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19 終末の微笑

 真一は慎重に言葉を選ぶ。

「どうして…僕たちなんかに興味があるのだ?僕たちはただの普通の人間で、君の目には取るに足らない存在かもしれないのに。」

「普通?いいえ、我はそうは思わないわ。」

 サティーナは小さく首を振り、低く、しっかりとした声で続けた。

「アザールは魔王軍の先鋒に過ぎないけれど、希少な空間魔法を操る。その狡猾さを考えれば、魔王軍の中でも実力はトップ10に入るわ。そして、そんな彼に立ち向かい、見事に倒した汝らが、『普通の人間』なわけがない。

 敵であれ味方であれ、強者は常に敬意に値する。我はそう信じているの。」

 サティーナの言葉に、真一たちはしばし沈黙した。まさか、この女悪魔が自分たちをここまで高く評価するとは思ってもいなかったのだ。

 彼女の態度からは、最初に感じたような敵意は薄れ、むしろどこか承認されているような、不思議な感覚が漂っていた。

 サティーナはゆっくりと顎を持ち上げると、鋭い視線をリアへと向けた。その口元には、どこか含みのある笑みが浮かんでいる。

「汝が報告書にあった、魔王軍を裏切ったエルフの女なのね?」

 リアの肩が一瞬強張る。無意識のうちに杖をぎゅっと握りしめ、真一と愛理に視線を走らせた。

 不安の色が、ほんのわずかに顔に影を落とす。だが彼女は何も言わず、沈黙を貫いた。

「ふふ、最初はただの臆病者かと思っていたけれど……まさか、アザールを倒すのに大きく貢献するとはね」

 サティーナの声は穏やかだったが、その響きには、探るような挑発的な色が滲んでいた。

 彼女の目が妖しく光り、笑みがさらに深まる。まるで全てを見透かしているかのように。

「褒美として、汝の同胞のことを少し教えてあげましょう」

 彼女はさらりと言った。その声音は、まるで骨の髄まで凍りつく冷たい風のようだった。

「汝の同胞……特に、汝の妹は監禁されているけれど、今のところ命に別状はないみたい。でも……それがいつまで続くかは、分からないわね」

 その言葉は、重い鉄槌のようにリアの心を打ち砕いた。

 彼女の目は驚愕に見開かれ、全身が激しく震える。

 長時間押し殺してきた不安と恐怖が、一気に溢れ出した。

 涙が堰を切ったように溢れ、頬を伝いながら次々と零れ落ちる。

 必死に保とうとしていた強さは、この瞬間、完全に崩れ去った。

リゼール(Lyselle)……」

 リアは嗚咽しながら両手で口を押さえ、どうにか感情を抑えようとした。しかし、それでも涙は止まらない。呼吸は荒くなり、全身が感情の波に呑まれ、立っているのもやっとだった。

 隣にいた愛理は、そっとリアを抱きしめ、優しく髪を撫でながら、柔らかな声で慰める。

「リア姉、大丈夫……少なくとも、彼女はまだ生きている。だから、必ず助け出せるよ」

 まるで温かな川の流れのように、愛理の声はリアの心をゆっくりと癒していく。肩はまだ震え、涙は止まらなかったが、それでも愛理の言葉に少しだけ気持ちが落ち着いた。リアは深く息を吸い込み、涙に濡れた目でサティーナを見上げる。

 真一が一歩前に出た。その表情は真剣そのもの。

 リアがまだ冷静になれないと悟った彼は、代わりに口を開く。

「知らせてくれて、ありがとう。彼女が生きていると知れたことは、僕たちにとって大きな救いだ」

 サティーナはわずかに眉を上げ、口元に薄い微笑みを浮かべる。

「礼を言うには及ばぬ」

 淡々とした口調で言い放ち、さらに続けた。

「これは、ほんの些細な褒美に過ぎぬ」

 空気が一瞬、張り詰める。

 その静寂を引き裂くように、突如として数体の悪魔が闇の中から飛び出した。油断した真一たちを狙い、低いうなり声を上げながら鋭い爪を振り下ろす。

 ——しかし、それらが届くことはなかった。

 悪魔の爪がかすめるよりも一瞬早く、サティーナは軽く視線を向ける。次の瞬間、彼女が手をひらりと振ると、空気が震えた——。

 鋭い音が響き、悪魔たちは叫び声を上げる暇もなく、見えざる力によって引き裂かれた。血飛沫とともに肉片が宙を舞い、無惨にも四散する。まるで最初からこの世に存在しなかったかのように——。

 その場にいた真一、愛理、リアは、息を呑み、目を見開いたまま動けなかった。

 無言のまま悪魔を葬り去る——その一瞬の出来事を目の当たりにし、ようやく理解する。

 目の前の女悪魔が、ただならぬ圧倒的な力を秘めていることを。

 サティーナは、何事もなかったかのようにその場に立ち、悠然と微笑んでいた。

 ゆっくりと視線を落とし、優雅な仕草で髪をかき上げると、涼やかな声で言う。

「申し訳ないな。我の配下は時に、目も当てられぬほどに愚かでな。見苦しいものを見せた。」

 言葉は柔らかく、微笑を湛えてはいたが——そこに宿る冷徹な殺意と圧倒的な威圧感が、三人の心を鋭く揺さぶる。

 その優雅さと、底知れぬ強大さの対比が、彼女の存在感をいっそう際立たせていた。

 真一、愛理、リアの三人は、息をするのも忘れたかのように彼女を見つめるしかなかった。

 サティーナは微笑を崩さぬまま、じっと彼らを見つめる。

 その瞳は、まるですべてを見透かしているかのように——。

「これほどまでの力を持っているとは……見事だ。」

 彼女は柔らかく口を開き、静かに流れる水のような声が辺りに響く。

「だからこそ、我が軍に加わることを勧めよう。汝らの力があれば、我が軍はさらに強くなる。

 約束しよう。我の名にかけて、汝らと汝らの愛する者たちを、我が必ず守る。」

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