18 黙示録の高貴な悪魔
アザールとの死闘を終えた真一、愛理、リアは、未だ戦いの余韻に包まれていた。だがその時——突如として、魔王軍四天王の一人、サティーナ・アスモデウスが戦場に降り立った。
その存在は圧倒的な威圧感を放ち、場にいる者すべての心を凍りつかせる。サティーナは冷ややかに微笑みながら戦場を一瞥し、氷刃のごとき声で言い放った。
「ふん…あのアザールを討ち取る者などいるとは。全く思いもよらん事よ。
だが――汝らの勝ち鬨はこの我が断つぞ!」
彼女がゆっくりと手をかざした瞬間、濃密な闇のエネルギーが周囲を支配する。妖しく光る蛇のような瞳が宙に浮かび上がり、瞬く間に巨大な暗黒魔法陣が広がった。戦場全体が深紫の光に包まれ、同時に彼女の低い詠唱が響く。
空はたちまち漆黒の雲に覆われ、雷鳴が轟き、稲妻が走る。闇の力が怒涛のごとく彼女の体へと流れ込み、その圧迫感は極限にまで達した。空気が張り詰め、呼吸することすら困難になるほどだった。
「圧倒的な力とは何か——見せてあげる。」
言葉が終わるや否や、サティーナの手のひらから放たれた漆黒の魔力が、一直線に蓮華城の魔法障壁へと襲いかかる。
次の瞬間——
耳を裂く悲鳴のような音が響き渡る。障壁は激しい閃光を発し、無数の亀裂が蜘蛛の巣のように広がった。その場にいた者たちは息を呑み、この光景をただ見つめるしかなかった。
そして、その圧倒的な力に呼応するかのように、黒雲は一瞬で散り去り、太陽の光が地上へと降り注ぐ。
「こ、これは……なんて力だ……!?」
真一は崩壊寸前の障壁を信じられないという目で見つめ、拳を強く握りしめる。目の前の女悪魔が持つ力は、彼らの想像を遥かに超えていた。
「愛理ちゃん、感じた……?」
リアは唇を噛み、青ざめた顔で呟く。手にした魔法杖が小刻みに震えていた。その声には、抑えきれない恐怖が滲んでいる。
「これは……私たちには到底抗えない……どうすれば……?」
愛理は瞳を見開いた。「精神感応」のような感覚が意識を襲い、彼女ははっきりと感じ取った——サティーナの内なる、圧倒的な誇りと絶対的な自信を。
それはまるで、敗北という概念すら存在しない者の思考だった。
圧倒的な存在感に、彼女の体は無意識に震えていた。
「……わからない……。彼女の力は……私の理解をはるかに超えている……。」
サティーナは静かに歩を進める。
その足取りは優雅にして堂々、一歩ごとに目に見えぬ圧力を生じさせる。
深紫の縁取りが施された漆黒の鎧は陽光を受けて冷たく輝き、波打つ深紫の髪が風になびく。
その姿は、威厳と気品に満ち溢れていた。
緊迫した空気が張り詰める中、彼女はなおも泰然自若としていた。
まるで、この場のすべてが自らの掌中にあるかのように——。
「ごきげんよう。」
澄んだ泉のように美しく、それでいて決して軽んじることのできない威厳を湛えた声音が響く。
「我の名はサティーナ・エリクシス・ヴェルゼノヴァ・アスモデウス。
偉大なるヴァレリウス魔王の配下、四天王の一人。
サティーナと呼ぶことを許しましょう。」
深紅の瞳が細められる。
「汝ら——アザールを倒すとは……見事な戦いぶりだったわ。
特に——汝。」
サティーナの視線が、真一へと向けられる。
真一は一瞬、言葉を失った。
(彼女……本当に話をしに来ただけなのか……?)
彼女の放つ圧倒的なオーラに、未だ息苦しさが残る。
だが、意外なほど礼儀正しく穏やかな様子に、一瞬、戸惑いを覚えた。
自らを落ち着かせるように、ゆっくりと口を開く。
「……僕は、雷野真一。」
そう言いながら、少し身を翻し、隣にいる仲間を紹介する。
「こっちは、星川愛理。」
愛理は銀色の双銃を手にしたまま、静かに頷いた。その瞳には警戒の光が宿っていたが、冷静さを失うことはなかった。
「こちらはエルフ族、シルバーソング部族のリアです。」
真一は紹介を続ける。
リアは両手でしっかりと魔法の杖を握り、その杖からは淡い緑色の光が静かに流れていた。彼女の瞳には抑え込まれた強い決意が宿っている。警戒を解くことなく、短く返答した。
サティーナは愛理とリアに軽く視線を送り、微笑みながら応じる。
真一は続けて、「お褒めいただきありがとうございます。でも、今回の勝利はみんなの努力の賜物です」と答えた。
「分かるわ。」
サティーナはくすっと笑い、真一に視線を向ける。その瞳には、どこか感心したような色が浮かんでいた。
「でも、チームの中心として、汝が相当な責任を背負っていたのではなくて?」
その口調には真一への興味が滲み、ゆっくりと距離を縮めようとしているかのようだった。
リアは眉をひそめつつも、依然として警戒を解かない。小声で愛理に囁く。
「感じた?彼女…敵意はなさそうね。」
「ええ。」
愛理は頷いた。まだ疑念は拭いきれなかったが、確かにどこか穏やかな雰囲気を感じていた。
「彼女は強い自信を持っている。でも、私たちに敵意を向けているようには見えない。」
この時点で、サティーナは敵意も脅威もまったく示しておらず、むしろ友好的な訪問者のようにさえ見えた。真一たちは彼女の真意を測りかねていた。




