02 風に隠された儚い迷いの旋律
最近、真一はリアの様子がどこかおかしいことに気づき始めていた。彼女は以前のようにリラックスしておらず、無意識のうちに彼の視線を避けるようになり、彼が近づくと頬をわずかに染めることもあった。もともと内向的な性格ではあるが、最近の反応は特に顕著で、活発な愛理でさえ彼女をからかわずにはいられなかった。
ある日、三人は修行を終えた後、蓮華城の城壁のそばに座り、束の間の静けさを楽しんでいた。愛理はいつも通り元気いっぱいで、ツインテールをふわりと揺らしながら、真一と他愛のない話をしていた。
一方、リアは静かに隣に座り、栗色の長い巻き髪をそよ風になびかせていた。伏し目がちにスカートの端をぎゅっと掴み、時折こっそりと真一のほうをちらりと見るものの、すぐに視線を逸らし、頬をほんのりと赤らめる。
真一はそんな彼女の様子に気づき、困惑した。リアの態度の変化に、どこか漠然とした不安を覚える。自分が何か気に障ることをしてしまったのだろうか——。
「リア、最近ちょっと様子が変じゃないか? 何かあったのか?」
気づけば、真一は思わず口を開いていた。少し心配そうな声だった。彼はそっと身を寄せ、優しくリアの目を覗き込むように見つめる。
しかし、彼女の反応は予想外だった。リアは驚いたように肩をすくませ、慌てて視線を逸らす。そして、頬を赤く染めながら、小さな声で答えた。
「……な、何でもないよ。ただ、ちょっと疲れているだけ……」
その声は蚊の鳴くようにか細く、どこか戸惑いや緊張が滲んでいた。
真一の疑問は深まるばかりだったが、これ以上追及して彼女を困らせたくはなかった。後で二人きりで話せる機会を探そうと決める。
――そして数日後、ついにその機会が訪れた。
蓮華城の片隅で、真一は静かに深呼吸し、リアのもとへと歩み寄る。
「リア、ちょっと話したいことがあるのだ。」
その声は優しく、慎重だった。彼女に余計なプレッシャーを与えたくなかったし、彼女が繊細で内向的であることもよく分かっていた。できる限り無理をさせたくなかった。
「最近、僕のこと避けているよね?」
真一は率直に切り出した。まっすぐな瞳でリアの顔を見つめ、彼女の胸の内を探ろうとする。
「何があったのか分からないけど……もし僕が何か嫌なことをしちゃったなら、教えてくれないか? 君との間に誤解を生みたくないのだ。」
誠実な思いを込めてそう言いながら、そっと一歩、距離を縮める。近くで話すことで、少しでも彼女の緊張を和らげたかった。
しかし、リアはさらに戸惑った様子で、一歩後ずさる。そして、頬をさらに赤く染めながら、小さな声で呟いた。
「ち、違う……そうじゃない……真一くんのせいじゃないの……」
うつむく彼女の声はかすかに震えていた。その小さな肩も、わずかに震えているように見える。
真一はその反応を見て、思わず息をのんだ。もしかして、自分は知らないうちに何かしてしまったのか。何か大きな失敗を犯したのではないか。
しかし、近づこうとすればするほど、リアは後ずさるばかりだった。
――どうすればいい?
彼は率直な言葉で誤解を解こうとしたはずなのに、事態はむしろ、さらに複雑になってしまったようだった。
気まずい沈黙が流れ、重たい空気が二人の間に広がる。
結局、真一はそっとため息をつき、ひとまずこの話題を切り上げることにした。
「……僕、ちょっと焦りすぎたのかもしれないな。」
彼は柔らかく微笑みながら、優しく言葉を続ける。
「今はまだ話したくないなら、それでもいい。でも……何があっても、僕は君の味方だから。」
リアは顔を伏せたまま、頬を染めていた。その胸の内は、複雑な思いでいっぱいだった。
真一の優しさは痛いほど分かっている。けれど、それでもなお、自分の気持ちと向き合うのが怖かった。言葉にしてしまったら、二人の関係が変わってしまうかもしれない。
それだけが、どうしても怖かった。
真一が去った後、リアは彼の背中を見つめながら、後悔と葛藤に揺れていた。最近の自分の異変が、抑えきれない感情のせいだということを、彼に伝えることはできなかった。
いつか勇気を出して気持ちを打ち明ける日が来るかもしれない。しかし今は、言葉にできない複雑な想いを胸に、ただひとり悶々とするしかなかった。
ついに第22章を書き終えました! 今回はなかなか時間がかかったけれど、その分じっくり内容をブラッシュアップできたかなと思います。
次の章は回想編で、新キャラと主人公の間に隠された秘密が明かされます。
どうぞお楽しみに!