26 愛をとりもどせ!!
だが――
絶望の淵で、それは微かに聞こえた。
優しく、懐かしい、あの声が。
「真……生きて……諦めないで……私は、いつもあなたのそばにいるよ……」
愛理の声だ――!
まるで灯台の光のように、その声が真一の薄れゆく意識を揺さぶった。
残された力を振り絞り、彼はその声のする方へと手を伸ばす。
まだ、目の前はぼやけている。だが、確かに見えた。
懐かしいその姿が、淡い光をまといながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「……愛理?」
かすれた声が、驚きと困惑を滲ませる。
闇の中に浮かぶ愛理の瞳には、深い悲しみと焦燥が揺れていた。
震える声で、彼女はゆっくりと一歩ずつ歩み寄る。
「どうして……そんなに簡単に諦めちゃうの?」
彼女の声は、掠れていた。
「ねえ……私だけじゃない。みんな、あなたが必要なの。」
真一は言葉を失った。
なぜ彼女がここにいるのか?
これは現実なのか?
それとも――
胸の奥に、言いようのない悲しみが広がっていく。
「……どうして、君がここに……?」
「これは……現実じゃないよな?
まさか……」
不安げな瞳が、揺れる。
「君は……もう……」
愛理はそっと首を振った。
彼の手を包み込むように優しく握る。冷たいはずなのに、不思議と温もりを感じた。
「私は……まだ、生きているよ。」
愛理の声はかすかに震えていた。
頬を涙が伝う。それでも、彼女は微笑んだ。
「私は……あなたを探しに来たの。ただ、真を連れ戻すために。」
静かに、涙がこぼれ落ちる。その一滴一滴に、切なくも揺るがぬ想いが滲んでいた。
「……一緒に戦うって、みんなを守るって、約束したじゃない。」
真一の胸が、大きく揺れる。
愛理の声には、深い愛情と気遣いが滲んでいた。その温もりが胸に届いた瞬間、彼は顔を伏せ、わずかに罪悪感をにじませながら呟いた。
「僕は……自分が強いと信じていた。君たちを守れるほどに……でも……」
苦笑がこぼれる。後悔に満ちた瞳が、揺れた。
「僕は弱すぎた。大切な人を、守りきれなかった……」
愛理は彼の手をしっかりと握り、力強く首を振る。
「違うわ!そんなことない……!
私にとって、真はずっと一番強い存在よ!」
涙を拭い、まっすぐに彼を見つめる。
「どんなに辛くても、真は必ず立ち上がる人よ。どんな困難にも、きっと立ち向かえるはず。」
真一の喉が詰まり、言葉にならない。ただ、愛理を見つめるしかなかった。
彼女の瞳には、確かな愛と揺るぎない信念が宿っていた。
愛理は静かに顔を上げ、真っ直ぐに彼を見つめながら、優しくも強い声で言った。
「私は、真を信じている。だから、きっともっと強くなって戻ってきて。あなたには、まだ果たすべき約束がたくさんあるわ。」
一呼吸置き、そっと微笑む。
「そして……私は、向こうで真が帰ってくるのを待っている。」
愛理の揺るぎない想いが、真一の心の奥に深く響く。彼女の眼差しの中で、胸を覆っていた暗雲が少しずつ晴れていった。
しばらくの沈黙の後、真一は低く呟く。
「……君の言う通りだ。」
彼の目には、新たな希望の光が宿っていた。
「諦めちゃいけない。君が待っている限り……僕は必ず戻る。そして、もう一度君を守る。みんなを守る。」
愛理の瞳から、抑えきれない涙が零れ落ちる。彼女はそっと近づき、両手で真一の頬を包み込み、囁くように言った。
「この想いを……忘れないで。私は、向こうで待っているから。」
彼女の声は春風のように優しく、揺るぎない温もりを帯びていた。そして、そっと彼の額に唇を寄せる。
その瞬間、真一の胸に温かな力が湧き上がった。それは彼女の想いの光。心の闇を打ち消し、恐怖を溶かし、彼の内側から絶望を払い去っていく。
愛理の唇から淡い光が流れ出し、真一の全身へと広がる。彼の目には、再び強い決意の炎が灯った。
――彼女との約束。
――彼女を守るという誓い。
「ありがとう……」
彼はそっと呟き、愛しげに彼女を見つめる。愛理は微笑みながらその視線を受け止め、柔らかな光が暗闇を押し流していく。
「行って……私は向こうで待っている。無事に帰ってきて……」
光は次第に強さを増し、二人の姿を包み込む。そして、やがて一つに溶け合った。
真一は目を閉じ、その温かな力が体に満ちていくのを感じる。それは、彼女の信頼と愛の具現――彼が再び立ち上がるための光。
光の中で、二人の姿はゆっくりと消えていった。
すべての迷いが払われ、暗闇の世界にはただ柔らかな光だけが残る。それは、二人の魂を繋ぐ、決して消えることのない絆。
――生死を超えて、二人の約束は決して消えない。
戦場には、嵐の前のような冷たく張り詰めた空気が満ちていた。
サティーナは漆黒の翼を広げ、虚無に染まった戦場を見下ろしていた。彼女の周囲では闇の魔力が渦を巻き、掲げた手の中で揺らめく黒い魔球が、光をも呑み込むかのような圧倒的な破壊の気配を放つ。
空気はますます重くなり、まるで時間が止まったかのように感じられた。
愛理は力尽きたように真一の胸に崩れ落ちた。顔は青ざめ、意識は完全に途絶えている。苦痛に歪んだ表情が、彼女の背負う重圧の深さを物語っていた。
その傍らで、リアは呆然と地に座り込んでいた。虚ろな瞳は、まるで枯れ果てた花のよう。肩を震わせながら、静かに涙を零す。その雫は、彼女の心の奥底に眠る、言葉にできない悲しみを映し出していた。
リアの目には、どうしても抗えぬ運命への絶望が宿っている――。
「暗闇の中で安らかに眠れ。」




