21 終焉を呼ぶ黒翼
温度が急激に低下し、真一はまるで氷牢に閉じ込められたかのような錯覚を覚えた。胸が締め付けられ、呼吸が乱れる。意識を保つことすら必死だった。
サティーナの白い指先が、しなやかに宙を舞う。
すると、突如として空間が歪み始める。深く低い咆哮とともに、漆黒の巨剣が虚空から落下した。
ズンッ!!
大地に突き刺さった剣が、不吉な紫色の光を放ち、刃に刻まれた古のルーン文字が妖しく脈動する。その刹那、辺りの大気は凍り付き、凍てつくような瘴気が一帯を包み込んだ。
サティーナがゆっくりと魔剣へと歩み寄る。彼女の纏う気配はさらに凄みを増し、まるで世界の色すらも失われていくようだった。
剣の柄に指をかけた瞬間、彼女の瞳は狂熱に輝き、血を求める獣のような笑みがその唇に浮かぶ。
彼女は静かに問いかけた。
「さあ……本当の破滅に、備えるがいい。」
その声は闇に囁く魔女の呪言のようでありながら、どこか甘美な誘惑をも孕んでいた。戦いそのものが、彼女にとっては快楽の宴なのか。
魔剣が微かに震え、血の饗宴を待ちわびるかのように鈍い音を響かせる。
真一、愛理、そしてリアの胸中に、鋭い警鐘が鳴り響いた。
目の前の敵は、ただの強者ではない。
それは、狂気と冷血に満ちた――戦いそのものを歓喜する、魔王軍の戦士だった。
真一は大きく息を吸い込み、素早く構えた。両足をしっかりと地面に踏みしめ、手にした金属塊を頑丈な盾へと変える。その瞳に宿るのは、退く気配など微塵もない、強敵を前にした揺るぎない決意と冷静さだけだった。
愛理は銀色の双銃を構え、「精神感応」を発動させ、サティーナの心の揺らぎを捉えようとする。一方、リアは両手で魔法の杖をしっかりと握りしめ、古代精霊語を小声で唱えた。杖の先端にはまばゆい緑色の光が灯り、いつでも支援できるよう準備を整えている。
静寂の中、戦いの幕が上がろうとしていた。
――次の瞬間、激突する。
張り詰めた空気の中、時間が止まったかのように感じられた。サティーナの魔剣が低く唸りを上げ、その漆黒の刃があらゆる光を飲み込む。剣に宿る紫の輝きが妖しく瞬き、不吉な予感を漂わせていた。
「どれほど耐えられるか、試してあげるわ。」
サティーナは残酷さと期待を滲ませた笑みを浮かべると、瞬時に跳躍。破滅の力を宿した魔剣が真一へと振り下ろされた。空気が引き裂かれ、耳をつんざく轟音が響く。
真一は考える間もなく、本能的に盾を構えた。雷鳴のごとく魔剣が炸裂し、凄まじい衝撃とともに盾が激しく震える。衝撃で腕が一瞬にして痺れた。だが、サティーナの攻撃は止まらない。次なる一閃が即座に襲いかかる。一撃ごとに凄まじい威力が込められ、真一は防戦一方のまま、後退を余儀なくされた。
「この力……強すぎる!」
歯を食いしばる真一の額を汗が伝い、足がわずかに震える。それでも、なんとか踏みとどまろうと必死に耐えた。
その隙を見逃さず、リアが古代精霊語を詠唱する。緑の光が瞬き、地面から数本の太い蔦が突如として現れた。サティーナの足元へと絡みつき、動きを封じようとする。
「くだらない小細工を!」
サティーナの目に、一瞬軽蔑の色がよぎる。彼女が魔剣を軽く一振りすると、凄まじい魔力が爆発的に放たれた。その一撃で、蔦は瞬く間に灰燼と化す。まるで邪魔な虫でも払うかのように、無造作に剣を振るった。
だが、その瞬間を狙い澄ましていたのが愛理だった。
銀色の双銃が閃き、彼女の急所を正確に狙った弾丸が放たれる。空気を裂く鋭い音とともに、次々と銃弾がサティーナを襲った。
しかし、サティーナはまるで稲妻のごとき速さで動く。
軽やかに宙を舞い、優雅にすべての弾丸を回避する。
暗闇の中を光の軌跡のように疾駆し、真一たちの目でさえその動きを捉えきれない。
まるで、抗うことすら許されぬ絶望がそこに具現しているかのようだった。
「速すぎる……!まるで当たらない!」
愛理は歯を食いしばる。
サティーナの速度も、力も、想像を遥かに超えていた。
だが、真一は諦めなかった。
「逃げてばかりじゃ、勝てない!」
息を整え、恐れを振り払い、一気に踏み込む。
手にした盾を瞬時に長剣へと変化させる。
銀色の刃が眩い光を放ち、その決死の覚悟を映し出した。
「はあああああっ!」
一閃――。
魂を燃やし、サティーナに向かって渾身の一撃を繰り出す。
しかし――
サティーナは冷笑を浮かべたまま、余裕の動きで魔剣を振るい、その一撃をいとも容易くいなした。
鋼がぶつかる轟音が響き渡る。
衝撃に耐えられず、真一の身体が数歩後退する。
だが、彼は歯を食いしばり、視線を逸らさぬまま立ち上がった。
目の前の強敵を、決して見失うまいと――。
「ふふ……。汝の力、なかなか面白いわね。」
サティーナは口元を歪め、嘲るように笑う。
その瞳に、一瞬だけ興味の色が宿った。
だが次の瞬間、冷酷な輝きがその瞳を支配する。
「でも――遊びはもう終わりよ。」
突如として巨大な黒い翼を広げ、一瞬にして空へと舞い上がる。
その身体は空中で優雅な弧を描き、瞬く間に魔力が彼女の手に凝縮されていく。
空気が震え、まるで無数の雷鳴が共鳴するかのような鋭い唸り音が響き渡る。
彼女は魔剣を高々と掲げ、漆黒の刃が荒々しい魔力を帯びる。
次の瞬間――
無数の魔弾が雨のごとく降り注ぎ、真一たちのいる場所を狙い撃った。
「避けろ!」
世界の終焉を告げる災厄のごとく迫り来る魔弾を目にし、真一は声を張り上げた。
愛理とリアは素早く身を翻して回避したものの、いくつかの魔弾が間一髪でかすめ、爆発の衝撃波に弾き飛ばされる。




