23 終焉に舞う涙
それを見たサティーナの瞳に、ほんのわずかだが賞賛の色が滲んだ。しかし、彼女はゆっくりと首を振る。まるで彼らの愚直なまでの抵抗に呆れつつも、どこか楽しんでいるかのように。
「汝らの粘り強さには感心するわ。でも──無駄よ」
巨大な魔剣が振り下ろされる。
瞬間、轟音とともに爆発が巻き起こった。
真一たちは必死に回避しようとするが、爆風の衝撃は凄まじく、全員が地面へと叩きつけられる。
真一の体は勢いよく地面に転がり、背中に鋭い痛みが走った。それでも彼は歯を食いしばり、震える手で剣を支えながら、必死に立ち上がろうとする。
「倒れるわけには……いかない……!」
その瞳には、なおも消えることのない炎が灯っていた。
「彼女を止めなきゃ……何があっても……!」
「精神感応」を通じて、愛理の声が響く。疲労の滲む声色だったが、その決意は揺るぎないものだった。
サティーナはそんな彼らを見下ろし、ふっと息をつく。
その瞳には、わずかばかりの惜しむような色が宿っていた。
「汝らの執念深さには、正直、心を打たれるわ。でも……」
彼女は再び、魔剣を掲げる。
「戦争に、情けは無用よ。」
空気が圧迫感に満ちる。まるで、この瞬間、破滅が訪れるかのように──。
この土壇場で、真一は歯を食いしばり、剣の柄を強く握りしめると、サティーナへと猛然と突進した。身体はすでに限界に近づいていたが、その瞳にはなおも揺るぎない闘志が燃えている。長剣は閃光を放ち、一直線にサティーナの心臓を狙った。
サティーナは難なく剣を振るって受け止めたが、今度は真一が押し返されることはなかった。彼は体の慣性を利用し、圧倒的な力でねじ伏せるようにして押し込み、サティーナをわずかに後退させる。
「ふん、まだ諦めないの?」
サティーナはわずかに眉をひそめ、目の奥に一瞬の驚きを浮かべた。
その隙を突き、愛理とリアが一斉に攻撃を仕掛ける。愛理が素早く引き金を引くと、数発の弾丸がサティーナの側面へと一直線に飛んでいった。同時に、リアが詠唱を完了させ、青白く輝く魔法の水球を放つ。それは弾丸を避ける隙すら与えぬよう、サティーナの頭上へと飛んでいった。
しかし、サティーナの動きはなおも俊敏だった。彼女は剣を振るい、弾丸を容易く弾き飛ばすと、同時に大きく翼を広げて軽やかに宙へと舞い上がり、リアの魔法を難なくかわした。
「こんな攻撃では話にならないわ。」
サティーナは嘲笑しながら翼をはためかせ、両手に破壊の魔力を凝縮し、より苛烈な一撃を放つべく構える。
低く響く唸り声と共に、巨大な魔法球が猛スピードで真一と愛理へと迫る。その範囲は広大で、もはや回避する余地すらない。
愛理の心臓が凍りついたように沈み、恐怖が思考を支配する。しかし、身体の反応はほんの一瞬、遅れた。
「愛理、危ない!」
真一は魔法球の脅威を察知するや否や、ためらうことなく愛理へと飛び込み、その小さな身体を強引に突き飛ばした。愛理は驚愕の表情を浮かべたが、抵抗する間もなく弾き飛ばされ、かろうじて致命的な直撃を免れる。しかし——真一は避けることができなかった。
次の瞬間、サティーナの魔法球が轟音と共に彼を直撃した。
暗黒のエネルギーが奔流のごとく真一を呑み込み、爆発の衝撃波が空間を引き裂く。
炸裂した黒き魔力が激しく吹き荒れ、紅い飛沫が空に舞った。
愛理の瞳が大きく見開かれる。
心臓がぎゅっと締めつけられ、体から力が抜けていく。
手から銃が滑り落ち、膝が崩れ、地面に倒れ込んだ。
暗闇の中で、次第に霞んでいく真一の姿。
血を吐きながら、彼はよろめき、その場に崩れ落ちる。
「真……」
喉が震えた。言葉が声にならない。
視界が涙で歪む。
恐怖と絶望が津波のように押し寄せ、彼女の思考を呑み込んでいく。
愛理は這うようにして真一のもとへ駆け寄り、その身体を強く抱きしめた。
冷たくなり始めた彼の頬にそっと手を添える。
彼の表情は痛みに歪んだまま。
自分の指がかすかに震えているのを感じながら、彼の顔を撫で、名を呼んだ。
「真……真……お願い……目を開けて……」
愛理の声はかすれ、嗚咽が漏れる。
目の前の現実が信じられなかった。
血に染まる彼の姿が、見る間に霞んでいく。
「……いや……やだ……置いていかないで……お願い……」
涙はとめどなく流れ、愛理の頬を伝い、真一の胸元を濡らした。
彼の温もりが、ゆっくりと冷たくなっていくのを感じる。
愛理の心が千々に引き裂かれ、喉の奥から慟哭がこぼれた——。
彼女の視界は次第に暗くなり、まるで世界そのものが果てしない闇に呑み込まれていくかのようだった。
世界が崩れ落ちる音が聞こえた気がする。
目の前のすべてが、粉々に砕け散っていく──。
「真……」
かすれた声が漏れた。涙で視界が滲み、目の前の現実を受け入れることができない。
彼が、本当にこんな形で自分を置いていくなんて──信じたくなかった。
彼女の涙が、静かに真一の頬に落ちる。まるで彼を引き留めようとする最後の願いのように、その一滴には底知れぬ悲しみと喪失の痛みが滲んでいた。




