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27 闇を越えた愛の誓い

 サティーナの声は、深淵から響くように冷たく、そして断固たるものだった。静かに目を閉じ、ひとつため息をつく。それは、これから放つ攻撃へのほんのわずかな躊躇のようにも見えた。

 彼女の掌の中で闇の魔球が急速に膨れ上がり、周囲のすべてを覆い尽くしていく。まるで世界の光を一つ残らず飲み込もうとするかのように——。

 サティーナが手首を軽く振ると、黒き魔球は隕石のごとく真一と愛理のもとへと落ちていった。

 瞬間、天地が揺れ、世界が震撼するほどの轟音が四方に響き渡る。砂塵が舞い上がり、濃い灰色の霧が空を覆い、まるで黒き帳がこの戦場を呑み込んでいくかのようだった。

 やがて、あたりは静まり返る。

 響くのは、風が唸る音と、遠くで崩れ落ちる岩の音のみ。闇の中で光が次第に掻き消え、まるで希望さえもその瞬間に途絶えたかのようだった。絶望の気配が重く漂い、息苦しささえ覚えるほどに。

 しばしの静寂の後、サティーナはゆっくりと手を下ろし、塵に覆われた戦場を静かに見つめた。

 心の奥に、一抹の哀惜がよぎる。

 彼女は、真一たちの勇気を目の当たりにし、そして互いを想う純粋な心に深く感銘を受けていた。しかし、戦場は非情。勝敗こそが、すべてを決するのだ。

「暗闇の中で安らかに眠れ……。」

 サティーナは静かに呟いた。その声はまるで遠くから響いてくるようで、どこか優しさと荘厳さを帯びていた。それだけではない。そこには微かに、悔恨にも似た哀愁が滲んでいた。

 彼女の視線が、闇に覆われた戦場をゆっくりと横切る。その瞳には、今や沈黙した不屈の戦士たちへの深い敬意が宿っていた。まるで、彼らに最後の黙祷を捧げるかのように。

 ——だが。

 静寂を切り裂くように、突如として鋭い声が響いた。

「……悪いな、期待を裏切ってしまったようだ。」

 その声は、暗闇を貫く一筋の光のようだった。紛れもなく、揺るぎない自信と決意を帯びた声——。

 サティーナの眉がわずかに動く。その表情には、隠しきれぬ驚きが浮かんでいた。

 彼女の視線が、声のした方向へと向かう。

 舞い上がった塵が、ゆっくりと晴れていく。その向こうに、ぼんやりとした影が浮かび上がる。そして、その輪郭が徐々に明瞭になっていった——。

 真一。

 彼は、ゆっくりと塵の中から姿を現した。

 その腕の中には、意識を失った愛理がいた。まるで壊れやすい宝石を扱うかのように、彼は彼女を優しく抱きしめていた。

 衣服は無惨に破れ、全身に刻まれた無数の傷跡が、先ほどの死闘の激しさを物語っていた。しかし、それでもなお、彼の瞳には決して消えることのない炎が燃え続けていた。

 その瞳が、サティーナに告げていた。

 ——僕たちは、まだ終わっていない。

「……どうやら、戦いはまだ終わりじゃないようだな。」

 真一は微かに笑みを浮かべ、まるで恐れを知らぬかのようにサティーナを真っ直ぐに見つめた。

 彼が立ち上がるのを目の当たりにし、サティーナの胸中には複雑な感情が渦巻く。

 しかし、そこに怒りはなかった。むしろ、心の奥底から湧き上がる賞賛、そして……僅かな喜びがあった。

「……汝、まだ生きているの?」

 真一はゆっくりと顔を上げ、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。

「簡単に諦めるわけないだろう……僕は彼女を、絶対に誰にも傷つけさせないって誓ったのだ。」

 そう言いながら、彼は腕の中の愛理を見つめる。その眼差しには、確かな優しさがあった。

 次の瞬間、彼はそっとリアのもとへ歩み寄り、慎重に愛理を彼女の腕へと託す。その仕草からは、深い信頼が感じられた。

「……この戦い、あとは僕に任せてくれ。彼女のことは、君に託す。」

 低く、しかし力強いその声には、一点の迷いもなかった。

 リアは彼を見上げ、悲しみと喜びが入り交じった複雑な感情を瞳に宿し、すすり泣きながら小さく頷いた。そして、両手で愛理を強く抱きしめる。

 真一は彼女の前に立ち、ゆっくりと振り返ると、闇の力が渦巻く方向を見据えた。

 その目には、一点の迷いもない不屈の決意が燃えている。

「お願い……必ず、生きて帰ってきて……」

 リアの声は震え、嗚咽にかき消されそうだった。

 彼女の瞳は不安と切なさで満ち、今にも涙がこぼれそうになる。

「私たちは、みんなあなたが必要なの……もう二度と、置いていかないで……」

 真一は静かに彼女を見つめ、優しく微笑むと、しっかりと頷いた。

「もう二度と、君たちを失望させたりしない。」

 そう言って、彼は背筋を伸ばし、まっすぐにサティーナを見据えた。

 その瞬間、彼を包んでいた疲労はすべて吹き飛び、燃え上がる闘志だけが、その瞳の奥で烈しく揺らめいた。

 サティーナは、そんな彼の姿をじっと見つめていた。

 彼女の瞳に宿っていた冷酷な色は、次第に薄れ、代わりに、ほんのわずかだが敬意の色が滲む。

 真一はゆっくりと顔を上げ、サティーナと視線を交わす。そして、静かに、しかし力強く頷いた。

「どんな危険があろうとも、僕は最後まで彼らを守る。たとえ、君のような強者が立ちはだかろうとも……僕の信念が揺らぐことはない。」

 サティーナは微かに目を細めると、無言の敬意を示すように、ゆっくりと頷いた。

「……確かに、汝らは我に深き印象を刻んだ。もし機会があれば――我は、汝らと共に戦うことも、やぶさかではない。」

 その声には、普段の冷酷さとは異なる、僅かながらも確かな情が滲んでいた。

 それは、彼らに対する最大限の敬意の表れだった。

 真一は目の前の強大な対手を見据え、その言葉の奥にある想いを感じ取りながら、静かに息を吸い込む。

 そして、真っ直ぐに立ち、一歩前へ踏み出した。燃え上がる闘志を宿した瞳で、力強く告げる。

「……だが、今日のところは、勝負をつけねばならない。」

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