まずそうに言いながら、無意識に視線を逸らした。
いつも戦闘服姿しか見ていなかったせいか、不意に現れた彼女の柔らかな雰囲気に、どう反応すればいいのかわからなくなっていた。
愛理はリアにいくつか異なるスタイルの服を選び、次々と試着させていた。
やがて満足そうな表情を浮かべると、白いキャミソールワンピースを取り出し、リアに手渡す。
「これが一番似合うわ。さあ、試してみて!」
リアは少し不安を感じながらも、ワンピースを受け取り、試着室へ向かった。
そして——再び姿を現した瞬間、真一と愛理は息を呑んだ。
白いワンピースは軽やかでフェミニンなデザインで、リアの優雅さと繊細な魅力を際立たせていた。
彼女はそっとまぶたを伏せ、鏡の前でスカートの裾を軽くつまむ。
栗色の長い巻き髪がふわりと揺れ、まるで清らかな光に包まれているかのようだった。
真一は、まるで雷に打たれたかのように彼女をじっと見つめ、しばらく動けなかった。
そんな彼を見て、愛理はくすっと笑い、軽く背中を押す。
「見惚れちゃった? ほらね、やっぱりこれが一番似合うと思ったの!」
ようやく我に返った真一は、感嘆のこもった声で言った。
「……本当に、綺麗だ。」
リアはその言葉を聞いた瞬間、ぱっと頬を赤らめ、彼を直視できなかった。唇を軽く噛みながら、戸惑ったようにスカートの裾を指でつまみ、小さな声で尋ねる。
「本当に……変じゃない? こういう服、慣れてなくて……」
愛理は即座に明るく言い切った。
「そんなの気にしなくていいよ! 真も綺麗って言っていたし、これに決まり! 今日はこのまま市場を回ろう!」
リアが反論する間もなく、愛理は彼女の手を取り、レジへと向かった。真一は黙ってその後をついて行きながら、先ほどの光景を思い返していた。胸の奥で、言葉にできない複雑な感情がゆっくりと広がっていく。